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「ホワイトカラー・エグゼンプション」は日本の経営をダメにする「毒薬」なのか?
日本では長時間労働が依然として問題となっている

「ホワイトカラー・エグゼンプション」は日本の経営をダメにする「毒薬」なのか?

政府は、5月28日に開かれた産業競争力会議で、一部の労働者について、労働時間ではなく成果で評価する賃金の仕組みを導入し、週40時間を基本とする「労働時間規制」を外す方針を決めた。いわゆる「ホワイトカラー・エグゼンプション」と呼ばれる仕組みで、効率的な働き方を促す狙いがあるという。

具体的にどのような職種や年収の労働者が対象となるのかは、今後の議論をふまえて決定される。現時点では、「中核・専門的部門の幹部候補とするべき」(産業競争力会議の民間議員)といった案のほか、「世界レベルの高度専門職に限定するべき」(厚労省)といった案も出ており、政府の内部でも意見が対立している。

労働法制の大きな変更となるホワイトカラー・エグゼンプションの導入について、弁護士はどう見ているのか。弁護士ドットコムに登録している弁護士にたずねたところ、「導入に反対」という意見が多数を占め、なかには「日本の経営をダメにする毒薬」という指摘もあった。

●「長時間労働が強要されるのは目に見えている」

ホワイトカラー・エグゼンプションの導入に賛成か、それとも、反対か。弁護士ドットコムでは、そのような質問を投げかけ、以下の3つの選択肢から回答を選んでもらった。

1 ホワイトカラー・エグゼンプションの導入に賛成する →2票

2 ホワイトカラー・エグゼンプションの導入に反対する →13票

3 その他 →3票

18人の弁護士から回答が寄せられたが、<「ホワイトカラー・エグゼンプション」の導入に反対>とする意見が最も多かった。反対したのは、回答した弁護士の約7割にあたる13人で、次のような意見が見られた。

「ホワイトカラーエグゼンプションの導入は、過酷な労働環境を悪化させるものでしかありません。収入により絞りが想定されているようです。しかし、収入が高い人であれば過労死してもよいのでしょうか」(齋藤裕弁護士)

「労働時間の規制を外せば、実際上、長時間労働が強要されるのは目に見えています。働く人の健康やワークライフバランスを害し、結果として、労働効率が下がり、発想の柔軟性が損なわれるでしょう。経営側の利益を実現する政策に見えて、実は、日本の経営をダメにする毒薬だと思います」(大貫憲介弁護士)

「専門性のある程度高い従業員であっても、日本の会社では、会社との関係では力関係は圧倒的に弱いというのが実情だと思います。会社と労働者が『合意』すれば残業代を払わなくて済むような制度ができてしまえば、容易に『合意』は事実上押し付けられることでしょう」(秋山直人弁護士)

●「無駄な残業をなくせるのならば、検討してもよい」

ホワイトカラー・エグゼンプションの導入に「賛成」と答えた弁護士は、2人と少数にとどまった。もっとも、「その他」を選択した弁護士の中には、次のように、制度の導入に一定の理解を示す声もあった。

「私自身サラリーマン出身ですので、無駄なおつきあい残業がどれほど多いか、よく熟知しております。無駄な残業を無くし、正当な労働能力に応じた評価を出来るように、社会構築するべきであると思いますが、そのための手法は複数あり、一長一短があります。その一つとして検討の余地はあるでしょうが、他の手段も検討できるでしょう」(岡田晃朝弁護士)

「無駄な残業をなくし、効率よく業務をした人が同じ給料で早く帰宅できることを確保し、希望しない人には強制しないことが担保できれば、検討してもよいでしょう。業務は終わっているのに人事評価に響くから残っているのは、本人にとっても会社にとってもよくないと思います。効率的に要領よく業務をこなす人をだらだらやる人より評価できるように職場の風潮を変えていくことにもつながると思います」(星野宏明弁護士)

これまで労働組合などから根強い反対があった「ホワイトカラー・エグゼンプション」だが、安倍政権は産業界の要請を受け、ついに導入へ向けて舵を切った。具体的な制度設計はこれからとなるが、長時間労働を助長することにならないよう、引き続き議論を深めていく必要があるだろう。

(弁護士ドットコム トピックス)

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