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フジテレビ、芸能人にニセ警官差し向け「万引き冤罪」ドッキリ…法的問題は?
フジテレビ【barman / PIXTA(ピクスタ)】

フジテレビ、芸能人にニセ警官差し向け「万引き冤罪」ドッキリ…法的問題は?

フジテレビが7月6日に放送したバラエティ番組「人気芸能人にイタズラ! 仰天ハプニング77連発」の中で、芸能人が万引きの濡れ衣を着せられる「ドッキリ」が放送され、批判を浴びている。

問題になったのは、コーナーの1つ「芸能人がありえない状況で万引き犯に間違えられたらどんなリアクションをするのか?」。買い物中、万引きGメンに呼び止められた芸能人が荷物を確認すると、スタッフが仕込んでいた商品が見つかるというもので、事務所でのニセ警察官とのやりとりをへて、ネタバラシという流れだ。

ターゲットになったのは、4人の芸能人。お笑い芸人のスギちゃん、おかずクラブのオカリナさん、TKO・木下隆行さんは、一様に不安そうな表情。一方、俳優の的場浩司さんは、万引き犯と決めてかかる万引きGメンや警官役に対し、怒りを露わにし、迫力の表情を浮かべていた。

視聴者からは「悪質すぎる」などの声が上がっているようだが、警察官のフリをして、人を犯人扱いするドッキリが、もしヤラセではなく、本当のものであったら、法的に問題ないのだろうか。冨本和男弁護士に聞いた。

●警察官のコスプレは「軽犯罪法」に違反するか?

「警察官でもないのに、警察官だと名乗ったり、警察官の制服に似たものを使用した場合、軽犯罪法(1条15号後段)に違反することが考えられます。条文上、拘留・科料(1000〜9999円)という形で処罰される可能性があります」と冨本弁護士は語る。

「軽犯罪法は、軽い秩序違反行為を犯罪として処罰する法律です。こうした行為が横行すれば、警察官に対する国民の信頼を損なう可能性があります。したがって、警察官の制服そのものでなくても、色・形や使用されたときのシチュエーション等から、普通の人が警察官の制服と間違うようなものであれば、軽犯罪法の適用対象になると考えます」

冨本弁護士によると、警察官の「コスプレ」も危うい場合があるそうだ。

「何かのイベントでコスプレする程度であれば、誰も本物だと思わないので問題ないと思いますが、本物の警察官らしく使用したような場合は本物だと思われる可能性がありますので、軽犯罪法違反に当たる可能性があります」

ただし、警察のコスプレをしても、軽犯罪法違反を理由に逮捕されたりすることは滅多にないという。

「軽犯罪法は、警察犯処罰令という法令が元となっています。この法令が労働運動や思想犯の取締に濫用されたという経緯があったため、適用に当たっては国民の権利を不当に侵害しないよう注意しなければならないし、他の目的(たとえば別件逮捕)のために濫用してはいけないとされています」

●ドッキリが名誉毀損や侮辱罪に当たる可能性も?

冨本弁護士によると、番組にはほかにも法的なリスクがあったようだ。

「的場浩司さんのシーンを例に挙げると、万引きGメンを装った人が的場さんに『(商品をカバンに入れるのを)見ていたんです』と言ったり、警察官を装った人が『甘いものお好きなんですよね。だから盗っちゃったんですか』と述べたりしています。

もしも、これらの発言が、ドッキリだという事情を知らない人の前でなされたのであれば、的場さんの社会的評価を低下させたということで名誉毀損罪に当たる可能性があります。

仮にその場にいた人が全員事情を知っていたとしても、失礼な言い方であることには違いありません。的場さんの名誉感情を傷つけていますので、侮辱罪の保護法益を名誉感情と捉える見解からは侮辱罪に当たる可能性もあるでしょう」

●フジは「十分に配慮して撮影」と回答

なお、フジテレビは、弁護士ドットコムニュースの取材に対し、次のように回答している。

「軽犯罪法1条15号後段の目的は、警察官の制服を着ている人は警察官であるという一般人からの信用・信頼を保護することです。本番組の制作にあたっては、警察官の制服に似せて作った衣服を着用した警察官役の人を、一般の方々が警察官であると誤解しないように十分に配慮して撮影しており、軽犯罪法1条15号後段に該当することはないと考えております」

なお、「これ以上の番組制作の詳細につきましては、回答を控えさせていただきます」とのこと。

実際に法的なトラブルになることはないだろうが、仮に仕込みや台本があったとしても、少しやりすぎの演出だったのかもしれない。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

冨本 和男
冨本 和男(とみもと かずお)弁護士 法律事務所あすか
債務整理・離婚等の一般民事事件の他刑事事件(示談交渉、保釈請求、公判弁護)も多く扱っている。

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