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政府の海賊版サイト対策「あまりにも早急で杜撰」、「漫画村」「Anitube」「Miomio」遮断へ
ブロッキングの対象として政府から名指しされた「漫画村」

政府の海賊版サイト対策「あまりにも早急で杜撰」、「漫画村」「Anitube」「Miomio」遮断へ

インターネット上で、マンガやアニメが無料で見られる「海賊版サイト」をめぐり、政府は4月13日、知的財産戦略本部・犯罪対策閣僚会議で緊急対策を決定した。「漫画村」など、とくに悪質なサイトについては、法制度の整備まで臨時的・緊急的な措置として、民間の通信事業者(プロバイダ)が自主的にブロッキング(アクセス遮断)することが適当という見解を示した。

海賊版サイトによる著作権侵害が深刻になっている中、政府が、刑法の緊急避難をもちいて「ブロッキング要請を検討している」と報じられて以降、法曹関係者や業界団体などから「通信の秘密」や「検閲の禁止」をさだめた憲法21条に違反するといった声が相次いでいた。

政府は、ブロッキングの実施について、関係事業者や有識者を交えた話し合いの場を設けて、早急に必要とされる体制を整えるとしている。しかし、今回の緊急対策について、宍戸常寿・東京大学教授(憲法)は「あまりにも性急で、杜撰な決定をしたという印象をぬぐえない」と強く批判。火種を抱えたまますすんでいきそうだ。

●「漫画村」「Anitube」「Miomio」をブロッキングへ

ブロッキングは現在、「児童ポルノ」の被害拡大防止に限定して実施されている。今回の緊急対策では、特に悪質な海賊版サイトとして、「漫画村」「Anitube(アニチューブ)」「Miomio(ミオミオ)」を名指しした。この3サイトのブロッキングについては、「緊急避難(刑法37条)の要件を満たす場合は、違法性が阻却されると考えられる」という見解を示した。

また、ブロッキングの対象として適当なサイトや、同一とみなされるサイトの類型化などについて、インターネット・サービス・プロバイダ(ISP)事業者やコンテンツ事業者間で、実効性ある運用体制の整備に関して議論・決定する場を知的財産戦略本部下にもうける。そのうえで、その類型化や運用体制の整備について、早急に結論を出すとしている。

ブロッキングの法的根拠を明確にするため、「通信の秘密」や「知る権利」など、法的論点について検討もおこなったうえで、法制度の整備をすすめていく。さらに、リーチサイトを通じた侵害コンテンツへの誘導行為の対応についても検討をすすめて、早ければ次の臨時国会で法案を提出する予定だ。

当初は、政府がプロバイダにブロッキングを「要請」する、と報じられていたが、今回の決定からは「要請」という言葉は消えた。「政府が『強制する』というニュアンスにとられないように配慮した。あくまでブロッキングするかどうかは、民間の事業者の判断にゆだねられる」(内閣府)。プロバイダ側が、ブロッキングしなかったとしても、ペナルティはないとしている。

●宍戸常寿・東京大学教授(憲法)の話

「著作権は正当な利益であり、海賊版サイトへの対策は、きちんと議論して実施されるべきだ。しかし、通信関係の団体や有識者がほぼ一致して懸念を表明する中、あまりにも性急で、杜撰な決定をしたという印象をぬぐえない。通信行政、ひいては国民の通信の秘密や表現の自由が、不安定な状態になったことを危惧している。政府が、事業者にブロッキングを具体的に要請しなかったことは、各種団体の批判を意識したものだろう。しかしその分、通信事業者に『忖度』を求めることになっていないだろうか」

●曽我部真裕・京都大学教授(憲法)の話

「回避技術が進んできており、ブロッキングは対策の切り札とは言えない。プロバイダには、無批判に政府の方針に追随するのではなく、通信の支え手としての矜持をもった対応が期待される。今後の立法論議では、後年の検証に耐えるような骨太かつ透明性のある議論を通じ、著作権侵害だけではなく違法サイト対策全体に通じる大きな視点から、表現の自由や通信の秘密等の憲法上の権利を不当に損ねることなく、かつ、実効性のある対策の検討が求められる」

●境真良・国際大学GLOCOM客員研究員の話

「今回、政府が、立法で対策を図ると宣言したことは評価できる。ただ、それまで『ブロッキングは違法』という状態になり、ISPは自己責任でブロッキングすることになると思う。また、報道によれば、政府が『緊急避難にあたる』といっていて、他方、法曹・学界は『緊急避難にあたらない』という意見が主流という前提条件のもつれの中では、今後、具体的な方法を検討しなければならない民間側でも、ISPを席に着かせることすらままならないのではないか」

●鈴木正朝・情報法制研究所理事長(新潟大学教授・情報法)の話

違法サイトの著作権侵害による損害額は甚大であり対応が急務であることに異論はない。 しかし、財産権侵害の緊急避難を認めるならば、名誉毀損・プライバシー権等人格権侵害にも同種の理屈が妥当することになるだろう。かくして通信の秘密は緊急避難の濫用によって骨抜きとなる。そもそもなぜ憲法上問題があり実効性が限定的で通信事業者に過大な負担をかけるブロッキングという手段が登場したのか。なぜ刑事・民事の責任を問うことをしないのか。ご指名の3サイトの運営事業者は概ねわかっているのではないか。また、この3サイトは本当にワースト3なのか。その事実関係は誰がどのように調査したのか、そこに恣意性はないのか。あまりにも議論が杜撰である。ブロッキングありきで、それを恒久化させる立法化に走らぬよう慎重な議論を求める。

編集部注:4月15日、コメントを追記しました。

(弁護士ドットコムニュース)

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