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熊本地震の「激甚災害指定」は遅い? 被災者支援に必要な法制度を解説
熊本地震で大きな被害を受けた益城町(提供写真)

熊本地震の「激甚災害指定」は遅い? 被災者支援に必要な法制度を解説

熊本を中心とした一連の地震をめぐり、政府の「激甚災害指定」が遅いのではないかと話題になっている。安倍晋三首相は4月18日の衆院特別委員会で、「激甚災害指定の方向で行くことは間違いない」と述べた一方、事務処理に時間がかかるとして指定時期の明言は避けた。報道などによると、指定は早くても25日以降になる見込みだという。

ネットでは、「誰がどう見たって激甚災害」「まだ(指定)されていなかったことに驚き」といった反応のほか、東日本大震災では、地震発生の2日後に激甚災害指定の政令が公布されていることから、「何をグズグズやってんのかね」といった批判も起きている。

被災地の熊本では、蒲島郁夫県知事が14日の前震後、早期の激甚災害指定を要求。その後、16日未明に本震が発生し、被害がより大きくなっている。

激甚災害に指定されることで、被災地にはどんなメリットがあるのだろうか。災害問題にくわしい津久井進弁護士に政府対応の評価を聞いた。

●「指定で復旧に向けた推進力は格段に変わる」

「被災した自治体は、住民の生命・財産を守り、一日も早い復旧・復興を進めなければなりません。そのために必要なのは『お金』です。

ほとんどの自治体は、自主財源だけでは立ち行かないので、国からの補助が必要です。激甚災害の指定を受けると、補助率が格段に上がるので、自治体は安心して前進できます。逆に言うと、激甚災害指定を受けるまでは、平時の予算措置の範囲内でしか対応ができないので、復旧に着手することすら現実的に難しくなります。

被災者にも、激甚災害指定により、特別な条件で優遇的な融資が受けられたり、母子への特別貸し付けが受けられたりするなど、大きな安心につながるメリットがあります」

指定にはどのような手順が必要なのか。

「一般的には、『著しく激甚』と言えるかどうかを調査するために、被害の調査査定の手続きを行います。具体的には、まず、災害復旧事業の査定見込額を算出し、基準と照らし合わせます。そして、これを踏まえて内閣が政令案を作成します。その後、内閣法制局が審査、中央防災会議に諮問し、答申を受け、最後に閣議決定を経て、指定政令が公布・施行されるという段取りです。

通例、発災日から1~2カ月程度の期間を要するとされています」

早期の激甚災害指定にはどんなメリットがあるのだろうか。

「もちろん、被災地にとって指定は早いに越したことはありません。指定が受けられるかどうかで、安心感はまったく違うし、復旧に向けた推進力は格段に変わります。何よりも、国を挙げて復旧・復興・生活再建に進むわけですから、社会に与えるインパクトが大きく異なります」

●「政府は本来実施すべき責務を果たしていない」

「今回の政府対応は、何事においても問題が多いです。早々に被災者生活支援チームを立ち上げてパフォーマンスに力を入れていますが、本来実施すべき責務を果たしているとは言えません。

たとえば、避難生活の安全を図る『災害救助法』の『弾力運用』について通知がありません。東日本大震災のときは、弾力運用によって、被災者の住宅や入浴の金銭負担を軽減していました。救助の枠を広げる『特別基準』の設定などもなされていません。

被災者の行政期限(運転免許の更新など)の延期や、企業の破産防止などを行う『特定非常災害特別措置法』の適用もされていません(いずれも4月20日現在)。こうした被災者に対する支援や保護の制度があるわけですから、これらを直ちに適用することが求められています。

災害の現場に必要なのは、『人手』と『知恵』と『お金』です。したがって、政府や中央がすべきことは、被災経験を持つなど専門性を持った人を派遣すること、お金の心配をしないようにさせることです。『災害対策基本法』をはじめ、そのための法制度も準備されています。目新しいことや、スタンドプレーをすることではなく、着実にタスクを実施することが大切です」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

津久井 進
津久井 進(つくい すすむ)弁護士 弁護士法人芦屋西宮市民法律事務所
平成7年登録(47期)。元兵庫県弁護士会副会長、日本弁護士連合会災害復興支援委員会副委員長。主な著書に『大災害と法』(岩波新書)、『Q&A被災者生活再建支援法』(商事法務)など。

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