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認知症「鉄道事故」訴訟 「高齢の妻」への賠償命令を弁護士はどう見る?
老人が犠牲者となる鉄道事故が後を絶たない

認知症「鉄道事故」訴訟 「高齢の妻」への賠償命令を弁護士はどう見る?

認知症で徘徊(はいかい)症状のあった91歳の男性が、同居していた妻(当時85歳)の目が離れたすきに外出し、電車にはねられ死亡するという事故が2007年におきた。この事故によって振り替え輸送などの損害が出たとして、JR東海が約720万円の損害賠償を求めた裁判で、名古屋高裁判決は4月下旬、妻に約360万円を支払うよう命じる判決を下した。

長門栄吉裁判長は「男性の監督義務者の地位にあり行動把握の必要があった」「監督不十分な点があった」として、妻の責任を認定した。その一方で、「別居していた息子」については1審の判断を退け、監督義務者ではなかったとして、その責任を認めなかった。

また、「駅の監視が十分で、ホームにあった扉が施錠されていれば、事故発生を防止できたと推認される」として、JR側にも責任の一端があると指摘。1審が全額認めた賠償金額を半分にした。

判決に対しては、介護現場などから「在宅介護が成り立たなくなる」といった批判も出ている。今回の高裁判決をどのように受け止めればよいのだろうか。鉄道問題にくわしい前島憲司弁護士に聞いた。

●センサーの電源を切っていたことが問題視された

「認知症などで責任を負えない『責任無能力者』が他人に与えた損害の賠償責任は、その『監督義務者』が負う、というルールが民法にあります」

このように前島弁護士は切り出した。

「ただし、このルールには例外があって、監督義務者がその義務を怠らなかったときや、その義務を怠らなくても損害が生じただろうという場合は、責任を負わないとされています」

今回の裁判では、この民法のルールに基づいて、損害賠償が命じられたのだという。

「名古屋高裁の判決では、『監督者の義務違反の責任を問うために、その具体的な事件や事故が起きる可能性を監督者が認識していた必要はない』としています。そのうえで、結果回避措置を施すことを監督者に要求しています」

どんな点が「監督義務を怠った」とされたのだろうか?

「今回は、認知症の方が過去に徘徊したことがあり、事件・事故につながりかねない行動をとっていたのにもかかわらず、家の出入り口に設置していた出入り感知センサーの電源を切っていたことが問題視されたようです。家族側がセンサーを切っていたことについては事情があったようですが、裁判所には受け入れられませんでした」

●結果責任を負わせるのと同じような結論?

では、もしそうしたセンサーのスイッチが入っていたにもかかわらず、事故が起きてしまったというケースだったら、結論は変わるのだろうか?

「家族側が常識的な措置をとっていれば、賠償責任を免れる、という読み方もできるでしょう。しかし、介護の現状を考えると、結果責任を負わせるのと同じような結論になっているのではないか、という見方もできます」

結果責任というのは、「故意や過失がなくても、結果が生じてしまった以上は、その責任を取れ」という話だ。高齢者の徘徊問題は今後の日本社会で避けられない課題だと思われるが、こうした裁判が今後増える可能性もあるのだろうか。

前島弁護士は「個々のケースにもよりますが、鉄道会社側としては、家族への提訴についてハードルが低くなったといえると思います」と指摘していた。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

前島 憲司
前島 憲司(まえじま けんじ)弁護士 弁護士法人前島綜合法律事務所
神奈川県弁護士会所属・横浜家庭裁判所・家事調停委員。弁護士になる前に裁判所書記官として10年以上勤務した経験がある。商工会議所の役員やロータリークラブに所属するなどして地域経済に貢献する活動も行っている。鉄道模型や鉄道に乗る「乗り鉄」など鉄道趣味のほか、日本史や神社の歴史をたどるのも好き。

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