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週刊文春を訴えた田島美和氏の一審判決後インタビュー【追記あり】
小松正和弁護士(左)と田島美和さん(右)

週刊文春を訴えた田島美和氏の一審判決後インタビュー【追記あり】

【2016年5月6日追記】この記事は2015年5月27日の一審判決後に、同日時点で確認された事実関係を基にしたインタビューです。2016年4月28日の控訴審判決では、文藝春秋が田島美和氏に逆転勝訴しました。控訴審判決の詳細はこちらの続報記事『元女優の交際めぐる「週刊文春」記事の名誉毀損訴訟、文藝春秋が逆転勝訴』(https://www.bengo4.com/internet/1071/n_4606/)に掲載しています。

(以下、2015年5月29日に公開した一審判決後のインタビュー)

「週刊文春」の記事で名誉を傷つけられたと主張した元女優の田島美和さんが、文藝春秋を相手に起こした裁判で、東京地裁の倉地真寿美裁判長は5月27日、名誉毀損を認め、「週刊文春Web」の一番目立つ位置に「謝罪広告」を1年間掲載することなどを命じる異例の判決を下した。

田島さんは、週刊文春が2013年5月〜6月にかけて雑誌やウェブサイトに掲載した記事で「暴力団組長の愛人」などと報じられたことにより、自民党から立候補を予定していた参院選への出馬を断念せざるを得なくなったなどとして、謝罪広告や損害賠償を求めていた。

判決は、週刊文春の記事が依拠した「証言」について、「客観的な証拠に沿わない不自然な内容で、不合理に変遷しているため、信用できない」と認定。記事の重要部分が「真実だと認められない」と判断し、謝罪広告の掲載や440万円の損害賠償を文藝春秋に命じた。文藝春秋は「不当判決」として即日控訴した。

田島さんは判決を受けて「私の身の潔白を証明する、勝訴判決が得られて、ほっとしました」とコメントした。

これまでも名誉毀損訴訟で、損害賠償に加え、メディアに謝罪広告を命じる判決がでることはあった。だが、今回のように、ウェブサイトの一番目立つ位置に1年間も謝罪広告を掲載することを命令する判決は異例だ。なぜ、このような判決が出たのか。田島さんの代理人をつとめた小松正和弁護士に話を聞いた。

●判決のポイントは?

判決のポイントはなんといっても、雑誌とウェブサイトに「謝罪広告」を目立つ形で掲載することを命じたことです。

「記事内容は事実ではありませんでした」とする謝罪広告を、ウェブサイト「週刊文春WEB」のトップに1年間、また、雑誌の「週刊文春」にも「広告・グラビアページを除いて、表表紙から最初のページ」に1回掲載することを命じました。

これらは、画期的な内容だと思っています。

ーー今回の裁判では、なぜ「名誉毀損」が認められたのですか?

ひとことでいうと、記事の内容が真実でなかったと裁判所が認めたからです。

週刊文春の記事は、田島さんの知人であるI氏らの証言を根拠にして、田島さんのことを「元暴力団組長の愛人」などと報じていました。このI氏らの証言の信用性を、裁判所は否定したのです。

まず、I氏の証言を裏付ける客観証拠が何ひとつありませんでした。証拠の残らない密室での贈収賄のやりとりならともかく、不特定多数の集まるパーティーなどで芸能人が組長と交際していたというのですから、写真の一枚も出せないというのはおかしいものです。

また、I氏の証言自体も変遷していたうえ、内容も不自然、不合理でした。たとえば、I氏は「デパートの前で田島さんが組長の車(プレジデント)の後部座席に座っていたところを目撃した」と証言しました。しかし、目撃場所について、陳述書では「横浜」のデパートと述べていたのですが、法廷で尋ねられると「銀座」のデパートであったと証言を変遷させました。

目撃状況についても、デパートと道路を隔てた建物で食事を食べていたときに目撃したと証言したのですが、常識的に考えて、そのような遠く離れた場所から、プライバシーガラスに覆われた高級車の後部座席に座る人の顔が視認できるものではありません。

判決はこうした点の数々を考慮し、I氏の供述について「不自然な内容、複数の不合理な変遷、他の証拠から認められる事実に反する内容がみられる」と断じました。

また、I氏の供述は、法廷での証言時だけでなく、週刊文春が取材した当時においても「同様の不合理性、不自然さが見られたものと推認するのが相当」として、I氏の証言を「真実だと信じるのに相当な理由はなかった」と判示しています。

●判決の意義は?

ーーこれまでも名誉毀損を認めた判決は数多くありますが、何か問題はあったのでしょうか?

深刻な問題があると感じていました。

営利企業である出版社側の視点に立ってみてください。

まず、雑誌記事による名誉毀損は、捜査機関が「故意性」を証明するのが難しいので、刑事事件にはなりにくい。そのため、出版社は刑事事件のリスクは、あまり考えなくて良いのです。

また、被害者は時間的、経済的、精神的負担等がネックとなり、通常は民事で提訴することもなく泣き寝入りしますし、仮に民事で訴えられて名誉毀損と認められたとしても、支払が命じられる賠償額は数百万円前半です。

謝罪広告を出せという命令が出ることは少なく、出たとしても、雑誌の後ろの目立たない位置にちらっと掲載すれば終わりというのが通常です。

これでは、出版社側にほとんどダメージがありません。

こうなると、手間のかかるウラ取りを簡略化して、タレコミだけで次々センセーショナルな記事を出して儲けたほうが、企業活動として経済的に合理的とすらいえるのです。

多数の名誉毀損訴訟を抱え、多数の敗訴判決を受け、それでも懲りずに不十分な取材でセンセーショナルな記事を出し続けている雑誌もありますが、そうした雑誌媒体の存在は、これまでの悪しき裁判実務の産物ではないかと感じていました。

●訴訟を諦める人が多い

一方で、被害を受けた著名人の視点に立ってみてください。

著名人とはいえ、個人が裁判するとなると時間的・経済的な負担や精神的不安は大きいものです。また、たとえ裁判に勝っても、得られる賠償金は少なく、謝罪広告が命じられても、誰の目にもとまらないようなものでほとんど意味がありません。

さらに、裁判官は神様ではないので、必ず真実を見抜けるわけではありません。また、裁判官が真実を見抜き、記事内容は事実に反すると認定しても、「記者が真実だと信じても仕方ない理由があった」と判断されると負けてしまいます。記者がどんな資料をもとに記事を書いたかなど、訴訟してみるまで分かりませんから、被害者は常に敗訴リスクを抱えるのです。

私のところには、芸能人やスポーツ選手、有名人からの相談もありますが、現状の裁判実務を説明すると、訴訟の提起は諦める人がほとんどです。

司法は、名誉毀損の被害救済に役立っていない。現状は、社会正義とは程遠い。謝罪広告は名誉回復に資するようなものでないと意味がない。今回の裁判で、私は、このことをひたすら問うていきました。

ーー今回のような判決が出るようになれば、状況は変わってきますか?

確実に変わるはずですし、変わらなければならないと思います。

名誉毀損の被害は甚大です。芸能人であればテレビ出演の仕事がなくなります。田島さんに至っては、自民党の公認候補を辞退し、参院選への出馬の辞退に追い込まれるという前代未聞の事態に至りました。特に、ネット社会の現代では、一度名誉毀損記事が書かれると、半永久的にネット上で検索可能な状態で被害者の名誉を毀損し続けます。名誉毀損は著名人を社会的に抹殺しかねないのです。

世間では「異例」と言われていますが、私としては「当然の判決だ」と受け止めています。「名誉毀損の記事を掲載することは、割に合わない」となる判決が出るようになれば、名誉毀損記事は減少するはずです。営利を追求する出版社の経営判断としても経済合理性がなくなりますからね。

真面目に取材をしている他のメディアが馬鹿をみることもなくなり、出版社のモラル低下も防ぐことができます。

今回の判決は、複数回にわたる名誉毀損記事により参院選候補者を出馬辞退に追い込んだという特殊性を考慮すれば当然の内容ですが、今後は、こうした特殊性のない事案であっても、名誉回復の実効性ある謝罪広告を命じる判決が次々出され、一般化されることを期待したいと思います。

そうした判決状況の変化が出てくれば、我々法律家も、顧問先の出版社に対して、名誉毀損リスクの大きさを説くことができ、会社の内部統制の一環として、名誉毀損記事が出ないような体制作りを助言しやすくなります。

ーー今回のケースで、週刊文春の取材の状況はどのようなものでしたか?

詳細は控えますが、取材期間ひとつみても取材が十分になされていないことが分かります。

第一報の記事が掲載された号は、2013年5月8日に店頭にならびましたが、この件についてタレコミがあったのは、その前週の5月1日でした。記者たちは田島さんに、5月3日・4日にファックスで取材を申し込んでいますが、これはゴールデンウィーク中ですよ。

参院選を2カ月後に控え、多忙を極めていた田島さんも、万一間違った記事を書かれては困ると考え、そうした事実は一切ないとすぐに回答しています。それでも、記者たちは6日には原稿を仕上げ、翌7日に印刷にかけ、8日に店頭に並べたわけです。ウラ取りを慎重に行おうとする者のスケジュールとしてはありえません。

週刊文春の記事が名誉毀損だと認定されたケースは過去の裁判例にも多数ありました。そこで、記者に対する法廷での尋問では、これまで敗訴して名誉毀損が確定した記事を書いた記者は懲戒処分されているのかを聞いてみました。記者は、懲戒処分を受けた例があるかは分からないと回答しました。それでいいのでしょうか。

もっとも、週刊文春自体を否定するつもりは全くありません。丁寧な取材を行い、権力におもねらず、社会的に意義ある記事も多数掲載されてきたものと思います。あくまでも、今回の記事に関しての取材は不十分であったということです。

●報道への影響は?

ーーペナルティが厳しすぎると、報道が萎縮してしまわないですか?

きちんとウラ取り取材をしても、誤報となってしまうことは当然あるはずです。だから、名誉毀損の裁判でも「真実だと信じるのに相当な理由」があったなら、問題にしないというルールがあります。きちんとウラ取り取材をしさえすれば、真実でなかった場合の結果責任を負うものではありませんので、報道の委縮につながるようには思いません。

報道は民主制の根幹を支える重要なものですから、メディアが権力におもねったり、委縮したりしてはいけません。そうしたジャーナリズム精神の堅持は崇高なものです。ウラ取りをきちんとしなければならないというのは、ジャーナリズム云々以前の低次元な問題です。

出版業界の実務においては、これまでは名誉毀損記事と指摘されても、誤報ではなかったかと真摯に検証し、誤報であれば積極的に訂正、謝罪するということは少なかったと思います。

しかし、先に述べたように、名誉毀損の被害は甚大です。

今回のような判決が報道されたのをよい契機として実務の転換が検討されればよいと思います。

もし誤報であると指摘されたなら、自主的に記事を検証し、間違っていれば訂正や謝罪を積極的に行えばよいだけです。重大な名誉毀損事案が生じた場合には、第三者委員会などで問題点を検証し、将来、名誉毀損記事を掲載しないような体制整備に力をいれていくべきだと思います。

このような法令遵守のための自浄サイクルの整備は他の業界では当然に行っているものです。時代の潮流としても、出版業界だけが他者の権利侵害に無頓着というわけにいかなくなってくるでしょう。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

小松 正和
小松 正和(こまつ まさかず)弁護士 小松綜合法律事務所
得意分野は訴訟、紛争解決。企業法務を中心に扱うが、クレディ・スイス証券元部長の脱税被告事件で主任弁護人を務め、東京国税局査察部(通称マルサ)が告発し、東京地検特捜部が起訴した事件で史上初となる無罪判決を勝ち取った。クライアントの正当な利益を、正当な手段で守り、もって社会正義の実現に寄与することを理念としている。東京弁護士会所属。2002年、弁護士登録。2014年に小松綜合法律事務所を開設。

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