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仕事はやりがいが大事・・・「サービス残業」を肯定する「3つの理論」は正しいか?
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仕事はやりがいが大事・・・「サービス残業」を肯定する「3つの理論」は正しいか?

「サービス残業をやらせるのが下手な俺」――こんなタイトルで、はてな匿名ダイアリーに投稿された文章が話題となった。サービス残業について抗議してきた部下に対して、上司である投稿者が「3つの理論」で説得を試みたが、うまくいかなかったという話だ。

そこでは「サービス残業」を肯定するため、次のような理論が語られた。

(1)お客の喜ぶ顔を思えば金のことも気にならなくなるという「仕事はやりがい理論」

(2)定時に仕事を終えることができない部下が悪いという「残業が発生するのは仕事が遅いからだ理論」

(3)まずは金のことは考えずにがむしゃらに働いて能力をアピールしろという「金は後からついてくる理論」

だが、部下はこれらの「理論」に納得せず、仕事を辞めてしまったのだという。投稿者は「部下にサービス残業やらせる方法を考えるのではなく、部下と一緒になって上司に『サービス残業は嫌です』と言うべきだった」と後悔の念をつづっている。

投稿者が書いた「3つの理論」は、労働問題にくわしい専門家の眼にどう映るのか。光永享央弁護士に聞いた。

●「正当化する余地は、1ミリもない」

「身も蓋もない言い方ですが、どんな理屈をもってしても、サービス残業(賃金不払残業)を法的に正当化する余地は、1ミリたりともありません」

光永弁護士はキッパリと述べる。

「労働基準法は、一日8時間または週40時間を超えて労働者を働かせた場合、残業代(割増賃金)を支払わなければならないと定めています(労基法37条)。

このルールは『強行法規』と言われ、当事者の合意にかかわらず、適用されます。もし労働者と会社側が、これに反する合意をしていたとしても、無効となります(労基法13条)」

労働者が「サービス残業」に同意していた場合でも、同様なのだろうか。

「はい。たとえば今回のケースで、上司が部下の『説得』に成功して、部下がサービス残業を受け入れたとしても、法的には何の意味もありません。

さらにいうと、残業代の不払いは、刑事罰(6か月以下の懲役または30万円以下の罰金)まである『犯罪行為』です。

したがって、サービス残業を強いられていて、会社に改善を要求しても改まりそうにない場合は、労働基準監督署に申告して調査してもらいましょう」

ただ、正当な要求だとしても、「会社で波風を立てたくない」という労働者もいるはずだ。そうした人は、どうすればよいだろう。

「在職中は黙々とサービス残業に耐えながら、パソコンのログやファイル更新時刻等、日々の始業・終業時刻に関する客観的証拠を確保しておき、退職後に残業代を会社に請求するやり方があります。

サービス残業の時間を立証するための客観的証拠が十分にあれば、裁判になっても負ける可能性は低く、年14.6%の高率の遅延損害金もつきます。残業代と同額の付加金(ペナルティ)まで認められる余地がありますので、まさに『倍返し』が期待できます」

●3つの理論は「説得力がない」

結局、この「3つの理論」をどう見ればよいだろう。

「このように、サービス残業はれっきとした法律問題ですから、(1)『仕事はやりがい』理論のように、精神論にすりかえることはできません。

また、労働者の業務量や業務内容をコントロールする義務は、会社にあります。(2)『残業が発生するのは仕事が遅いからだ理論』も、法的には認められません。

最後に、能力評価は、あくまでも所定労働時間をベースにした生産性で行うべきです。サービス残業を行ったこと自体や、それによって獲得した成果を高く評価するのは、客観的に公平な評価基準といえません。

そうすると、(3)『金は後からついてくる理論』も説得力はありません」

光永弁護士はこのように述べていた。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

光永 享央
光永 享央(みつなが たかひろ)弁護士 光永法律事務所
一橋大学社会学部卒。2007年弁護士登録(旧60期)。福岡県弁護士会所属。労働者側専門の弁護士として過労死事件や労働事件を数多く手がけ、新卒学生の採用「内々定」取消しの違法性を認める画期的判決も獲得している。

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