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船が沈みかけても逃げてはいけない? 「船員法」が定める緊急時の「船長の義務」
穏やかに見える海でも、海難事故が起こることはある

船が沈みかけても逃げてはいけない? 「船員法」が定める緊急時の「船長の義務」

韓国南西部の海上で、修学旅行中の高校生らが乗った旅客船が転覆し、沈没した事故。死者・行方不明者が約300人にのぼる大惨事となっている。

この事故では被害の大きさのほか、船長が乗客を船内に残したまま、いち早く避難したこともクローズアップされている。韓国内で大きな批判を浴びた船長は4月19日、乗客の救助を怠ったとして、逮捕された。

映画などでは、こうした海の事故の際、「船長は最後まで残る」というシーンが描かれているものだが・・・。もし日本で、今回と同様の事故が起きたとしたら、船長にはどのような義務が生じるのだろうか。乗客を船に残したまま、真っ先に逃げ出したら、何かの罪に問われるのだろうか。海事事件にくわしい田川俊一弁護士に聞いた。

●日本では「船員法」違反で刑事責任が問われる

「今回の沈没事故では、船長が大勢の乗客を船内に残して、いち早く離船したと報道されています。日本で同じことをした場合、船長の職務違反となります。『船員法』違反として、刑事責任を問われる可能性があります」

船員法とは、どんな法律なのだろう?

「数多くある海事法のうちの最も基本的な法律で、船員の労働条件や、船長の職務・権限などを定めています。たとえば、今回の沈没事故にあてはまる条文として、次のようなものがあります。

第10条 船長は、船舶が狭い水路を航過するときなど船舶に危険のおそれがあるときは、自ら指揮しなければならない

第11条 船長は、旅客の乗込みのときから旅客の上陸の時まで、自己の指揮する船舶を去ってはならない

第12条 船長は、船舶に急迫した危険があるときは、人命の救助並びに船舶及び積荷の救助に必要な手段を尽くさなければならない」

つまり、船員法に照らせば、船長が乗客を残して真っ先に避難することは許されない、ということになるのだ。

では、船長がこれらの規定に違反した場合、どんな罰則があるのか。

「罰則は、10条、11条違反の場合は、30万円以下の罰金です。救助義務について定めた12条違反の場合は、今回の事故のように多数の人命にかかわることになります。ですから、5年以下の懲役と、ほかよりも重い刑が定められています」

船長は、大海原で多くの人命を預かる大事な仕事。それだけ責任も重いということだろう。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

田川 俊一
田川 俊一(たがわ しゅんいち)弁護士 田川総合法律事務所
東京商船大学(現 東京海洋大学)卒、1972年弁護士、海事補佐人登録、73年 ロンドン海事法律事務所で実務研修。日本海事補佐人会会長。主な取扱事件として、第拾雄洋丸/パシフィックアレス 衝突事件(74年 東京湾)、原子力潜水艦ジョージワシントン/日昇丸 衝突事件(81年 南シナ海)、潜水艦なだしお/第一富士丸 衝突事件(88年 東京湾)。主な共著として、『海上交通の安全を求めて』(海文堂76年)、『検証潜水艦なだしお事件』(東研出版94年)。

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