会社員にとって、自費で乗るタクシーはぜいたくの一つと言えるだろう。飲み会が盛りあがって、終電を逃した際、飲み代より帰宅時のタクシー運賃のほうが高くつく場合もあるが、「たまには」と気分よく深夜のタクシーに乗り込んでみる。至福のひととき・・・に限って襲いかかってくるのが、尿意だ。
運転手に車を止めてもらうこともできるが、「きっと家まで大丈夫」と思ってしまうのが酔っぱらいの悪いクセ。いつしかタクシーは高速道路に入ってしまい、出口かパーキングエリアまで我慢するほかなくなる。
「耐えろ! 大人なんだから!」と己に言い聞かせてなんとかなるならいいが、「おもらし」という最悪の事態を迎えてしまうこともあるはずだ。当然、運転手は激怒し、「クリーニング代を支払え!」と要求してくるかもしれない。
こんなとき、「出物腫れ物ところ嫌わず」「生理現象なんだから仕方ないでしょ」と言って、支払いを拒否することはできるのだろうか。拒否できない場合、タクシーの運転手にはいったいいくら支払えばいいのだろうか。中村憲昭弁護士に話を聞いた。
●クリーニング代だけで済めば、ラッキーかも
「民法上、過失により他人に損害を与えたら、それを賠償する義務があります。今回の場合、自分の体である以上、尿意を我慢すればいつかはその限界に達することが予見可能です。にもかかわらず、トイレに行かないままタクシーに乗った点に、過失があると言わざるを得ません」
やはり、子どものような言い訳はきかないようだ。
「ですから、クリーニング代を支払う必要があるでしょう。場合によっては,クリーニングが終わるまで営業車を稼働できなかった逸失利益(休車損)も、支払わなければならない可能性があります」
乗っていたタクシーが、個人タクシーかタクシー会社のものかで、対応の違いはあるのだろうか。
「そうですね。個人タクシーではなく会社のタクシーの場合、被害者は運転手個人ではなく、タクシー会社です。この場合は、運転手からの直接的な請求に対して『被害者は会社だ』と言って拒否することも考えられますね」
●クリーニング代を支払ったら「領収書」も忘れずに
中村弁護士は、一か八かの裏技を紹介してくれた。しかし、後日、タクシー会社から請求されたらもっと面倒なことになりそうだ…。
「はい。その通りです。時間が経過すればするほど、請求額が多くなる可能性もあるでしょう。ですから、運転手からの請求がよほど法外なものでない限り、その場で応じたほうが無難です。
ただ、手書きでもいいので、賠償金を支払ったという領収証を貰って下さいね。後日、タクシー会社から二重に賠償を求められる可能性も否定できませんから」
たとえ酔っぱらっていても、そこは押さえておきたいところだ。最後に、中村弁護士は至極まっとうなアドバイスをくれた。
「『飲んだら乗るな』とまでは言いませんが、遠くまで帰る場合、トイレに行ってからタクシーに乗りたいものです」