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弁護士も「価格や質の競争」を通して意識改革を――司法試験合格者は減らすべきなのか
多田猛弁護士

弁護士も「価格や質の競争」を通して意識改革を――司法試験合格者は減らすべきなのか

弁護士や検察官、裁判官という「法曹」になるためには「司法試験」に合格する必要があるが、その合格者の数をどうすべきかが大きな問題となっている。司法制度改革の一環として法曹人口の拡大が進められてきたが、弁護士の数が増えすぎて飽和状態になっているのではないか、という指摘が弁護士業界の内部から起きているのだ。

たとえば、日弁連は、2012年3月に発表した「法曹人口政策に関する提言」の中で、「弁護士人口増員のペースが急激であり過ぎる」として、それまでの数年間に約2000人で推移していた司法試験の合格者数を「1500人にまで減員」すべきだと要望していた。そのような動きを受け、法律家の数などについて議論する政府の法曹養成制度改革推進室は6月11日、今後の司法試験の合格者数について「1500人程度」は輩出するような施策を進めるべきという案を示した。

一方、日弁連が唱える合格者数の「減員」要望に反発している弁護士もいる。もともと司法制度改革では、多様な法律家のニーズに対応するため、「司法試験合格者は年間3000人を目標とする」とされていた。今回、政府が示した「1500人」という数字はその半分にすぎず、あまりにも少なすぎるというのだ。

法律のプロの登竜門である司法試験はどうあるべきか。競争が激しくなったといわれる業界で、弁護士はどのように対応していくべきなのか。日弁連の主張と一線を画し、法曹人口のさらなる拡大の必要性を訴えている「ロースクールと法曹の未来を作る会」事務局次長の多田猛弁護士に話を聞いた。

●合格率の低さが、負のスパイラルを招いている

――司法試験合格者数を「1500人程度」にするということを聞いて、どう思われましたか。

まず、法曹養成制度改革推進室が作成した決定案ですが、これを「合格者数を1500人程度にする」趣旨だとする一部マスコミ等の報道は、ミスリーディングです。

「当面、これより規模が縮小するとしても、1500人程度は輩出されるよう、必要な取組を進め」るべきとありますから、「1500人」という数字はあくまでも「下限」です。法科大学院を中心とした教育の中で、今後もより多くの法曹を輩出すべきであるという同推進室の強い意欲が窺えます。

法曹養成制度改革推進室の案は、内閣官房のウェブサイトで見ることができます(http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/hoso_kaikaku/dai22/siryou4.pdf)。そちらに目を通していただきたいと思います。

現状では法科大学院への入学者数が2000人台に下がっているわけですから、確かに3000人という数を合格させることは、現状ではなかなか現実的とは言いがたいでしょう。

しかし、最低でも1800〜2000人くらいは維持して、今からでも合格率を高める努力をすることが重要なのではないでしょうか。

さきほどの決定案でも、「各年度の修了者に係る司法試験の累積合格率が概ね7割以上」と言明されています。これは、これから法科大学院に進学を考えている大学生や社会人の方々にとっては、相当勇気づけられる数字だと思います。

――合格率を高めることが重要なのでしょうか。

そうです。司法の未来をより良いものにするためには、法科大学院に多様な人を呼び寄せる必要があります。そのために重要なことは、この道に進んでも大丈夫だという未来への安心感だと思います。

法科大学院を修了して司法試験を受けると、合格率が7割程度確保されている。こういった状況であれば、安心した気持ちになる人も多いでしょう。実際、アメリカの各州の司法試験では、ロースクールを修了すればこの程度の合格率となっていますし、日本の法科大学院制度も、これをモデルとして作られるはずだったのです。

しかし、法科大学院は全国に数多く設立された上、定員の数についても、基本的には各大学院の判断に委ねられ、約5700人という多数の人が入学することになりました。入り口でこれだけ多くの数を入学させているにもかかわらず、出口である合格者数を2000人とすれば、合格率が数年で3割を切ってしまうのは明らかだったはずです。

合格率がここまで低ければ、法科大学院に行くリスクは高いと考える人が増え、多様なバックグラウンドを持つ志望者が減っていくことにつながります。まさに、負のスパイラルに陥っている状態なのです。

――法科大学院の入学者数は、どうして設立時にコントロールできなかったのでしょう。

司法試験を行うのは法務省で、法科大学院の設置を取り仕切るのは文部科学省です。制度を運営する省庁の連携が不十分だったために、入学者数という入口と、合格者数という出口の調整がうまくできなかったものと考えられます。

政府が連携して制度設計をすべきですが、今回の決定案には、法務省と文部科学省の「連携」がうたわれていますから、今後は両省が連携して、制度の改善がはかられていくことを期待しています。

●資格を取るだけで仕事に困らない時代は終わった

――弁護士の間では、訴訟件数も減って市場も縮小しているから、合格者は1500人でも多すぎるという意見がかなり多いように思います。

マスコミが弁護士の現状について、色々と言うのは仕方のないことです。しかし、弁護士の立場から「弁護士は余っている」「稼げない業界だから合格者を減らすべき」といったネガティブな発言をする姿勢は、業界にとって明らかにマイナスです。

もっと業界の魅力を積極的に伝えていく方向でなければ、真に市民や企業が必要とする人材を法曹界に集めるという目的から、どんどん離れていってしまうでしょう。

弁護士資格さえあれば、仕事に困らずいい思いができるといった時代は、完全に過去のものになりました。競争がほとんどなかった昔が異常なのであり、ようやく普通の状態に近づいているのです。

――これから新規参入する弁護士は、どのような方法で活路を見出せばいいのでしょうか。

地方裁判所の支部が管轄する地域区分内に、弁護士の数が全くいないか、1名しかいない「ゼロワン地域」は、解消されたと言われています。しかし、市町村単位で見れば、まだまだ法律事務所が全くない地方都市はあります。そういった地域に思い切って進出するという方法も一つでしょう。

一方、都市部は、弁護士の数も多いですが、市場全体としてみたときのパイは決して小さくありません。当事務所は、現在、ベンチャー企業や海外から進出する企業をサポートする仕事を行っていますが、「今まで誰に何を相談していいかわらなかった」という経営者がたくさんいらっしゃいます。個人事務所の弁護士も、「いままで費用等の面で弁護士の敷居が高かったために相談できなかった」というクライアントに対して、リーガルサービスを提供する手段は、工夫しだいでいくらでもあります。

さらに、中小企業の多くが国際進出している現代においては、大手事務所でなくても、グローバル対応ができる弁護士の需要は、間違いなく増えています。

また、企業や自治体などで働く組織内弁護士のニーズは近年相当増えていますが、むしろなり手が不足しているという問題もあります。弁護士資格を生かして組織で働く道を積極的に選んでもよいでしょう。

まだまだ弁護士の利用方法について、理解が行き渡っていない実情があります。我々弁護士は、価格や質の競争を活発に行うことで、市民との関わり方を提案し、意識を変えていくことが重要だと思います。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

多田 猛
多田 猛(ただ たけし)弁護士 弁護士法人Next
弁護士法人Next 代表弁護士。第二東京弁護士会・子どもの権利に関する委員会 委員。ロースクールと法曹の未来を創る会 事務局次長。ベンチャー企業・中小企業を中心とした企業法務、子ども・家庭の法律問題をはじめ、幅広い分野で活躍。

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