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1時間に3回も「逮捕」された! 警察に「拘束」される時間も3倍になるの?
突然コップの水をかけられたら、腹を立てる人もいるだろう

1時間に3回も「逮捕」された! 警察に「拘束」される時間も3倍になるの?

兵庫県に住む40代の男が、1時間のうちに3回も、警察に現行犯逮捕されたとして、話題になっている。報道によると、この男は3月下旬、兵庫県赤穂市内にある郵便局の駐車場で、器物損壊の疑いで現行犯逮捕された。駐車場に設置されていた石こうボードを壊したというのだ。

その45分後、警察署で取調べを受けているとき、男は部屋の壁を数回殴ってへこませたとして、またしても器物損壊の容疑で現行犯逮捕された。さらに、その約10分後、隣にいた警察官にコップの水をかけたとして、公務執行妨害の容疑で現行犯逮捕された。男は当時、酒に酔っていたという。

一般的に、容疑者が警察に逮捕されると、一定の時間内に検察に身柄を送られて勾留されるか、釈放されることになる。今回のように、1時間のうちに3回も逮捕されてしまった場合、単純に計算して、警察や検察に拘束される時間も3倍になるのだろうか。刑事手続きにくわしい荒木樹弁護士に聞いた。

●1つの犯罪について、逮捕・勾留は1回しかできない

「逮捕などの身柄の拘束には、刑事訴訟法上、『一罪・一逮捕・一勾留』の原則があります」

荒木弁護士はこう述べる。つまり、1つの罪について、逮捕・勾留は1回だけというのが原則ということだ。とすると、今回のように3つの犯罪事実があれば、3回の逮捕・勾留がおこなわれるべきなのだろうか。

「この原則は、被疑者に対する人権保障の観点から認められたものです。

したがって、複数の犯罪事実に関して、1回だけの逮捕・勾留をすることは許されます。判明した複数の事件を、1回の逮捕状の中に記載して処理することは、問題ないのです。

被疑者にとっても、たとえば2つの犯罪事実が判明した場合に、2回逮捕されるよりは、1回の逮捕で事件処理されるほうが、有利だからです」

捜査機関は、1回の逮捕・勾留によって、原則として最大23日間、被疑者の身体を拘束できる。被疑者にとっては、何度も逮捕・勾留を繰り返されるよりは、1回ですませてもらったほうが、好ましいといえるだろう。

●間隔をあけて3回逮捕すれば、身体拘束の期間は長くなる

だが、今回の事件では、立て続けに3回の現行犯逮捕が繰り返されている。これは問題ないのだろうか?

「こういう形で逮捕することも、何ら問題はありません。このような場合、捜査機関は、それぞれの逮捕について、その時点から並行して時間的な制約を受けることになります」

つまり、それぞれの逮捕のときから、刑事訴訟法が定める期限は進行を始めるのだという。

「警察はそれぞれの逮捕のときから48時間以内に、検察官に送致しなければなりません。

今回のように、3つの犯罪事実の逮捕がほぼ同時になされたときは、結果として、検察官への送致はすべて同時になされることになるでしょう。それを受けて、検察官もすべて同時に、勾留請求をすることになると思われます」

しかし、そもそもの話、3つの逮捕をほぼ同時におこなうのではなく、間隔をあけて3回逮捕すれば、被疑者の身体拘束時間を延ばすこともできたという。なぜ、警察は今回のような処理を選んだのか?

「警察がこのような異例とも言える、1時間に3度の逮捕に踏み切った理由はわかりませんが、報道を見る限り、複数の警察官が目撃している事案であるため、証拠的に明白で、捜査時間が短縮されても大きな問題がなかったのではないかと思われます」

たしかに、何度も逮捕・勾留して調べるほどの難事件には見えない。また取調べのテクニック的な面もあるのではないかという。

「これは想像ですが、現場での被疑者の態度が異常であったため、警察としても、強い姿勢を被疑者に示す必要があったという事情も考えられます」

なるほど、抵抗する被疑者に対して、続けざまに逮捕をして、おとなしくさせたといった事情があったのかもしれない。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

荒木 樹
荒木 樹(あらき たつる)弁護士 荒木法律事務所
釧路弁護士会所属。1999年検事任官、東京地検、札幌地検等の勤務を経て、2010年退官。出身地である北海道帯広市で荒木法律事務所を開設し、民事・刑事を問わず、地元の事件を中心に取り扱っている。

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