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第35回

過失相殺の割合 共同不法行為の場合(4)

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稲野 正明弁護士

稲野法律事務所

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(5) 似て非なる事件(続き)
ア  このケースが,最高裁平成13年判決事件とどこが違うかといえば,医療過誤の中身が違うということにつきます。
   このケースでは,通常考えられないミスが起こっています。つまり,Y1(交通事故加害者)から見ると,交通加害行為と被害者死亡との間に異常な事情が介在しているということです。
そうすると,Y1の行為と死亡との間の因果関係はないので,この段階で死亡の結果について,Y1とY2の共同不法行為は成り立たないことになります。

  ちなみに,Y1は,原告(相続人3人)に対し合計300万円を支払って和解になっています(注1)

  さて,共同不法行為でない以上,本来であればこの事件の話は終わるのですが,重要な争点について判断されていますので,しばらく脱線してこの事件(名古屋地裁平成20年8月22日判決 尾崎康裁判官)について検討することにします。

イ Y2の主張  慰謝料だけが損害
Y2(医師側)は,こういう主張をしました。
「 独立不法行為とした場合の損害論
 亡Aは、交通事故外傷による頭部のびまん性損傷(注 局部的ではなく脳全体に広がった損傷のことです)により意識不明の重体となっており、その救命可能性は30%程度である。この点について、本件医療事故により亡Aの死期を早めたことに伴う慰謝料は発生するとしても、亡Aが平均余命まで生存することを前提とした損害積算は誤りである。
 本件の場合、精神的苦痛に対する慰謝料をもって論じるのが適切である。そして、最高裁判所平成12年9月22日第2小法廷判決(民集五四巻七号二五七四頁)で判示するところに準じるものとして慰謝料を考慮するのも採りうる妥当な解決である。上記事案は、合計二〇〇万円の慰謝料を認容した原判決の判断は正当として是認できる旨を判示した。


ここで引用されている最高裁判決の事件は,最高裁の公的な要旨として,「医師の過失ある医療行為と患者の死亡との間に因果関係の存在は証明されないが、右過失がなければ患者がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性の存在が証明される場合、医師は不法行為責任を負う」内容の事件とされています。
「生存(生命を維持すること)の相当程度の可能性」が法が保護する利益(法益)であるというとらえ方です(注2)。

 では,この場合,不法行為責任を負う損害はどう見るべきでしょうか。ネックになるのは,「因果関係のある
損害は何かという点です。死亡結果との因果関係自体が立証できないというのですから,死亡に伴う損害(生存している場合と比較して,死亡によって生じた損害。損害についての通説である「差額説(注3)」ではこういう発想をします))は,因果関係のある損害と言えない,つまり賠償請求できない。せいぜい慰謝料(非財産的損害)だけが損害で,その慰謝料も死亡を前提と見ていいかどうかも怪しくなるということにもなりかねません。

 因果関係を割合的に見て,何%かをかけて損害を出すというのも一つの回答かも知れませんが,もともと因果関係を「割合的」にみるという考え方は評判が悪く(因果関係は「あるかないか」レベルのものであるのに「割合的」とは理解に苦しむという批判),支持する人は少ない状況です。

この判決は,次のような結論を採りました。延命率30%(かなり高い数字です)という事情が,大きく左右したのでしょうか。

「本件交通事故と本件医療事故との間に共同不法行為が成立しない以上、被告らが、本件交通事故により発生した損害を賠償する理由はない。
 その一方、被告らが本件医療事故により発生した損害を賠償する責任を負うことは当然である。
 ところで、被告らは、上記のとおり共同不法行為が成立しない場合について、被告らとしては慰謝料のみを負担するものであるとする趣旨の主張をするが、亡Aは本件医療事故によって死亡したのであるから、被告らは、亡Aの死亡により発生した損害を賠償すべきであって、その損害費目が慰謝料に限定される理由はないというべきである。
 被告らの指摘するところの、亡Aが被告病院に搬入された際、本件交通事故による受傷により既に重篤な状態であったという事実については、後記のとおり、逸失利益の算定にあたって、考慮すべきものである。





  1.  Y1が無保険,無資力であったとか被害者に相当大きな過失があると思われるような事案であった等を理由に不本意ながら妥協したのか,それとも,死亡結果について責任を問えない以上は,致命傷を与えた点に限定した慰謝料等(交通事故の2時間半後に死亡しているので,その間に限定した苦痛の慰謝料と入院費)として妥当な額とみて和解をしたのかは,はっきりしません。

  2.  適切な治療を受ける機会,あるいは期待権自体が法益であるという考え方とは異なります。平成17年12月8日最高裁判決(拘置所に勾留中の者が脳梗塞を発症し,重大な後遺障害が残った場合について,「速やかに外部の医療機関に転送されていたならば重大な後遺障害が残らなかった相当程度の可能性」があると証明されたとは言えないとして国家賠償請求が退けられた事件)において,泉裁判官と横尾裁判官は「患者が適時に適切な検査,治療等の医療行為を受ける利益」が保護法益であると考えるべきであり,後遺障害が残る可能性がなかったとしても,利益の侵害があるから不法行為にあたるとして国家賠償を認めるべきであるという反対意見を書いています。なぜこれが少数意見(反対意見)になっているのか不思議な感じはします。

  3.  差額説とは,「損害とは,不法行為によって実際に生じている財産状態と,不法行為がなかったとすればあったであろう財産状態との差である」というものです(窪田充見「不法行為法(民法を学ぶ)」,有斐閣,p148)。


このコンテンツは寄稿担当弁護士の責任のもと作成されたものです。弁護士ドットコムは内容の正確性、真実性等について責任を負いませんのでご了承下さい。

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稲野 正明弁護士

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