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小保方さん「共同研究者のプレッシャーあった」 論文執筆時の「心理状況」明かす
4月9日に大阪市内のホテルで開いた記者会見時の小保方晴子リーダー(中央)

小保方さん「共同研究者のプレッシャーあった」 論文執筆時の「心理状況」明かす

STAP細胞の研究論文をめぐって、理化学研究所の調査委員会から「研究不正」を認定された小保方晴子研究ユニットリーダーは5月4日、同調査委に対して、不服申立書を補充する文書を新たに提出した。

今回の文書では、過去の裁判例などを引き合いに出しつつ、「ねつ造」や「改ざん」など研究不正があったか否かの判断は「司法的解釈」に基づいておこなわれるべきと主張している。

また、論文執筆時の状況について「極めて多忙であった」と説明。「早く論文発表しないと、先を越されて新たな発見がなされるかもしれないという想い」や「共同研究者からのプレッシャー」もあったことが、「画像の取り違え」につながったと弁明している。

今回の「不服申立についての理由補充書(2)」(要約版)の全文は次のとおり。

●不服申立についての理由補充書(2)(要約版)

第1 「改ざん」「捏造」については司法的解釈がなされるべき

 仙台地方裁判所平成25年8月29日判決(平成22年(ワ)第1314号、平成22年(ワ)第1712号事件)は、A大学の元総長である金属材料科学分野の研究者が提訴した名誉毀損に基づく損害賠償等の請求事件において、本件調査対象項目(1―2)の画像操作と類似の写真捜査がなされた下記の行為について、「文科省ガイドラインやA大学ガイドラインにおけるねつ造、改ざんの意義(注 これらのガイドラインにおける「ねつ造」、「改ざん」の意義は下記のとおり)に照らせば、上記写真(注 写真に加えられた操作の内容は下記のとおり)の掲載は、故意に存在しないデータを作成したり真正でないものに加工したりしたものではないから、結果的に不正確な断面写真が掲載されたことは否定できないとしても、07年論文(注 紛争の対象となった論文)にねつ造、改ざんがあるとはいえない。」との判断を示している(資料13)。

(上記判決が引用している文科省ガイドライン及びA大学ガイドラインの内容)

 文科省ガイドラインにおける「ねつ造」「改ざん」の意義は次のとおり。

 また、A大学のガイドラインにおいても、「ねつ造」「改ざん」の意義は、文科省ガイドラインと同一である。

 ◯ ねつ造とは、存在しないデータ、研究結果等を作成することをいう。

 ◯ 改ざんとは、研究資料・機器・過程を変更する操作を行い、データ、研究活動によって得られた結果等を真正でないものに加工することをいう。

(上記裁判例における写真操作の具体的内容)

 論文は、キャップ鋳造法により直径30mmのバルク金属ガラスを作製することができた旨を報告するもの。作製された試料がバルク金属ガラスであることの根拠として、作製された試料の断面写真が掲載されているが、同写真は、一断面を撮影した4枚の写真を1つの写真に組み合わせた後、当該写真データを論文の原稿ファイルに貼り付ける過程において、縦横比の設定を固定することを失念したために、実際の断面と縦横比が8%弱異なる結果となっている。

 上記の判決が示すように、複数枚の写真を1枚の写真に組み合わせた場合であっても、故意に存在しないデータを作成したり真正でないものに加工したりしたものではないから、ねつ造、改ざんに該当しないというのが、文科省ガイドラインに規定する「ねつ造」「改ざん」についての司法的解釈である。

 理化学研究所の「科学研究上の不正行為の防止等に関する規程」(本規程)における「捏造」「改ざん」の意義も文科省ガイドラインとほぼ同じ内容である。そして、調査報告書において「捏造」や「改ざん」があったとして「研究不正」の判断がくだされると、それは申立人にとって懲戒処分や名誉侵害等の回復しがたい重大な不利益に直結することに鑑みれば、調査委員会における「捏造」「改ざん」の有無の判断は、上記の司法的解釈に基づいてなされるべきは当然である。

第2 画像取り違えの経緯を考慮した判断の必要性

 申立人による画像取り違えの経緯を理解するためには、まず、申立人がどのよう環境で(原文ママ)、どのような実験を行い、どのように論旨を考え、どのような状況で論文を執筆したかを把握する必要がある。そこで、別紙時系列表(要約版では省略)をもとに、上記の点について説明する。

1 所属

 申立人は、2013年2月までは、ハーバード大学医学部・ブリガムアンドウイメンズホスピタルに所属しており、理化学研究所には客員研究員として研究に従事していた。2013年3月1日、理化学研究所神戸事業所に移籍し、ユニットリーダーに着任した。

2 所在(実験をしていた場所)

 そのため、2011年2月までは、申立人は、理化学研究所神戸事業所の若山研において、若山氏の指導の下、実験を行っていた。その後、2013年3月下旬に、若山氏は、山梨大学に移籍した。2013年3月以降は、申立人は、笹井研にて実験を行っていた。

3 OCT4+細胞の作製実験の変遷

 申立人は、2013年3月までは、物理的ストレスによって、Oct4+細胞を作製する実験を行っていた。

 2011年4月、酸刺激によってOct4+細胞が出現することを発見したので、同年4月から5月にかけては、様々な細胞(BM,Brain,Lung,Muscle.Fat,Fibroblast等)を用いて、様々な溶液でストレスを与える実験を行い(資料10)、6月ころからは酸性溶液の濃度や時間を変えて実験を進めていた。

 そして、6月下旬には、CD45+細胞を酸刺激することにより、多能性マーカー(Oct4,Nanog)陽性細胞が出現することを確認した。CD45+細胞は、幹細胞でないことが明らかになっているので、これ以降は、CD45+細胞を用いることとした。

 このような経過を経て、プロトコールが固まり、2011年10月以降、CD45+細胞を酸刺激してOct4+細胞を作製する実験を繰り返していた。Oct4+細胞を用いて、分化実験やキメラ形成実験等を行うためである。

4 テラトーマ実験

 申立人は、2011年12月、CD45+細胞を酸刺激して作製したOct4+細胞をマウスに移植した(実験ノートP75)。そして、2012年1月にテラトーマをマウスから取り出し(資料11)、同2月に切り出し(実験ノートP99)、その後、テラトーマを免疫染色した画像を撮影している(画像B 資料6、資料9)。

5 論文の考え方の変遷

 論文についての考え方(構想)は、4段階の移り変わりがある。

 学位論文(2011年3月)では、「物理的刺激により幹細胞化する」という論旨であった。

 2011年4月から同年12月にかけては、申立人は、「体細胞に物理的刺激や酸による刺激を与えることにより幹細胞化する」という論旨で検討していた(ラボミーティング資料 資料4)。この段階では、物理的刺激と酸刺激を区別して検討していなかった。

 さらに、2011年11月頃にはキメラ実験が成功したことから、2011年12月ころからは、申立人は、「ストレス処理により体細胞からキメラができた」という論旨で論文を作成することにした。2012年4月のNature論文(不採用)は、「ストレス処理により作製されたACC(Oct4+細胞)でキメラができた」という論旨であった。この論文においては、テラトーマについては、論文中に具体的な記述はなく、また、Figureも掲載されていない。査読用の付属資料には、テラトーマの画像(A2)が掲載されているが、あくまで補足的なデータであり詳細な説明はない。

 その後、Cell誌やScience誌にも、同様の論文を投稿したが不採用となっている。

 申立人は、2013年1月から笹井氏に論文指導を受けることになった。笹井氏からの助言を受けて、2013年1月中旬からは「酸処理によって得られた幹細胞の性質」という新たな視点で論文を纏め直すことになった。

6 画像の差し替え忘れ

 その後、申立人は、2ヶ月弱の期間に論文2報を執筆した。この論文執筆にあたっては、今までの論文から大幅な変更が必要であった。すなわち、データはすべて酸処理によって得られた幹細胞からのデータに差し替える必要があり、また、キメラだけでなく、Oct4+細胞の性質を分析する様々な実験(in Vitro 実験やテラトーマ実験など)を追加する必要があった。

 この時、申立人は、テラトーマの免疫染色の画像について、酸処理のものに差し替えるのを忘れてしまったのである。

7 論文執筆時の状況

(1) 多忙な時期

 申立人は、2013年1月2月ころ、極めて多忙であった。

 すなわち、この当時、申立人自身の理研への移籍手続、若山研が移転するための準備が重なっていた。その合間を縫って、申立人は、論文2報を執筆したのである(詳細につき、陳述書2 資料14)。

(2) 論文投稿を急いだ理由

 このように申立人は、論文執筆時、極めて多忙であったが、早く論文発表しないと、先を越されて新たな発見がなされるかもしれないという想いもあり(共同研究者からのプレッシャーもあった)、また、申立人の実験指導をしていた若山氏(キメラや幹細胞の実験は若山氏が担当)が山梨大学に移る前に、若山氏による論文のチェックを受ける必要があるなどの状況もあり、論文投稿を急がざるをえなかった(詳細につき、陳述書2 資料14)。

(3) 画像の取り違えは特殊な状況下で生じた

 本件画像の取り違えは、このような事情のもとで生じた。

 一般的には、論文執筆にあたっては、十分にデータや画像を確認するはずであり、それゆえ、申立人が画像の差し替えを忘れたというのは、不自然な印象を受けるかもしれない。

 しかし、若山研の引っ越しや申立人の転職の最中に、2ヶ月弱という短期間で論文2報を仕上げたという特殊事情からすれば、このようなミスが生じることも十分にあり得ることであり、一概に不自然であると断ずることはできない。

 申立人は、上記の特殊事情のもと、テラトーマの免疫染色の画像について、差し替えを忘れてしまっていたのである。

8 小括

 このように、2011年3月から2013年3月までの間に、申立人の環境においても、実験方法についても、論文の考え方についても、多様な変遷があったのであり、さらに、論文執筆においては、特殊な事情のもとで短期間になされたものである。これらの事情は、画像取り違えの評価に強く影響するものであり、これらの事情を看過しては、適正な認定・判断はなしえない。

 本報告書の認定・判断は、これらの事情を何ら考慮しておらず、画像取り違えの状況を正確に把握していないといわざるをえない。

 申立人としては、再調査を実施の上、これらの事情を考慮して、画像取り違えについての状況を正確に把握したうえで、適正な認定・判断をなすよう、調査委員会に強く求める次第である。

第3 STAP現象検証プロジェクトによって実施されている実験結果の重要性

 論文に記載された実験条件と同一の条件によって同一の結果を再現できたならば、被通報者は新に論文に記載された実験に成功していたことが証明されることになる。本規程第15条第5項が、調査委員会の調査の方法として、必要に応じて、再実験の実施を指示し、または被通報者の申出により再実験を許可することができると定めているのは、再実験の機会を与えることにより、研究不正との疑義を晴らす機会を保障したものと考えられる。

 本件において、論文に記載された実験条件によりテラトーマ形成実験が成功したならば、申立人が真にテラトーマ形成実験を行い、テラトーマ画像を得ていたことが明白となる。すなわち、テラトーマ形成実験の再現がなされれば、「捏造」との疑いは晴れることになるのである。

 理化学研究所では、本年4月にSTAP現象を検証するプロジェクトが立ち上げられ、現在も検証のための実験が継続されているが、その検証実験の目的の一つとして、「論文に記載された方法で再現性を検証する」ことがあげられている。

 このことから、上記のプロジェクトにおける検証実験の結果を待たずに、申立人の行為を研究不正と断ずることは許されない。

 調査委員会が再調査を開始すべきことは当然であり、そのうえで、上記のプロジェクトにおける検証実験の結果を待って、申立人の研究不正の有無についての本報告書の判断が見直されるべきである。

第4 まとめ

 以上のとおり、本報告書は、「改ざん」「捏造」の解釈を明確にしておらず、しかも、申立人の画像取り違えの経緯やその状況について十分に調査することなく、勝手な推論を加えたために、重要な事実についての認定を誤ったものである。したがって、再調査を開始し、改めて適切な認定・判断をなすべきである。

 また、現在、検証実験が行われていることを鑑み、少なくとも同実験の結果を待たずして、申立人の行為を研究不正と判断することは許されない。

付属書類

資料13 判例時報2211号90頁

資料14 陳述書2

以上

(弁護士ドットコムニュース)

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