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実話のように語られた「創作の物語」 真実と思った読者は「慰謝料」をもらえる?
実話であるかのように語られた感動の物語が、フィクションだったとしたら・・・

実話のように語られた「創作の物語」 真実と思った読者は「慰謝料」をもらえる?

「感動を返せ!」。ネット上で、さも実話であるかのように語られ、広まっていた感動の物語が、フィクションだとわかったときのネットユーザーの声だ。

その物語とは、昨年、ネット掲示板「2ちゃんねる」に書き込まれた「ゲーセンで出会った不思議な子の話」。ある男性がゲームセンターで出会った女性と交流を深めていくものの、女性は病気で亡くなってしまうというストーリーだ。

作者は数日間にわたり書き込みを続けたが、締めくくりとなる投稿でも「彼女が亡くなった直後は一カ月近くまともにメシ食べれませんでした」と記すなど、創作だとは明言しなかった。その後、一連の書き込みがまとめサイトに掲載されると、ツイッターで拡散し、ミュージシャンや声優らが「朝から号泣」などとコメントしたことで、さらに話題となっていた。

だが作者はこのほど、この物語の書籍化に関するインタビューで、創作だったことを「カミングアウト」してしまった。これによって、ネット上では怒りの声がいくつもあがったというわけだ。

この「話」が実話だと信じて感動していた読者は、「だまされ、精神的ショックを受けた」として、作者に慰謝料を要求できるのだろうか。尾崎博彦弁護士に聞いた。

●単に受け手の感情を害しただけでは「違法」とはいえない

「結論から申し上げますと、読者が慰謝料を請求することはできません。なぜなら、読者はなんの権利も侵害されていないからです」

尾崎弁護士はこう断言する。なぜそう言えるのだろうか。

「ある表現行為が、他人の感情を害することはよくあることですが、感情を害したというだけで違法とされるのであれば、およそ表現行為はできなくなってしまいます。

したがって、単に受け手の感情を害しただけでは、その表現行為は違法にはなりません。

違法になるのは、名誉やプライバシーといった法律上保護されるべき個人の利益を侵害していると認められる場合や意図的にある特定の階層の人たちに対する明らかな悪意を示す表現態様(いわゆるヘイトスピーチ)の場合に限定されると考えられます」

●フィクションでも「感動する人」は感動する

それでも、うそをつくのはよくないことなのでは?

「道徳の問題はともかく、『実話でないことをさも実話であるかのように話を広めた』という行為が、詐欺に当たるような場合でない限り、違法ではありません。

このエピソードの場合、作者は『特定の人から不当な対価を得ようとした』目的があるとは言えませんので詐欺にはあたらず、この点からも違法とは考えられません」

尾崎弁護士は続ける。

「さらにいうならば、このエピソードの場合、それを聞いた人は『話の内容』を聞いて『勝手に感動した』のであって、それが実話かどうかは問題ではありません。

もし、この話がフィクションであるとしても『感動する人は感動する』こともあるからです。

したがって、社会通念上も、この程度の『うそ』は容認されます」

つまり、他人のプライバシーや名誉、財産など、法的権利に被害を及ぼさない限り、この程度の「演出」は許されるということだろう。

「以上、いずれの見地からでも、作者の行為は『違法』ではなく、ましてや読者の『権利』を侵害したわけでもありません。慰謝料を請求すること自体がナンセンスです」

尾崎弁護士はこのように結論づけていた。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

尾崎 博彦
尾崎 博彦(おざき ひろひこ)弁護士 尾崎法律事務所
大阪弁護士会消費者保護委員会 委員、同高齢者・障害者総合支援センター運営委員会 委員、同民法改正問題特別委員会 委員

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