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「組体操」学校が刑事責任を問われる日もくる? 年5000件以上事故、死亡で訴訟も
写真はイメージです(のびー / PIXTA)

「組体操」学校が刑事責任を問われる日もくる? 年5000件以上事故、死亡で訴訟も

広島県三原市の中学3年生の男子生徒が、組体操の事故が原因で死亡したとして、両親などが学校を運営する広島大学に相手取り、9600万円の損害賠償を求める訴訟を起こしたと報じられた。

報道によると、男子生徒は昨年6月に参加した運動会で、組体操の3段ピラミッドを9人で作った際、真ん中でよつんばいになった状態でピラミッドが崩れ、上の段から落ちてきた生徒の膝で後頭部に強く打った。男子生徒は2日後に頭の痛みを訴え、病院に搬送されてそのまま死亡。死因は小脳出血と急性肺水腫と診断されたという。学校側ではピラミッドが崩れたという事実は確認されていないと報じられている。

組体操については、以前より事故が相次いでいることから、スポーツ庁が昨年6月、全国の教育委員会や付属校のある国立大学などにあて、「組体操等による事故の防止について」という通知を出した。

通知では、「学校の設置者は児童生徒の安全の確保を図るため、学校において、事故等により児童生徒に生ずる危険を防止することができるよう、必要な措置を講ずるよう努めるものとされています(学校保健安全法第26条)」となどと前置き。タワーやピラミッドで児童生徒が高い位置に登る技などは、大きな事故につながる可能性があるため、「確実に安全な状態で実施できるかどうかをしっかりと確認し、できないと判断される場合には実施を見合わせること」と明記している。

両親などは、こうした通知があったにも関わらず、学校側の安全対策は十分ではなかったと訴えているという。男子生徒が行なっていたのは、ピラミッドのまま移動する「移動ピラミッド」と呼ばれる高度な組体操だった。

この他、今年2月にも東京都世田谷区の小学校で体育の授業中、当時6年生だった男子生徒が組体操の練習で負傷し、後遺症が残ったとして訴訟が起こされている。訴えたのは男子生徒の両親で、2人1組で行う補助倒立で転倒して頭や背中を強打。激しい頭痛などが起こる脳脊髄液減少症に悩まされているとして、世田谷区と担当教諭を相手取り、損害賠償を求めている。

日本スポーツ振興センターが公表したデータによると、組体操の練習中に起きる事故は年間8000件を超え(2015年度まで)、1969年以降に発生した事故で9人が死亡、障害が残った子どもは92人にのぼっている。このうち、タワーやピラミッドでの事故が多かった。2015年には大阪府八尾市の中学校で10段ピラミッドが崩れ、6人が重軽傷を負って、その安全をめぐり社会問題となった。

現在も年間5000件の事故が起きている組体操。危険性が高いとわかっていながら、事故が起きた場合、学校側はどのような責任を問われるのだろうか。高島惇弁護士に聞いた。

●全国で相次ぐ民事訴訟、学校側の刑事的責任は問えるのか?

組体操で亡くなったり、怪我をした児童生徒の家族が、訴訟を起こすケースが出てきているが、民事訴訟で争う場合のポイントは?

「民事訴訟で争うポイントですが、大きく分類すると (1)練習計画、(2)ピラミッド(又はタワー)の組み方や崩れ方の指導、(3)事故防止のための監視体制、(4)事故後の救護活動 が挙げられるかと存じます。

このうち、(1)及び(4)については、他の学校事故において考慮すべき事情と大きな差はありませんが、(2)及び(3)については、組体操事故における特殊性が出てくるものと考えます。具体的には、『ピラミッド型かタワー型か』、『段数は何段か』、『参加する児童生徒の体力はどれくらいか(小学生か中学生かなど)』を総合的に考慮して、計画自体が無謀ではなかったかどうかを検討しなければなりません。

とりわけ、大型ピラミッドについては、土台の最大負荷量が一人当たり200kg前後に達する(10段の場合)との研究があるのみならず、しばしば内側に向かって吸い込まれるように崩壊するという特徴があります。このような崩壊の場合、どれだけ周囲に教師を配置しても、内側に向かう崩壊をくい止めるのは不可能である以上、安全配慮という観点から計画自体が無謀だったという評価になりやすいものと考えます」

ネットでは、これまでのデータから危険性が高いとわかっていながら児童生徒に組体操をさせて事故が起きた場合、学校側に何らかの刑事的責任を問うことはできないのかという指摘もある。

「刑事責任ですが、職務上尽くすべき安全配慮などの注意を怠った結果、崩落などの事故が発生したとして、指導立案した教員につき業務上過失致傷罪の成立が考えられます。

この点、組体操については、多数の事故報告が全国から挙がっており、スポーツ庁や各自治体も組体操の指導に関する具体的通知を行っている状況です。このような状況では、もはや組体操の危険性を予見していなかったという弁解は難しくなるものと考えられるため、民事上の責任のみではなく、刑事上の責任が今後追及される可能性は十分あります。

組体操に関する議論において把握すべきポイントは、決してあらゆる組体操の指導を禁止するものではなく、重大事故が生じないよう安全な組体操を目指すという趣旨であることです。

現場では、組体操によって実現できるメリット(共同作業での達成感やチームワークの実現など)が強調されますが、児童生徒の安全を最優先にした組体操でもそのようなメリットは十分実現可能です。自己満足的な指導という、あらぬ誤解を呼ばないためにも、組体操の危険を考慮した指導立案が今後望まれるのではないでしょうか」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

高島 惇
高島 惇(たかしま あつし)弁護士 法律事務所アルシエン
学校案件や児童相談所案件といった、子どもの権利を巡る紛争について全国的に対応しており、メディアや講演などを通じて学校などが抱えている問題点を周知する活動も行っている。近著として、「いじめ事件の弁護士実務―弁護活動で外せないポイントと留意点」(第一法規)。

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