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「印鑑証明」見直しを千葉市長が表明 「実現」のためのハードルは?
「印鑑証明」は、そもそも法的にはどのような位置づけなのだろうか?

「印鑑証明」見直しを千葉市長が表明 「実現」のためのハードルは?

「印鑑証明という前時代的な本人確認手段が見直せない行政に合理化など期待できません」「千葉市は条例改正で見直します」――。再選を果たしたばかりの熊谷俊人・千葉市長がツイッターでこのように表明し、話題になった。

印鑑証明とは「この印鑑は本人のものだ」と市町村がお墨付きを与える証明書のこと。発行してもらうには事前の登録と「印鑑証明カード」などが必要になる。

熊谷市長は「慣習的に印鑑証明を求めている役所の各種手続き」について、本人確認ができれば十分なものもあると主張した。印鑑証明カードを忘れた場合にはその場で廃止手続きを行い、新規発行している現状があると指摘し、制度見直しの必要性を訴えている。

この印鑑証明、そもそも法的にはどのような位置づけなのだろうか。また、条例改正で見直すためにはどんなハードルがあるのだろうか。千葉県で活動する梅村陽一郎弁護士に聞いた。

●印鑑+印鑑証明の証明力は「アナログ界最強」

「実務上、実印が捺印された書面に印鑑証明が添付されていれば『国内・アナログ界最強の証明力』を持っています。その理由は、実印を登録したり、印鑑証明を取得するのに『一定の手続が必要だから』です。

ある程度のめんどうくささがあるからこそ、それに反するよほどの証拠がない限り、実印が捺印された書面は『本人の意思で捺印されたということにする』という取り扱いになっているのです」

――民間に比べて、非合理的・非効率的では?

「たとえば、銀行では、カードと暗証番号、通帳と印鑑という一定のアイテムがそろっているからこそ、お金を引き出せます。本人確認できるからといって、免許証ではお金は引き出せません。

カードや通帳をなくせば再発行、暗証番号を忘れれば新しい暗証番号の登録のように、アイテムをそろえ直す手続きは、やはりある程度の手間がかかるようになっています。手間をかけることで、間違いや不正を減らせるからです。銀行・預金者が安心していられるのは、このような手続きが安全性を高めているから、ともいえます」

――「めんどうな手続き」自体も重要だということ?

「免許証やパスポート、健康保険証で印鑑証明が取得できるということになると、最強のアイテムを今より簡単にそろえられるということになります。わざわざ印鑑登録カードを要求している(めんどうくさくしている)意味がなくなります。

熊谷市長は『本人確認ができても印鑑証明は発行できない』ため『その場で廃止手続き・新規登録で発行している現状』があると指摘しています。この場合も、少なくとも再発行する手続きやその履歴は残り、事後的に検証することもできます。その場で再登録できるなら、むしろ民間銀行よりも融通は利いています」

――熊谷市長の提言をどうみる?

「市の条例やそれぞれの市町村の内部運用などで決まっている手続きなら、千葉市単独で『印鑑証明は必要ない』と決めることはできます。廃止した場合の副作用も考慮しつつ、普通の捺印やサインで済ませられるケースは改善していけば良いと思います。

ただ本当に法律の根拠がないのかは、よく確かめる必要があります。全国的な統一手続きの通達が総務省から出ているケースもあれば、逆に法律があってもその立法事実が既に失われている場合もあるでしょう。慎重に検討すべきだと思います」

どうやら、千葉市だけでできることには限界があるようだ。本人確認や意思表明がますます重要化するこの社会で、「印鑑」を今後どうしていくべきなのか——。熊谷市長の提言をきっかけに、広く多角的な議論を盛り上げていきたい。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

梅村 陽一郎
梅村 陽一郎(うめむら よういちろう)弁護士 弁護士法人リバーシティ法律事務所
弁護士法人リバーシティ法律事務所 代表社員 千葉県弁護士会、千葉商科大学大学院客員教授、千葉大学法科大学院非常勤講師 著書「図解入門ビジネス最新著作権の基本と仕組みがよ~くわかる本」など

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