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国立市が性的指向の暴露「アウティング」禁止条例、カミングアウトできない人も守る
国立市の吉田徳史市長室長=国立市役所

国立市が性的指向の暴露「アウティング」禁止条例、カミングアウトできない人も守る

LGBTなど性的少数者の性的指向を、本人の意図に反して暴露する「アウティング」を禁止する全国的にも珍しい条例が4月1日、東京都国立市で施行される。正式名称は「国立市女性と男性及び多様な性の平等参画を推進する条例」。

目的は、全ての人が性別等を理由とした人権侵害や暴力を受けることなく、個性と能力を十分に発揮して、自分らしく生きることができる社会を実現することだ。弁護士ドットコムニュースは3月22日、施行を間近に控えた国立市の吉田徳史市長室長を訪ね、条例を作った経緯や今後の関連政策の方向性などについて聞いた。主なやり取りは以下のとおり。

●「男性が先」という固定概念覆す名称に

ーー条例の名称の経緯から教えてください

「女性という言葉が前にきていますが、歴史的な背景を見たときに、固定的なところを名称から覆したかったのです。言葉だけじゃないかと言われることもあるかもしれませんが、まずそこから見直すことにしました。『男女共同参画』といった言葉として定着しているものは仕方ないところもありますが、自ら変えられるところは変えようという思いでした」

ーー条例を作ろうとしたきっかけは

「亡くなった前市長が人権意識がたいへん強い方で、その意向を現市長も引き継いで、市民委員会(いわゆる審議会)にて議論が進められました。委員構成は有識者5人と公募に応じた一般市民5人の計10人(女性7人、男性3人)で、年齢は20代ー70代です。

男女共同参画の取り組みはこれまでもしてきましたが、いまの社会情勢を踏まえ、条例としてしっかり位置づけようと考えました。条例がなかったという意味では取り組みが遅れていたのは事実です」

●今後はLBGTの方々が困っていることを調査

ーー国立市にある一橋大学で2015年、同性愛者であることを暴露され自殺した「アウティング事件」が起きました。このことも影響していますか

「市内の大学で起きたことなので大きな問題だと受け止めています。非公開で係争中のようなので詳しいことはわかりませんが、本件については市民委員会の議論でも話が出ました。ただ、アウティングの部分は当初は盛り込む予定はなく、骨子案をパブリックコメントした際に受けた意見がきっかけで盛り込むことが決まりました」

ーーどのような意見だったのでしょうか

「カミングアウトをしたら守られます、というように骨子案の中身がカミングアウトを前提にしたものになっているのではないかというご意見でした。目から鱗の指摘でした。当事者の多くは、誰かに暴露されるなど何らかアウティングの経験(被害)を受けたことがあると思われます。明らかにしたくない方も守るのは当然ですから、市民委員会としてもその指摘を重く受け止めて、議論が改めて行われました」

ーーこうした条例を作ることに反発はありませんでしたか

「条例に対してはいくつか意見をいただきましたが、内容を説明して理解していただきました。なかには『同性同士のパートナーシップを市として認めるということか』という問い合わせもありましたが、条例はそうした内容にはなっていません。その旨説明しました。

市議会でも全会一致で賛成していただきました。今後はLGBTの方々が実際どのような点で困っているかということを調査し、その結果をもとに市独自の政策にいかしていきたいと考えています。その際、当事者のカミングアウトを強制するようなことはしません」

●「パートナーシップ制度」はまだ先の検討課題

ーー国立市として同性同士のパートナーシップは近い将来認めるのでしょうか

「その点については現時点では考えていません。ですが、渋谷区や世田谷区など既に制度を進めている自治体の動向を見つつ、市独自の調査などを踏まえて検討を重ねていくことになると考えています」

ーーLGBTの方々に配慮した政策として市独自にできそうなことは

「例えば、書面などの申請様式に個人情報を記載していただく際に氏名・住所・性別をセットで聞きがちですが、性別欄をなくしたり空欄にしたりということは考えられます。国や東京都が決めた様式を使う場合は残念ながら変更できませんが。

また、市では市職員や市議会議員、公立学校の教職員などを対象にLGBTについて学ぶ研修を定期的に実施しています。これも継続していきます。今年のゴールデンウイークには代々木公園であるLBGTに関するイベント『東京レインボープライド2018』に出展します。そこでは市民ではない方も含みますが、困っていることを聞きたいと考えています」

【条例のアウティングに関する部分】

(基本理念)

3条(2)性的指向、性自認等に関する公表の自由が個人の権利として保障されること。

(禁止事項等)

8条2項 何人も、性的指向、性自認等の公表に関して、いかなる場合も、強制し、若しくは禁止し、又は本人の意に反して公にしてはならない。

※なお罰則は設けていない

(取材:弁護士ドットコムニュース記者 下山祐治)早稲田大卒。国家公務員1種試験合格(法律職)。2007年、農林水産省入省。2010年に朝日新聞社に移り、記者として経済部や富山総局、高松総局で勤務。2017年12月、弁護士ドットコム株式会社に入社。twitter : @Yuji_Shimoyama

(弁護士ドットコムニュース)

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