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裁判官「共犯者について話せば、量刑を考慮する」 異例の説得に問題はないのか?
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裁判官「共犯者について話せば、量刑を考慮する」 異例の説得に問題はないのか?

「共犯者について話せば、量刑を考慮する」。詐欺罪などに問われた男性の裁判で、裁判官が異例の説得をしていたことがわかった。

報道によると、男性の被告人は、熊本県に住む女性に息子を装って電話をかけ、現金800万円をだまし取ったとして、詐欺罪に問われていた。弁護人によると、福岡地裁小倉支部の公判で、裁判官に説得され、被告人が捜査側に共犯者の情報を伝えたという。

その結果、福岡地裁小倉支部は7月15日、「本来は実刑だが、真相解明に貢献した」として、男性に「懲役2年4か月、保護観察付き執行猶予4年」という判決を言い渡した。

今回の判決は「国会で議論されている司法取引を司法が先取りした形」などと報じられているが、裁判所が真相解明のために、量刑を考慮することを被告人に持ち掛ける手法は、問題ないのだろうか。元裁判官の田沢剛弁護士に聞いた。

●被告人が虚偽の供述をしてしまう可能性がある

「このような手法を用いることは、非常に問題があると言わざるを得ません」

田沢弁護士はこのように述べる。なぜだろうか。

「今回報道されたような、裁判官が『共犯者について話せば、量刑を考慮する』などと述べるということは、私自身は聞いたことがありません。

しかも捜査段階ではなく公判段階で、まさに自分の刑罰が決められるという段階です。

できるだけ刑を軽くしてもらいたい被告人としては、そのようなことを言われれば、虚偽の供述をしてしまう可能性が高まるとはいえないでしょうか」

そもそも、真相解明の役に立ったことを、量刑を考える上で考慮することはできるのだろうか。

「捜査に協力して真相解明に寄与したということを量刑において考慮すること自体は、何も問題ありません。それは、被告人の悔悛(かいしゅん)の情を示す一つの事情となるからです。

しかし、刑を軽くしてもらうという利己的な動機の場合、刑を軽くしてもらえないなら協力しないということの裏返しともいえます。そのような場合に悔悛の情を認めることは困難でしょう。

そうすると、公平・公正であるべき裁判所が、このような手法を用いることは、非常に問題があると言わざるを得ません」

●国会で議論されている「司法取引」制度も問題あり

報道では「国会で議論されている司法取引を司法が先取りした形」といった指摘も出ているが、どう考えればいいのか。

「政府が2015年3月13日に国会に提出した『刑事訴訟法等の一部を改正する法律案』において新たに導入が検討されている『捜査・公判協力型協議・合意制度』のことですね。

これは、被疑者・被告人が、他人の詐欺、恐喝、横領、汚職等の犯罪や銃器・薬物犯罪などの特定の犯罪について供述をする見返りとして、検察官が公訴を提起しないことや、特定の求刑を行うことなどを約束する制度です。いわゆる『司法取引』を認めるものです。

しかしながら、この制度は、捜査機関が利益誘導をすることにより、虚偽の自白や証言を獲得す手段として利用されかねません。無実の他人を巻き込んで冤罪を生み出したり、あるいは共犯者に責任をなすりつける危険性が指摘されています。

また、捜査機関に協力することで自らの刑事責任を免れ、あるいは軽減されるということになると、裁判の公平や司法の廉潔性といった原則に抵触するなどといった批判もなされています」

田沢弁護士はこのように述べていた。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

田沢 剛
田沢 剛(たざわ たけし)弁護士 新横浜アーバン・クリエイト法律事務所
1967年、大阪府四条畷市生まれ。94年に裁判官任官(名古屋地方裁判所)。以降、広島地方・家庭裁判所福山支部、横浜地方裁判所勤務を経て、02年に弁護士登録。相模原で開業後、新横浜へ事務所を移転。得意案件は倒産処理、交通事故(被害者側)などの一般民事。趣味は、テニス、バレーボール。

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