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外国人実習生、来年から「介護職」で受け入れ開始…危惧される「労働環境の悪化」
写真提供:ピクスタ

外国人実習生、来年から「介護職」で受け入れ開始…危惧される「労働環境の悪化」

外国人技能実習生の保護を目的とした「外国人技能実習適正化法」(技能実習法)が11月に成立した。労働の強制など、実習生への人権侵害に罰則を設け、労働環境の悪化を防ぐのが目的だ。

一方、政府は来年の法施行に合わせ、技能実習できる職種に「介護」を加える方針も示している。

介護現場でも、長時間労働などの問題が数多く報告されている。実習生が介護の仕事に加わることに問題はないのだろうか。池田泰介弁護士に聞いた。

●罰則はあるが「刑事事件にまで発展する事例は少ないだろう」

ーー技能実習法の特徴は?

技能実習法には、(1)暴力や脅迫などを用いて技能実習を強制すること、(2)実習契約を破った場合の違約金や損害賠償金額をあらかじめ決めておくこと、(3)外出・私生活の自由を不当に制限すること、などの禁止規定が設けられました。

当たり前のことが法律になったわけですが、違反行為に刑事罰が明記されていますから、一定の抑止効果はあるでしょう。ただし、非常に悪質な例を除いては、刑事事件にまで発展する事例は少ないと推測します。一般的に脅迫の証明は難しく、暴行も軽微な場合には刑事事件に発展しない場合が多いからです。また違約金契約についても海外の送出機関には規制が及ばないため実効性に疑問があります。

禁止行為やグレーな行為を防ぐには、実習生やその関係者が、相談や通報をしやすい環境を整えなくてはなりません。

ーー具体的にはどうすべき?

技能実習法は、「外国人技能実習機構」を認可法人として新設し、技能実習生からの相談対応・援助、保護などを行うとされています。今後、国は法律施行までに、具体的な運用や制度の整備を進めていく予定です。

重要なのは、機構が実習生に相談窓口の存在を周知することや、外国人との相談業務に精通した専門家やNGOなどと連携しながら、相談会を設けるといった配慮をすることです。

また、機構による実地検査は、労働法違反が確認できる重要な機会となりますから、調査権限やその方法を明確にしておく必要があります。抜き打ち検査についても随時行うべきでしょう。

●介護に拡大「労働環境の悪化、懸念」

ーー介護分野での受け入れについては反対意見も多いが、どうなのか?

高齢化社会が進み、介護職の人手不足が深刻化しているため、政府は外国人人材の活用を進めたい考えです。技能実習法の成立で、外国人技能実習の対象職種に「介護職」を追加することは確実な状況です。また、同じ日に成立した改正入管法で、在留資格「介護」も新たに創設され、介護業界で働く外国人の大幅増加が見込まれます。

介護は、対人サービスが求められる仕事なので、かなり高度な日本語会話能力や読み書き能力が求められます。技能実習生が一定の日本語学習を経て来日したとしても、彼らは1〜2年の間に現場対応ができる程度に日本語能力を向上させつつ、日本式の介護技術も学ばなければなりません。これは至難の業ではないでしょうか。

ーー労働環境はどうなるのか?

介護現場の混乱や、介護事故のリスクを減らすため、介護技能実習を導入する法人は、相応の費用と労力をかけた対策と教育システムが求められます。

一方で、法人は、限られた財源で運営するわけですから、導入経費をかければ、自ずと技能実習生に支払われる賃金が抑えられる傾向が強まり、労働環境の悪化が懸念されます。例えば、日本人と比較して不合理な賃金の違いがある場合や、実習生に特定の介護作業だけを長期に従事させている場合には、機構が積極的に改善指導を行う必要があるでしょう。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

池田 泰介
池田 泰介(いけだ たいすけ)弁護士 六法法律事務所
外国人に関する法律案件の他に、労働事件、家事事件をはじめとする国内民事事件についても多く手がける。外国人問題に関わる著作(共著)として「外国人の法律相談(東京弁護士会外国人の権利に関する委員会〔編〕」

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