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捜査機関の「通信傍受」どこまで拡大するのか? 「盗聴社会の到来」弁護士たちが批判
千葉県弁護士会の大塚功副会長(左)と埼玉弁護士会の大倉浩会長(右)

捜査機関の「通信傍受」どこまで拡大するのか? 「盗聴社会の到来」弁護士たちが批判

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2010年に起きた大阪地検特捜部検事の「フロッピー証拠改ざん事件」などを受けて進められてきた「刑事司法改革」の議論が、大詰めを迎えている。政府は3月13日、法務省の法制審議会が取りまとめた答申を閣議決定した。関連法案が、今国会で審議される。

改革の目玉は、「取り調べの録音・録画」の義務化や「司法取引制度」の導入だ。ただ、今回の法案には、そういった新制度だけでなく、「通信傍受を使った捜査がやりやすくなる」内容が盛り込まれている。

そのため、法案に対しては、「盗聴社会が到来する危険がある」と反対する声が、弁護士たちから出てきている。

●「窃盗」「詐欺」も対象に

そもそも、犯罪捜査のために通信傍受ができるケースは、通信傍受法によって厳しく制限されている。

まず基本的に、捜査機関が通信傍受をするためには、裁判所の令状を取らなければならない。さらに、対象犯罪は、組織的な薬物関連や集団密航、銃関連、組織的な殺人など、かなり重大なものに限られている。

裁判所が令状を出す場合にも条件があり、そうした犯罪に関連した通信が行われる疑いがあり、犯人特定や犯行状況を明らかにすることが他の方法では著しく困難なとき、とされている。

今回の法案では、まず、通信傍受の「対象」となる犯罪が大幅に増えている。

答申によると、新しく通信傍受の対象となる犯罪は、放火、殺人、傷害、逮捕監禁、誘拐、窃盗、詐欺、爆発物使用、児童ポルノという9つの類型だという。

この中には「窃盗」「詐欺」など、通常の犯罪も含まれている。

ただし、これら9つの類型の犯罪について盗聴が可能なのは「当該犯罪があらかじめ定められた役割の分担に従って行動する人の結合体により行われたと疑うに足りる状況があるときに限る」とされている。

つまり、複数人であらかじめ役割分担をして行われる、「振り込め詐欺」のような犯罪が想定されているようだ。

●通信傍受の「立会人」をなくす

もう一つの大きな変更点が、通信傍受の際の「立会人をなくす」という点だ。

現行ルールでは「傍受が適正に行われていることをチェックする」ため、捜査機関が通信傍受をする際、通信事業者が常時立ち会うことになっている。立会人は通信の内容を聞いたりはしないが、「傍受の実施に関し、意見を述べることができる」とされている。

一方、新しいルールでは、この立会人の代わりに、通信内容等を自動的に記録・暗号化する「特定装置」を使うことができるようにする。

立ち会い制度は事業者側の負担が大きく、捜査機関は「使い勝手が悪い」と指摘していたようだ。

●「盗聴社会の到来」と批判

こうした通信傍受法の改正案に対して、全国18の弁護士会が「反対」の共同声明を発表し、3月13日に東京・霞が関の司法クラブで記者会見を開いた。埼玉弁護士会の大倉浩会長は「盗聴社会の到来を招く危険がある。国家による市民社会の監視につながる問題だ」として、慎重な議論を求めた。

大倉弁護士は「盗聴は、プライバシー侵害の危険性が大きい捜査手法だ。対象となる犯罪をもっと明確に絞るべきだ。捜査機関にとって都合が良いからと拡大していけば、歯止めがきかなくなる」「技術的措置では、濫用防止にはならない」と改正案を批判した。

千葉県弁護士会の大塚功副会長は「いまの法案では、取り調べの可視化が実現するのはごく一部のケースにすぎない。捜査機関側の証拠開示も全く不十分な内容だ。それなのに捜査手法が拡充されるというのは、バランスがとれていない」と批判していた。

証拠改ざん事件や数々のえん罪事件などを受けて進んだ「刑事司法改革」の行く末がどうなるのか。国会での議論に注目すべきと言えそうだ。

(弁護士ドットコムニュース)

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