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救急車の利用を「一部有料化」すべきーー財務省審議会の提案を弁護士はどうみる?
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救急車の利用を「一部有料化」すべきーー財務省審議会の提案を弁護士はどうみる?

国の財政のあり方を議論する財務省の有識者会議「財政制度等審議会」は6月初め、地方財政の健全化のための方策の一つとして「救急車の一部有料化」を財務大臣に提言した。有料化が検討されているのは、本来であれば自力で来院できるはずの軽症者による利用だ。

審議会で配られた資料によると、2013年の救急車の出動数は過去最高の591万件で、10年前に比べて約2割増えているが、その半数は軽症者だったという。今後、高齢化にしたがって出動数はさらに増えるとみられており、不適切な利用があれば、緊急を要する重症者への対応が遅れる可能性があるとされる。

救急車の有料化という案について、ネット上では「1万円くらい取ったらいいと思う。簡単に使う人が多すぎる」と賛成する人がいる一方、「本当に重症な人やその周囲の人が呼ぶのをためらう恐れがある」などの反対意見もみられた。

今回の案を、弁護士はどのようにみているのだろうか。冨宅恵弁護士に聞いた。

●「導入には慎重でなければならない」

「数年前から、軽症の方が救急車をタクシーがわりに利用しているのではないか、との懸念を耳にすることが多くなりました。救急車の一部有料化案は、本来必要でないと思われる方の利用を抑制する方法としては、確かに効果的です。

では、どんなケースで有料になるのか。おそらく、医師がその患者の年齢や病状を考慮し、救急車を利用するほど深刻な病状ではなかったと、事後的に判断した場合だと考えられます」

冨宅弁護士はこのように指摘するが、デメリットはないのだろうか。

「費用負担を心配するあまり、救急車を本当に必要とされる方が萎縮し、利用しにくくなる恐れがあります。本来必要な方が、救急車を利用せずに処置が遅れたことで、治療の長期化や高額な救命治療が増える可能性があります。そのような方が増えれば、結果的には、医療費の増大も覚悟しなければなりません」

しかし、ごく普通の人が、救急車を呼ぶような緊急事態に、軽症か重症かを判断できるのかという疑問もある。

「救急車の利用基準を定めた『救急車利用マニュアル』を作成し、それを国民に周知する方法は考えられます。マニュアルがあることによって、どんな場合に呼ぶべきか、そうではないのか判断しやすくなります。制度を実施するならば、そうした対策を事前に施す必要があります」

最後に、冨宅弁護士は「人道的な立場からも、一部有料化については慎重でなければならないことは言うまでもありません」と指摘した。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

冨宅 恵
冨宅 恵(ふけ めぐむ)弁護士 スター綜合法律事務所
大阪工業大学知的財産研究科客員教授。多くの知的財産侵害事件に携わり、プロダクトデザインの保護に関する著書を執筆している。さらに、遺産相続支援、交通事故、医療過誤等についても携わる。「金魚電話ボックス」事件(著作権侵害訴訟)において美術作家側代理人として大阪高裁で逆転勝訴判決を得る。<https://www.youtube.com/c/starlaw>

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