日本出身のお笑いタレント・猫ひろしさんが、ロンドンオリンピックのマラソン競技のカンボジア代表に選出された。
猫さんはお笑いタレントながらもアマチュアランナーとしてはかなりの上級者といえる自己ベスト2時間30分台の記録を持ち、芸能界最速ランナーとして注目を集めてきた。ところが昨年突如カンボジア代表としてロンドンオリンピックへの出場を目指すと公言。実際に昨年11月にカンボジア国籍を取得し、そして今年3月にはカンボジア代表としてオリンピックへの出場が決まったことを正式に発表した。この猫さんの代表選出に対し、オリンピック出場のためだけに国籍を変更してもいいのかと批判の声が上がっている。
カンボジア国籍へ変更すること自体は既に完了しているように法的には何も問題はない。だが猫さんはオリンピック終了後も日本で芸能活動を続けるとしており、国籍をまた日本に戻そうとする可能性もある。しかしその場合、変更した国籍をふたたび日本国籍に戻すことはできるものなのだろうか。
渉外事件の取り扱いが多い松野絵里子弁護士に話を聞いた。
「日本国籍が取得できるかどうかは、国籍法という法律に従って決められます。この法律によると日本で生まれた人は、同法2条の『出生の時に父又は母が日本国民である』という要件を満たせば日本国籍になります。」
「しかし猫さんの場合、この要件によって日本国籍をもっていたのに、カンボジア国籍を取得したことによって自ら日本国籍を失ったわけなんです。そのため今度は、外国人が帰化する場合と同様の扱いになり、これには『少なくとも5年は日本に引き続いて住んでいること』や『素行が善良であること』など、一定の要件をクリアして法務大臣の許可をもらう必要があります。」
「ただしこれらの要件をクリアしても帰化は必ず認められるわけではなく、最終的には法務大臣の判断になりますので、国籍変更の理由が不適切と判断されれば帰化が認められない可能性もあります。」
もし猫さんがオリンピック終了後、国籍を戻すことが認められた場合は、猫さんを前例として今後もオリンピックなどの国際大会のために一時的な国籍変更を行なう者が続く可能性がある。賛否を分けた国民の反応も予想され、法務大臣は慎重な判断を迫られそうだ。
なお、これまでオリンピックへの出場を目指して日本から他国に国籍を変更した例としてはバンクーバーオリンピックでフィギュアスケートのロシア代表になった川口悠子さんがいるが、川口さんはオリンピック後もロシアを拠点にロシア国籍のまま競技を続けている。
現時点で猫さんは日本国籍を再取得するかどうか明らかにしていないが、もし再取得を希望する場合は、果たして無事に認められることになるのだろうか。