みんなの党・渡辺喜美前代表がDHC会長から8億円を借りた問題が、政界を揺るがしている。渡辺前代表は4月7日に党代表を辞任したが、8億円については「個人の借り入れ」「法的な問題はない」と主張している。
「政治とカネ」をめぐっては、東京都の猪瀬直樹前知事も、徳洲会グループ側から5000万円の現金を受け取ったとして3月に公選法違反で略式起訴され、50万円の罰金刑となった。
政治家の多額の借り入れが問題視された2つのケースは、よく似た構図にも思えるが、法的には何か違いがあるのだろうか。渡辺前代表は「現ナマでバッグに詰めて持ってきたのとはワケが違う」と述べ、有罪となった猪瀬氏との違いを強調しているが・・・。元東京地検特捜部検事の岡田功弁護士に解説してもらった。
●2つのケースには多くの共通点がある
「報道されている情報からすれば、この2つのケースは、基本的な構図はほとんど同じだと思います。
(1)借入時期が選挙直前であること、(2)借入額が個人の当面の生活費とはかけ離れた高額であるにもかかわらず、(3)借りたほうが『個人的借入だ』と説明をしたことなど、多くの共通点があります。
逆に、主な相違点は(a)借入額(渡辺前代表が猪瀬氏の16倍)や(b)現金(猪瀬氏)か振込(渡辺前代表)か、(c)借用書があるか(猪瀬氏)ないか(渡辺前代表)などですね」
岡田弁護士はこのように解説する。
●「どの報告書にどう記載すべきか」という問題
選挙や政治活動で使われるお金については、収支を明らかにする義務があるようだが、具体的にはどんな決まりがあるのだろうか?
「もし、お金が選挙資金として借り入れられ、選挙に使われた場合には、選挙運動費用の収支報告書の収入の欄に記載する義務があります。この記載を怠ると公職選挙法違反となり、罰則があります。
ただし、選挙運動費用の収支報告書は、各選挙の各候補者ごとにあるものなので、どこにどう記載すべきだったかが特定される必要があります」
では、もし政治資金として借りられたものだったら?
「もし政治資金として借り入れられたのであれば、政治資金収支報告書の収入の欄に記載する義務があります。この記載を怠ると政治資金規正法違反となり、罰則があります。
こちらも同様に、どの政治団体・政党の収支報告書に記載すべきだったかという問題がありますので、その点には注意が必要です」
すると、今回の問題が「収支報告書への虚偽記載」にあたるかどうかを考えるうえでは、「選挙資金」や「政治資金」であったかどうかの認定に加え、どの報告書に記載すべきだったかの特定も重要なポイントとなるようだ。猪瀬氏はこの点、「選挙資金」と認定されたが・・・。
「猪瀬氏の場合、東京地検は捜査の結果、徳州会からの借入が選挙資金であったと認定しました。猪瀬氏も最終的にはこれを争わず、公職選挙法違反で略式起訴され、罰金刑となりました。
選挙直前という借入時期や、5000万円という金額から、都知事選の選挙費用と認定するのは、常識的な結論と言えます」
●借入金はどのように使われたのか
では、渡辺前代表の場合は・・・?
「渡辺前代表の場合、現時点では、選挙資金や政治資金であったことを否定しています。今後については、捜査機関がどう出るか、動きを見守ることになるでしょう。
ただ、借入時期が国政選挙直前であったことや、その金額の大きさ、貸した側の発言などから、猪瀬氏の場合と基本的な構図はほぼ同じだと思われます。
かえって、渡辺前代表の場合は、猪瀬氏の場合と異なり、借入金を実際に使っていることや、口座振込みのため出金の時期や金額が客観的に明らかになることから、使途先の捜査は容易かもしれません」
借入金が具体的にどのように使われたのかは、そのお金の性質を認定するうえで、大きなカギを握る点だろう。
「渡辺前代表は、現金ではなく、振込で借りたことが自身の潔白の証だと主張しているようですが、違法性の判断において、現金と振込との差異はありません。
もし、借入金の一部が選挙資金に使われたという認定がなされれば、猪瀬氏と同じく、渡辺前代表は公職選挙法違反に問われることになります」
岡田弁護士はこのように解説していた。
8億円がどのように動いたかについては現在、みんなの党が独自調査を行っており、近日中に調査結果を公表するという。この結果にも注目が集まりそうだ。