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海賊版サイト対策、ブロッキング賛成・反対の関係者が激論…川上氏発言に注目集まる
川上量生氏

海賊版サイト対策、ブロッキング賛成・反対の関係者が激論…川上氏発言に注目集まる

インターネット上の「海賊版サイト」対策について考えるシンポジウムが9月2日、東京都内で開かれた。主催は、情報法制に関する専門家らでつくる一般財団法人情報法制研究所(JILIS)。海賊版サイト対策として「ブロッキング」導入論をとなえる川上量生氏(ドワンゴ取締役CTO・カドカワ社長)が登壇して、論客たちと激論をくりひろげた。

●別所氏「ブロッキングはほんとうに有効な手段なのか」

海賊版サイト対策をめぐっては、現在、知的財産戦略本部の「インターネット上の海賊版対策に関する検討会議」(タスクフォース)で、「通信の秘密」を侵害するおそれがあると指摘されているブロッキングを法制化すべきかどうかについて、賛成・反対派に分かれて、激しい議論をおこなっている。

この日のシンポでは、別所直哉氏(一般社団法人セーファーインターネット協会・会長)が「ブロッキングの法制化ができたとしても、そのスコープが狭くて、手続きが複雑だったら、ほんとうに有効な手段なのか」と指摘した。

そのうえで、別所氏は、ブロッキング賛成派(権利者側など)と反対派(ISPなど)による協力体制づくりが必要だと強調した。そのために「ブロッキングはいったん『棚上げ』すべき」であり、「権利者側のだれか走り回ってとりまとめるしかない」と話した。

別所氏の発言を受けて、川上氏は、ブロッキングが「表現の自由」にかかわるテーマであることなどから、出版業界全体をとりまとめるのは難しい、という認識を示した。「出版業界にとって違和感があることで、時間がかかる」としながらも、「少なくとも僕は努力する」として、前向きな姿勢を示した。

一方、ブロッキングの「棚上げ」については、「現時点は、正当性がない」と打ち消した。「やはり、反対派の人たちに協力してもらえなかった。(出版社は)非協力的と言われているが、もともと協力するための場だったタスクフォースで、協力してもらえなかったのは、むしろ僕らの側だった」とぼやいた。

●川上氏「効果がない方法も含めて『全部やれ』というのはフェアじゃない」

川上氏はタスクフォースの委員をつとめており、これまでの会合で、ブロッキングの必要性をくりかえしうったえている。この日のシンポは「アウェー」に近いものだったが、次のような持論を展開した。

「通信にかかわる人が『ブロッキングに効果がない』と言うのはおかしい。『効果があるけど回避策がある』『効果が限定的だ』『副作用がある』というのはわかる。どれくらい効果があるのか、どれくらい副作用があるのか、作業が大変で本当にそれをやる価値があるのか、そういう議論は正しい」

「効果がない方法も含めて『全部やれ』というのはフェアじゃない。合理的な範囲内で努力はやっている」「出版社は、ITの専門家ではないから、まだ思いついていない方法も当然ある。そのことに対して、出版社が誠実じゃないというような批判は、出版業界に対する侮辱だ」

「『海賊版サイトを見るのを監視されない自由な社会』を本当に目指すべきなのか。区分けするわけにはいかないのか。将来、自由を奪われるという懸念はわかるが、そういうことを言っていたら、何もできない。(ブロッキング反対の)根拠は、ただの想像・連想にすぎない。根拠は示してほしい」

「インターネットは、治外法権になっている。そもそも『治外法権的なユートピアを作る』という思想が入っているからだ。それには、かならずしも反対しない。ただ、今はそうじゃない。インターネットの中で違法行為することを、どこまで認めるか、議論されてもいいテーマだ」

●高木氏、「アクセス警告方式」に異議をとなえる

タスクフォースでは、宍戸常寿氏(東京大学教授・JILIS理事)が提案した「アクセス警告方式」という対策案も検討されることになっている。この方式は、約款によって、包括的な事前同意をえたうえでアクセスを検知して、ユーザーが海賊版サイトにアクセスしようとしたとき、警告を出すというものだ。

アクセス警告方式は、『通信の秘密』を侵害しうるが、オプトアウトなどを条件として、認められる可能性があるという。また、静止画ダウンロードの違法化なども前提になる。宍戸氏によると、海賊版サイトに対する社会的意識や環境整備にも依存しており、「『オプトアウトすることはカッコ悪いよね』という雰囲気をつくっていかないといけない」(宍戸氏)

一方で、シンポ会場にいた高木浩光氏(産業技術総合研究所主任研究員・JILIS理事)から、「アクセス警告方式には大反対だ」と異議をとなえる発言があった。次のよう4つの理由があるという。

(1)約款による同意が形骸化する

(2)むしろ監視の強化となる

「『オプトアウトするのはカッコ悪い』という空気を醸成していくことこそ、子どもたちに『監視を受け入れろ』ということであり、プライバシーの観点からいえば、本末転倒もいいところだ」

(3)前提とされている「静止画ダウンロードの違法化」自体が非常に問題が大きい

「(現行法上)動画のダウンロード違法化というのは、閲覧が違法ではなくて、コピーして手元に保存することが違法とされている。ところが漫画村は、閲覧だけで被害が出ていた。(もし静止画の)閲覧自体まで違法とすることになると、いろいろな問題が発生する。(サイトを)見ること、確認することもできなくなる」

(4)そもそも、『通信の秘密』の位置づけが違うのではないか

「川上さんは『ブロックして、どうして(通信の秘密が)侵害されるのか』とよく言っている。実は、私もそう思っている。なぜ、ブロッキングに『通信の秘密』がかかわるかというと、『検閲の手段として、(通信の)秘密を外さないと、検閲できない』という意味だと思っている。本当はそういうふうに整理しないといけない」

●高木氏「『通信の秘密』だからこそ・・・」

高木氏はさらに「司法型ブロッキング(司法手続きを経てブロッキングするやり方)大賛成だ」とつづけた。

「アクセス警告方式のような、司法を通さなくて、民間の自主的な取り組みで、どこの業界団体がやっているかわからないリストで介入されるのは、『通信の秘密』を害される。『通信の秘密』を害されないようにするには、司法を介在させる以外ない。

私としては、ブロッキングをやらないほうがいいと思っているが、『仕方ないから、アクセス警告方式でいくしかない』というくらいだったら、最悪なので、むしろ、『司法型ブロッキング大賛成』と言いたい。

ただ、そのときに注文をつけたいのは、『通信の秘密』だからこそ、そうなんだ、と問題を整理しないといけないということだ。ただ、条件として、(川上氏には)『通信の秘密はないんだ』『時代に合っていない』という言説は一切やめていただきたい」

●川上氏「素晴らしい毒饅頭を投げられた」

思いがけず水を向けられた川上氏は「『通信の秘密』がないと言わなければ、司法型ブロッキングは大賛成、という素晴らしい毒饅頭を投げられた」と反応。「通信の秘密がない」とは言っていないと否定したうえで、「『通信の秘密』が拡大解釈されすぎているんじゃないか、適用範囲が大きすぎるんじゃないか、ということは思っていた」とつづけた。

上原哲太郎氏(立命館大学教授・JILIS理事)は「たしかに『通信の秘密』を見直すかどうかの議論はある程度しておく必要があるが、何を守るためにやるのか、きっちりと考えるべきだ」としながらも、「ブロッキングに関しての『通信の秘密』は、まさに『人が自分の意思で何を見るか』ということに対するコントロールなので、そう簡単に外せないだろう」と述べた。

また、タスクフォースの委員で、ブロッキングに反対している森亮二弁護士も「海賊版サイトのブロッキングの法制化のほうが、アクセス警告方式よりマシだ、というのはまったく受け入れられない意見だ」「『通信の秘密』が著作権に劣る場合がある、ということを正式に認めることになるからだ」と反論した。

(弁護士ドットコムニュース)

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