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保育士の過酷な労働環境、昼休みなしは「当たり前」…職場では諦めムードも
画像はイメージです(Ushico / PIXTA)

保育士の過酷な労働環境、昼休みなしは「当たり前」…職場では諦めムードも

「昼休みが1時間設けられていますが、実質休んでおりません。これは労働基準法に引っかかるのではないですか?」。認可保育園に勤める現役保育士の50代女性=関東地方=から、弁護士ドットコムのLINE@にこんな情報が寄せられました。

女性が働く保育園では、8時半〜17時半までが勤務時間となっています。仕事量が多く、昼休みにその仕事をやらなければ、勤務時間中に終わりません。職場にはタイムカードもなく、残業代も出ません。

子どもたちが昼寝をしている際も、呼吸やうつぶせ寝のチェックのため休むことはできません。早く起きてしまう子もいるため、結局別の部屋に行くこともできないと言います。女性は子どもたちが寝ている部屋で食事を取っています。

「昼休みが無いのが当たり前となり、みんな諦めていて、昼休みが欲しいということすら忘れかけています。保育士側にも休む時間という認識自体がなく、ある意味洗脳されたような考えを持っているのだと思います」(女性)

昼休みが無いのはいまに始まったことではありません。女性は「管理職に『昼休みが欲しい』と伝えたところで『何を今更言い出すのか』と言われそうで、とても言い出せる雰囲気ではない。言ったら不当な扱いをされそう」と話します。

こうした扱いは、違法ではないのでしょうか。職場側の法的リスクについて、中村新弁護士に聞きました。

●休憩がないのは違法

ーー労働基準法に反するでしょうか

「労働基準法は、1日の労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩時間を与えるべきこととしています(労基法34条1項・2項)。

休憩時間は、原則として労働時間の途中に労働者に対し一斉に与えることが求められていますが、事業の性質上、一斉休憩が難しい『保健衛生の事業』に含まれる保育士は一斉付与の原則の適用除外とされています(労基法施行規則31条、労基法別表第一)。

したがって、園内のすべての保育士に同じ時間帯で休憩を与えることまでは求められていませんが、休憩は与えなければなりません」

ーー保育園は一斉に休息時間に入ることが難しそうです

「保育園はまだ学齢に達しない子どもたちのお世話をする場なので、突発的な事象も生じやすく、実態としては休憩時間に勤務が食い込むことが多いかもしれません。

ですから、経営者や園長と話し合ったうえで、シフトを組んで各保育士の休憩時間を確保するような態勢を整える必要があるでしょう。休憩時間を取れず保育士の方が疲弊すると、大きな事故にもつながりかねません」

●事故が起きたら、経営者の責任も問われる

ーー職場にはタイムカードもなく、残業代も出ないそうです

「時間外労働については、管理監督者等の適用除外に該当しない限り、時間外の割増賃金を支払わなければなりません(労基法37条)。一般の保育士が適用除外に該当することはありません。

保育園の経営者は、タイムカードを設置する、または、出退勤の時刻を記入するノートを設置するなど、保育士の方の労働時間を適切に把握できる態勢を整える必要があります」

ーー保育園にとっては新たな負担ということになるのでしょうか

「園にとっては酷な話と感じられるかもしれませんが、無休憩や長時間労働による保育士の疲弊に起因して事故が起きた場合には、保育園の経営者や管理者の責任も当然問われます。また、勤務時間を適正に管理した証拠を残しておかないと、高額な時間外手当の請求を突然受ける可能性もあります。

休憩時間や労働時間を適正に管理することは、園にとっても有益なことであることを理解してもらいたいと思います」

ーー労働者としては、どうすれば良いのでしょうか

「園内の相談窓口や上司に訴え出ることが最初の手段になると思います。対応が不十分だと感じられる場合には、労働基準監督署や弁護士に相談することも考えられます。

訴え出たことで職場から懲戒などの処分を受けるかもしれないと心配になるかもしれません。ですが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、懲戒処分は無効となります(労契法15条)」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

中村 新
中村 新(なかむら あらた)弁護士 銀座南法律事務所
2003年、弁護士登録(東京弁護士会)。現在、東京弁護士会労働法制特別委員会委員、2021年9月まで東京労働局あっせん委員。2023年4月より東京労働局労働関係紛争担当参与。労働法規・労務管理に関する使用者側へのアドバイス(労働紛争の事前予防)に注力している。遺産相続・企業の倒産処理(破産管財を含む)などにも力を入れている。

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