宅配便で小包を送ったり、引っ越し先に家財道具を届けたりする「運送」は、日常生活を送る上で欠かせない重要な社会インフラだ。多くの人が安心して運送サービスを利用できるように、運んでいる途中に荷物が壊れた場合に誰が弁償するのか、といった基本的なルールが商法で定められている。
ところが、商法が制定された1899年(明治32年)から100年以上たった現在まで、運送に関する基本的なルールはほとんど変わってない。現代では当たり前の存在である飛行機やコンテナによる大量輸送といった部分への対応が不十分で、時代遅れとなってしまっているという。
そのような背景のもと、今年4月から有識者らによる法制審議会で、見直しの議論がスタートした。現在のルールには、具体的にどんな問題があり、私たちの生活にどんな影響を及ぼしているのだろうか。運送法制にくわしい藤田勝利弁護士に聞いた。
●「利用者にとってわかりにくい」のが問題
「『運送』に関しては、商法に、陸上運送と海上運送の規定があります。しかし、その内容は時代遅れの部分が少なくありません。
また、国際的要素が強い航空運送や、陸・海・空の複合運送について、商法には規定がありません。
法改正は必要だと考えられますが、それがどのように行われるのか、現時点で予想するのは難しい、というのが正直なところです」
現行ルールだと、具体的にはどんな点が問題となっているのだろうか?
「たとえば、各種運送のルールが整理されておらず、条約や商法、各運送約款など、適用されるルールが多岐にわたる点があげられます。
そのため、運送中の旅客・貨物等にトラブルが起こり、運送する側の責任問題が生じた場合、どんな運送手段を使うかによって、免責事由の範囲や責任限度額の有無、消滅時効などが、いちいち異なるというのが現状です。
利用者がきちんと把握して、運送サービスを利用するのは容易ではないでしょう」
●特別法をつくるかどうかという問題
法改正はどのような形で行われるのだろうか?
「すべての運送について共通する部分は、商法に総則的規定を設けることもできるでしょう。一方で、それぞれの運送手段に固有の問題は、別の形で規定することになるでしょうね。
この際に問題となってくるのは、それらを商法に取り込む形にするのか、それとも特別法を制定するのかですね。
たとえば韓国では、航空運送の規定を商法に取り込んでいます。一方で、会社法や保険法をつくったように、商法から独立した形で、各運送手段を規制する特別法を制定するという方法もあるでしょう」
場合によっては、新たな特別法が生まれる可能性もあるようだ。
●「航空運送」をめぐるルールに注目
内容面については、どんな注目点があるのだろうか?
「私が注目しているのは、航空運送に関するルールをどう規定するかですね。
いま、利用者の保護を強調する1999年モントリオール条約(105か国加盟)の規制を受ける国際運送と、各航空会社の航空運送約款に依拠する国内運送では、規制のルールにかなり違いがあります。
これを、たとえば航空運送の国際ルールに統一するか、それとも民法その他の法令や他の運送手段のルールと整合する規制を設けるのか、そういった点に注目しています」
藤田弁護士は「こうした検討難題が、ほかにも沢山あります」と話していた。運送ルールは目立たないが、国民の暮らしにも直結する問題だ。今後の議論に注視していくべきだろう。