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【インタビュー】なぜ「ろくでなし子」は「女性器アート」を作るのか?(上)
ろくでなし子さん

【インタビュー】なぜ「ろくでなし子」は「女性器アート」を作るのか?(上)

「わいせつなデータ」を不特定多数に送信したなどとして、わいせつ電磁的記録送信などの罪で起訴された芸術家「ろくでなし子」さんの初公判が4月15日、東京地裁で開かれる。

ろくでなし子さんは2013年、ネットで寄付を募って、女性器をモチーフにしたボートを制作した。その際、3000円以上を寄付した人たちに、自らの女性器をスキャンして作った「3Dプリンタ用データ」を配った。また、女性器をかたどり、さまざまなデコレーションを加えた「デコまん」という作品を、東京都内の女性向けアダルトグッズショップで展示していた。

これらのデータや作品が「わいせつ」だとして逮捕・起訴され、注目を集めたろくでなし子さんだが、彼女はなぜそんなデータ・作品をつくったのか。その原動力は何なのか。初公判を前に、「ろくでなし子」こと、五十嵐恵(いがらし・めぐみ)さんに話を聞いた。(取材・構成:渡邉一樹)

●マンガ家「ろくでなし子」誕生

――逮捕された時には「自称芸術家」と報道されて、そのことも話題となりましたが、ろくでなし子さんはもともとどんな活動をしていたんですか?

私はもともと、ストーリーマンガを描いていました。でも、2000年を過ぎたころから仕事がどんどん減っていって、当時流行っていた体験マンガのほうに移行していったんです。そのほうが雑誌に掲載されやすかったんですよ。

でも、体験モノっていうのは、普通の体験をしても載らないんです。ちょっと過激だったり、変わったことをしないと載せてもらえない。

そこで、自分の性的な体験をマンガに描いたりもしていました。笑える下ネタには抵抗がなかったし、ペンネームを変えてやれば別に良いかなと思って。

ただ、その当時は結婚していたので、最初は夫に内緒でやっていたんです。だから、ストーリーマンガ家のときは別のペンネームで描いていましたが、体験マンガを始めたころに「ろくでなし子」というペンネームをつけたんです。

私の場合、「30になる前に結婚しなきゃいけない」みたいに漠然と考えて結婚して、当初は楽しかったけど、そのうち退屈でつまらなくなって、結婚したら女の人は家にいるものだとか、夜遊びしちゃいけないとか、そういうのがキツいことに気づきました。

そんなとき、友達の話を聞いていて、「人妻」ってキーワードに凄く萌える男性が多いことに気づいた。でも、男性が浮気をするのは許されるけど、女性が浮気をすると叩かれるなって。

それなら、堂々と浮気をしている奥さんのマンガを描こうと思って、「ウワカツ」という話を描いたりもしました。抑圧されている主婦にウケるかと思ったら、全然ウケなくて、バッシングされたんですけど(笑)

●はじめて「デコまん」を作った理由

――どのあたりから「まんこ」につながるんですか?

性的な体験談をマンガに描く流れで、まんこの手術がある、びらびらを切り取る手術があるというのを知って、ああこれマンガのネタにすごく良いかもって思ったんです。

自分自身も、まんこのびらびらが大きかったのが気になってはいたので、一石二鳥だなと思って。その話を編集者にして、マンガの連載をもらったんですよ。これまでそんなことをする人はいなかったので、「まんこ漫画家」みたいな枠ができて、キャラが立つかなと思ったんですよね。

実際、マンガに描いたら好評で「続きを」って言われたんですよ。それで、まんこに絡めた何かを常に描いていたんですけど、手術が終わったら、描くことがなくなった。

――なにか新しいことを始める必要があったんですね。

それでネタで悩んで、ホントに「何もないわ」ってなったときに、じゃあ型でも取ってみたらどうだろうと思って、試しにやってみたんです。でも、びらびらを取っちゃったから、つるんとしていて何も面白くないし、これだけじゃつまらなくてネタにもならない。

それで頭をひねって、ギャルとかがやってたデコケータイみたいなのをやったらバカバカしいかなと思って、それで「デコまん」を作ったんですね。

それでマンガが一本描けて、ああよかった・・・。「デコまん」は、もともとそれだけで終わる予定だったんですよ。でも、それを友達に見せたらバカウケだった。だから、もうちょっと引っ張れるかなと思って(笑)

●「まんこくさい」と2ちゃんねるで書かれた

次は、単なるデコレーションじゃなくて、まんこの型をゴルフ場とか戦場とかに見立てて「ジオラまん」を作ってみたんですよ。それも身内ではバカウケした。ライターをやっている友達もいたので、こういう活動を広げていけば、また仕事をもらえるかなぐらいに思って、出かけるときには「ジオラまん」を持って歩いていました。

そうしたら実際に、ネットのあるサイトの取材が入ったんです。そして、その記事が載ったとたん、それまで日に20人ぐらいだった私のサイトへのアクセスが1万人ぐらいきたんですね。

――何があったんですか?

驚いて「なんだこりゃ」って思っていたら、その記事が2ちゃんねるで話題になって、「まとめ」ができていたことがわかりました。ふだん、2ちゃんねるは見ていないんですが、「まとめ」はツイッターでも流れていたので、気づきました。

驚いたのは、私がすんごい叩かれていたことでした。それまで周囲には、笑ってくれる人しかいなかったんですけど。たとえば「まんこくさい」とか、嗅いだこともないはずの人からナゾの誹謗中傷を受けていて・・・。それで「まんこってそんなに悪いの?」って考えたんですね。

●「悪者」になったり「あがめられ」たり

まんこは、たとえばマンガでも、編集者に「伏せ字にしなきゃいけない」って言われていたから、まあそういうもんだろと思って、なにも考えずにその通りにしていたんですけど、よく考えたらなんで伏せ字にしなければいけないんだと疑問がわいてきました。「これはおかしい」と急に気がついて、あらためて考えると納得できなかったんです。

日本では、「まんこ」は悪者になっているかと思えば、一方で、あがめ奉られていることもあります。どうも両極端で「特別視されすぎている」と思うんですよ。すべての女性にあるものなのに、「まんこ」は普通の存在じゃないんです。

たとえば、私がまんこをジオラマにしていたら、それを見たおじさんたちが「そんなもん見せやがって」みたいにすごい怒り出して、「まんこっていうのはこういうものだ」と「おれのまんこ観」みたいなのを押し付けてくることもありました。

それがすごく腹立たしくて・・・。なんで、まんこが男の愛玩物みたいになるんだって。ますます、そう思えてきたんです。

●「怒り」をどうする?

――怒りがわいてきたんですね。

そうです。でも、ただ怒っても、誰も聞いてくれない。

私もそういうやり方はあまり好きじゃないんで、じゃあもっと「バカバカしいことをやって呆れさせてやろう」と思いました。

ラジコンと合体させて走るまんこを作ったり、センサーをかざすと水が吹き出るまんこを作ったりしたのは、そういった考えがあったんです。

そういうことをしていると、怒る人もいるんですけど、ウケてくれる人もいて、反応は真っ二つに分かれていました。それなら私は、ウケてくれる人のために作っていこうと思って、どんどんやっていった。

そして、気づいたら逮捕されていました(笑)。

●まんこは「未開の地域」

――どうして「マンガ家」から「まんこアーティスト」に転身したんですか?

最初はマンガ連載のネタとしてやっていたんですけど、その連載がだんだん終わっていく反面、今度は「まんこアート」のほうで有名になっていったんです。

そのときは、どうしてもマンガに描きたい、というネタがなかった。マンガ家になって20年近いんで、この話を描けと言われたら適当に描けるんですけど、それじゃあ、わくわくしないんですよね。

マンガっていうのはストーリーを組み立てないといけなくて、その起承転結みたいなものが、ちょっと飽きちゃったっていうのと、ネタがないというのと、絵が下手というのと(笑)。

逆に、アートはきちんとコンセプトを作り込めば、一つの表現の中に漫画のように起承転結を説明しなくても済むというか。すごく自分に向いているなと思って。「新しい」って、自分の中で思ったんですよ。新鮮だったんですね。

――個人的にはマンガもアートだと思いますが、ろくでなし子さんの場合、マンガとそれ以外で、表現手法がずいぶん違いますね。

同じことをやっていると飽きちゃうんですよ。まんこはこれまで、何とも掛け合わされていない。いままで誰も開拓していない「未開の地域」なんで、何をやっても初めてだから、「これはおいしい!」と思いました。

しかも、追随者が誰もいない。誰もまねしたいと思わないから、まねされる心配がまるでない。

――ただ、海外では、女性器アートはたくさんありますよね?

そうですね。私も以前から、そうした作品を見たりはしていました。でも、私からすると、そういった作品は「女のつらさ」とかを押し出しすぎていて、見ていても楽しい気分にならないんですよ。作品を見て、なんかこう、ちょっと暗い気分になって、「ああ、女って抑圧されているんだなあ」っていう気分になって帰っていくみたいな。

そういうのが、あんまり自分には向いていなくて、やっぱりなんかこう、バカバカしいというか・・・これはアーティストの柴田英里さんにも言われたんですけど、私は「コロコロコミック的」というか、そういうのをやりたいんだなと思って。

誰かが言ったダジャレについて「それいい!」みたいな感じでやるような。そういう「ノリ」ですね。ノリだけでしか生きていない。ノリが原動力です!

インタビュー(下)に続く

(弁護士ドットコムニュース)

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