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閉店に追い込まれた「ばかげたスターバックス」 パロディだからOK、とはいえない?
「ダム・スターバックス」のニュースは米国のメディアに大きく報じられた(USATODAYより)

閉店に追い込まれた「ばかげたスターバックス」 パロディだからOK、とはいえない?

「ダム・スターバックス・コーヒー」。そんな名前のコーヒーショップが2月上旬、米・ロサンゼルスでオープンして話題をさらった。報道によると、この店は「スターバックス・コーヒー」とは全く無関係だが、ロゴやメニューはほぼ同じ。違いは、最初に「ダム」(日本語で「ばかげた」といった意味)という単語がついているくらい、だったようだ。

「パロディだから適法」とする店側の主張に対し、本家スターバックスは「ユーモアはわかるが、スターバックスの名称は商標として保護されている。勝手に使ってはいけない」と表明。商標をめぐる新たな論争が巻き起こるか……に見えたが、なんと現地の公衆衛生局から「営業許可がない」とされて、わずか数日で閉店となった。

なんともしまらないオチが付いた今回の騒動だが、もしこのような「パロディ店」が日本に登場したとしたら、どのような法的問題が起こりうるのだろうか。知的財産権にくわしい岩永利彦弁護士に聞いた。

●「出所が誤認されるおそれがないか」がポイント

「日本でも、同様の問題、すなわち商標権侵害の問題が起こると思います」

このように岩永弁護士は切り出した。

「実は、日本でも昨春、スターバックスのパロディ商標を用いた店が問題になっています。『スター・バー」という名で、千葉県で営業していたガールズバーなのですが、スターバックスの商標権を侵害したとして、商標法違反容疑で書類送検された事件が報道されました。

問題となった商標(ロゴ)が実際にどんなものなのかは、ネットなどで見てもらうとして、見た目は非常にそっくりに思えます」

こうしたケースでは、商標の「そっくり度」が問題となるようだ。どんな形で判断されるのだろうか。

「その商標が法的にどこまでそっくりと言えるのか、専門的な判断をすることを、『類否(るいひ)の判断』と言います。

1968年に最高裁が示した基準によると、類否判断は、2つの商標が同一・類似の商品に使用された場合に、商品の出所が誤認されたり混同されたりするおそれがないか、という観点で行うとされました」

●パロディでも、裁判所の判断基準は同じ

この「類否判断」のポイントはどこにあるのか。

「まず、その商標が、外観(見た目)や観念(意味)、称呼(読み方)などによって、取引者に与える印象・記憶・連想を総合して、全体的に考察します。さらに、商品の取引の実情をできるだけ明らかにして、その具体的な取引状況に基づいて判断する、とされています。

たとえば、さきほど触れた『スター・バー』の商標(ロゴ)についていうと、見た目はよく似ていますが、書かれている文字の意味や読み方は結構違います。また、ガールズバーとコーヒーショップは同じ飲食店とはいえ、業態は違います。類否判断は、このようにして、出所の誤認や混同が生じるかどうかを判断していきます」

まぎらわしいロゴがダメなのはわかるが、「パロディ」でもいけないのだろうか?

「商標のパロディ問題といえば、『白い恋人』と『面白い恋人』の民事裁判も有名になりましたが、日本の場合、パロディだからと言って、裁判所の判断基準が変わるわけではありません。

『面白がってもらえばいい』という行為者の意図などは無視した形で、ある意味、無粋に商標の類否が判断されるだけです。似ている度合いが強ければ、損害賠償や使用差止めなどの民事訴訟を起こされるでしょうし、刑事事件に発展する可能性もあり、シャレで済まないこともあります。

私個人はシャレやパロディが大好きですので、応援したいと思いますが、シャレで済むのはあくまで商標が『非類似』であることが前提ですので、気をつけてください」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

岩永 利彦
岩永 利彦(いわなが としひこ)弁護士 岩永総合法律事務所
ネット等のIT系・ソフトウエアやモノ作り系の技術法務、知的財産権の問題に詳しい。メーカーでのエンジニア、法務・知財部での弁理士を経て、弁護士登録した理系弁護士。著書「知財実務のセオリー 増補版」及び「エンジニア・知財担当者のための 特許の取り方・守り方・活かし方 (Business Law Handbook)」好評発売中。

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