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「ブロッキング法制化、いったん見合わせて」検討会委員9人が意見書、中間まとめはまとまらず
インターネット上の海賊版対策に関する検討会議のようす

「ブロッキング法制化、いったん見合わせて」検討会委員9人が意見書、中間まとめはまとまらず

知的財産戦略本部の「インターネット上の海賊版対策に関する検討会議」の第8回会合が9月19日、東京都内で開かれた。ブロッキング(アクセス遮断)に反対・慎重の委員9人が、「法制化をいったん見合わせること」などを盛り込まないかぎり、事務局の「中間まとめ案」に反対するという意見書を提出した。スケジュール上、中間まとめに向けた「最終回」だったが、賛成派と反対派の溝は埋まらないまま、予定通りにはできあがらず、少なくともあと1回「延長戦」がおこなわれることになった。

●「中間まとめ案に賛成できない」

ブロッキングをめぐっては、憲法で定められた「通信の秘密」を侵害するおそれがあるなどとして、法律家や事業者から根強い反対がある。この検討会議でも最大の争点になっているが、事務局案では、ブロッキングの具体的な法整備に関する部分が記載されていることなどから、反対派から「ブロッキングありきだ」「両論併記ではなく、削除すべきだ」といった意見があがっている。

この日の検討会で、瀬尾太一委員(日本写真著作権協会常務理事)は「ここで議論したことは、公平に両方書くべきだ。どちらかを削ったり、増やしたりすることなく、ちゃんとバランス良く、結論が出なかった内容について書くべきだ。話したことをあたかもなかったことにするのは、会議の設置の趣旨からしておかしい」と述べた。

ブロッキング反対の森亮二委員はこの日、委員9人と連名で意見書を提出。その趣旨について、「ブロッキング法制化はいったんやめてもらいたい、ということを願っているからだ。このタスクフォースの外側のことかもしれないが、わたしたちはそのように願っている。そうならないかぎり、中間まとめ案に賛成できない」と語気を強めた。委員は全部で20人、うち座長は2人なので、座長以外の半数がこの意見書に賛同していることになる。

●「ブロッキングありき、という誹りまぬがれぬ」

逆に、後藤健郎委員(コンテンツ海外流通促進機構代表理事)は「最終手段として、ブロッキングが必要だ」と主張。「この会議は世界から注目されている。誤ったメッセージを海賊版事業者に発するおそれがあることには留意しないといけない」「透明性を確保して、運用体制を確立すれば、『通信の秘密』の問題はあるが、国民の理解は得られる。暴利を貪る海賊版サイトが、やりたい放題できるというのは、インターネットが自由な世界といってもおかしい」とつづけた。

一方、宍戸常寿委員(東京大学教授)は、ブロッキングの立法事実やその他の施策に関する議論に深まりのない状況で、ブロッキングの法制化について話し合うことに疑問を呈した。「『ブロッキングを急いでやらないと、国際社会から批判を受ける』ということになれば、見方は逆だ。ブロッキングありきでは、『通信の秘密』を破壊するという誹りをまぬがれない」と反論した。

●「事務局による単なる『形作り』に過ぎないものだ」

この日、9人の委員(有木節二委員、宍戸委員、立石聡明委員、長田三紀委員、堀内浩規委員、前村昌紀委員、丸橋透委員、森委員、吉田奨委員の連名)が提出した意見書の中身は、(1)ブロッキングを可能にする法律には強い憲法違反の疑いがあること、(2)他の手段の実効性を検証するまで法制化はいったん見合わせるべきであること――などの明記をもとめるものだ。意見書の全文は以下の通りだ。

「事務局が提出する中間まとめ(案)は、ブロッキング法制化の当否について賛否両論があったということを確認するに留まるものであり、本検討会議の外でブロッキング法制化を決定し、国会への法案提出を強行することを可能にする内容となっています。

このまま法制化に向けたとりまとめを強行すれば、今後の他の海賊版対策(著作権教育・意識啓発、正規版の流通促進、広告出稿の抑制、検索結果からの削除・表示抑制、フィルタリング強化、アクセス警告方式の導入、CDNへの対応など)において必要不可欠な権利者と電気通信事業者・消費者間の協力関係の構築にも大きな支障が生じることは明らかであり、法制化をいったん見合わせ、他の手段の効果を見てから検討を再開する等の選択肢が当然に検討されるべきです。

にもかかわらず、事務局がこのような選択肢に見向きもしないのは、異常な対応というほかはなく、翻って、本検討会議が当初から、ブロッキング法制化を企図する事務局による単なる『形作り』に過ぎないものであったことを物語るものです。

私たちは、海賊版サイトの被害が深刻なものであることを理解し、それぞれの立場で対策に協力する前提で、この検討会議に参加しました。しかしながら、仮に、事務局が、私たちが大切だと考える価値にまったく理解を示さないまま、ブロッキングの法制化を強行することがあれば、海賊版サイト対策に向けた権利者と電気通信事業者・消費者の協力関係は、阻害されることとなるでしょう。

私たちは、(1)ブロッキングを可能にする法律には強い憲法違反の疑いがあること、(2)他の手段の実効性を検証するまで法制化はいったん見合わせるべきであること、の2点を明記し、さらに(3)具体的な法制度の内容部分は削除しまたは参考情報に留めることとしない限り、中間まとめ(案)に反対します」

(弁護士ドットコムニュース)

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