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ブロッキングに代わる「海賊版対策」の切り札? 東大・宍戸教授「アクセス警告方式」提案
「インターネット上の海賊版対策に関する検討会議」の様子

ブロッキングに代わる「海賊版対策」の切り札? 東大・宍戸教授「アクセス警告方式」提案

知的財産戦略本部の「インターネット上の海賊版対策に関する検討会議」(タスクフォース)の第5回会合が8月24日、東京都内で開かれた。宍戸常寿委員(東京大学大学院法学政治学研究科教授・憲法)は、これまで議論の中心だったブロッキング(アクセス遮断)に代わって、約款にもとづく「アクセス警告表示」という新しい対策を提案した。

●実効的で、法的に問題が小さく、迅速に実現可能な対策

ブロッキングをめぐっては、法学者や民間事業者(プロバイダ)などから、憲法の「通信の秘密」や「表現の自由」を侵害すると批判されている。立法化されたとしても、施行までに時間がかかる。一方、フィルタリング(アクセス制限)も、ユーザーが同意しない場合など、実効性に限界があるとされる。

宍戸委員が提案したアクセス警告表示(アクセス警告方式)は、サイバー攻撃への対処の取り組みとして実施されているプロジェクト(ACTIVE)を参考にした。簡単にいえば、ユーザーが海賊版サイトにアクセスしようとしたときに、警告を表示して、注意喚起するというものだ。ブロッキングよりも実効的で、法的に問題が小さく、迅速に実現可能な対策だという。

宍戸委員によると、ユーザーが同意しない場合に外せる「オプトアウト」を条件としたうえで、(1)静止画ダウンロードが違法化されること、(2)警告表示の対象となる海賊版サイトの基準が合理的かつ必要最小限度の範囲であること、(3)海賊版サイトの該当性が公正に判断されていること――などを満たせたば、導入できる可能性があるという。

この方式が実効的に実施されるために、宍戸委員は「『通信の秘密』の放棄に関する同意の条件や、約款の記載のありかた、表示内容の整理、基準策定やあてはめ、警告表示のための費用負担、権利者やプロバイダやユーザで構成する中立的な民間団体を設立して、調整をはかることが必要だ」と説明した。

●「ネット社会のあり方として、監視へすすむのか、自由へすすむのか」

これまでブロッキングが議論の中心だったのは、政府が4月13日、特に悪質な海賊版サイトとして「漫画村」など3サイトを名指しして、法整備までの緊急措置として、プロバイダが自主的な取り組みとしてブロッキングを実施することが適当とする決定をおこなったからだ。

この政府決定のあと、3サイトのうち、「漫画村」「Anitube」は現在サイト閲覧できなくなり、「Miomio」もほとんどの動画が視聴できなくなっている。ブロッキングは、法学者やプロバイダから反対されているが、今後もこうした海賊版サイトの出現が脅威であることから、出版社などから導入を求める声が根強くあり対立している。

こうした状況の中で、この日の検討会では、総務省消費者行政第二課長が「議論の本質論としては、今後のネット社会のあり方として、監視のほうへすすむのか、自由なほうへすすむのか、どちらを目指すのかということだ」と発言する場面があった。以下、異例ともいえる発言を全文でとりあげる。

●「『通信の秘密』の規定が『信頼』を支えている」

「私どもとしては、『通信の秘密』についての法律論、解釈論が大事だと思っています。この議論はぜひ深めていただきたいと思っています。それに加えて、『通信の秘密』の本質といいますか、あるべき論についても議論いただきたいと思っています。

といいますのも、インターネットのアクセス処理は機械でおこなわれています。プロバイダがやろうと思えば、ユーザーのアクセスログを大量に保存・分析・悪用することができてしまう。おそらく、ユーザーの肌感覚としても感じています。にもかかわらず、ユーザーがネットを自由に使っているのはなぜかというと、プロバイダに対する信頼であります。

プロバイダが悪用することない、という信頼は『通信の秘密』の規定が支えています。『通信の秘密』は、ユーザーの表現活動や情報収集活動の自由、創作活動の自由を守る役割をプロバイダに担わせています。それを担保しているのが、『通信の秘密』です。

一方で、ブロッキングは、ユーザーの意思に反してアクセス先をチェックして遮断するということですので、プロバイダの役割が、ユーザーを守るものから、ユーザを監視するものに変わるということです。議論の本質論としては、今後のネット社会のあり方として、ネットの利用の監視のほうへすすむのか、自由なほうへすすむのか、どちらを目指すのかということです。

この議論がクリアになってはじめて、どういうブロッキングがあるのか、技術的にどういう方向がいいのか、といった議論があると思います。その前提として、今申し上げた点についてもぜひこの場で議論を深めてほしいと思います」

(弁護士ドットコムニュース)

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