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自衛隊「制服組」が事務局入りする「日本版NSC」 どこが問題なのか?
政府の外交・安全保障政策の新たな司令塔となる国家安全保障会議(日本版NSC)が12月上旬に発足した

自衛隊「制服組」が事務局入りする「日本版NSC」 どこが問題なのか?

政府の外交・安全保障政策の新たな司令塔となる国家安全保障会議(日本版NSC)が12月上旬に発足し、首相官邸でさっそく初会合が開かれた。

日本版NSCは、首相官邸が中心となって外交と安全保障に関する政策を立案する組織で、米NSCを参考にしていると言われる。首相と外相、防衛相、官房長官が定期的に行う「4大臣会合」がその中核を担い、年明けには関係省庁の職員や自衛官など約60人で構成される「国家安全保障局」が事務局として新設される予定だ。

成立前に大きな論議を呼んだ「特定秘密保護法」とセットで語られることも多い日本版NSC。その狙いとその問題点について、秘密保護法問題に取り組む井上正信弁護士に聞いた。

●事務局である「国家安全保障局」の設置が狙い

「安倍晋三首相にとって、日本版NSCの設置と秘密保護法の制定は、第一次安倍内閣で果たせなかった長年の課題でした。

日本版NSC(国家安全保障会議)は、旧安全保障会議設置法と内閣府設置法を改正して設立されるもので、そのものの位置づけは旧来の『安全保障会議』とさほど変わりません。

むしろ、法律を作った一番の意味は、国家安全保障会議を支える事務局である『国家安全保障局』を設置することにあると思われます」

なぜ安倍首相は、わざわざ「事務局」をつくりたかったのだろうか?

「国家安全保障局長は、内閣官房のナンバースリーの地位にある内閣危機管理監と同格で、その下に60名、6班構成の国家安全保障局が組織されます。

ここには、防衛、外務、警察を中心とした官僚が派遣されます。

特に注目すべきは、制服組自衛官(現役の軍人)が多数入ることです。各自衛隊の一佐(大佐)クラスが入るといわれています。なお大佐クラスは、どの国でも軍隊の指揮の中核になる軍人です」

井上弁護士はこのように指摘する。事務局に軍人が入ることの、どこが問題なのだろうか?

「国家安全保障局の任務は、中長期的な国家安全保障政策の立案と、緊急事態に際して内閣危機管理監と協力して危機管理にあたることです。

緊急事態で重要なのは武力紛争です。つまり、制服組の幹部軍人が立案する国家安全保障政策は、実質的には戦争政策になることを意味しています」

国家の安全保障に軍事がからんでくるのは当然な気はするが、井上弁護士は「日本国憲法の平和主義の下で、このような安全保障政策の立案遂行が、許されるのか疑問があります」と指摘する。たしかに、いくら安全保障といっても、憲法との整合性という観点は欠かせないだろう。

●政策立案プロセスが「秘密」に覆われてしまう

井上弁護士はまた、日本版NSCの仕組みについて、日米同盟に基づいて日米が集団的自衛権を行使していくという文脈で作られたものだと指摘し、こう述べる。

「日本版NSCは、米NSCのカウンターパートとなり、平素から危機に至るすべての段階で、情報交換と政策の調整を行うことを目的にしています。

日本版NSCには、各行政機関が保有する秘密情報が集約されます(国家安全保障会議設置法第6条)。また、日本版NSCとセットとなる秘密保護法により、外国政府機関との秘密情報のやりとりをできる仕組み(秘密保護法第9条)ができています。

日本版NSCには独自の情報収集能力はないため、さらに内閣官房の直属の情報機関(日本版CIA)を作ることも検討されています」

そのことの問題点はどこにあるのだろうか?

「これは、日本版NSCの政策立案プロセスが、秘密保護法に覆われてしまうということです。したがって、国民生活に重大な影響を持つ安全保障課題について、主権者である国民に秘匿されてしまう危険性があります」

どうやって国を守るかという重要な問題について、国民が十分な情報を知らされないとすれば、それはゆゆしき問題だと言えるだろう。

井上弁護士は日本版NSCについて、このような問題点を述べたうえで、その実効性についても、次のように疑念を投げかけていた。

「いくらこの様な『器』を作っても、各行政機関の縦割りと縄張り意識の強い日本の官僚制度が根本的に変わらなければ、国家安全保障局も各行政機関のいわば『出城』のような存在になり、制度を果たして効果的に運用できるのか疑問です」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

井上 正信
井上 正信(いのうえ まさのぶ)弁護士 尾道総合法律事務所
1975年弁護士登録、広島弁護士会所属、日弁連憲法委員会副委員長、同秘密保全法制対策本部副本部長、著書「徹底解剖秘密保全法」(かもがわ出版)、その他憲法問題、安全保障防衛政策に関する論文多数。

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