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うなぎで大赤字、疲弊するコンビニオーナー「本部社員に発注頼まれ…」 クリスマスも例年悲劇
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うなぎで大赤字、疲弊するコンビニオーナー「本部社員に発注頼まれ…」 クリスマスも例年悲劇

すっかり秋らしい気候になってきたが、夏の話題を1つ振り返ってみたい。絶滅危惧種のうなぎが、一口も食べられることなく捨てられているというお話だ。

今年は2回あった土用の丑の日(7月20日、8月1日)。ある大手コンビニチェーンのフランチャイズ(FC)店オーナーAさんはこう証言する。「本部社員に頼まれて、大量に仕入れたがほとんど売れなかった」

発注したのは2日分で合計40〜50食ほど。知人らに頭を下げていくつか予約してもらったものの、かなりが売れ残った。店頭に並べても、ほとんどが廃棄になり、数万円の赤字が出たそうだ。

売れると見込んで発注したわけではない。「だって、1000円や2000円出すなら、コンビニじゃなくて、よそでうなぎを食べるでしょ」。それでも仕入れざるを得なかったのは、本部との力関係が影響しているからだ。

うなぎは単価が高い分、売れ残りが出れば、たちまち大赤字になってしまう。Aさんは「『土用の丑の日』は、もうやめて欲しい」と嘆く。この先待っている年末のクリスマスケーキ商戦でも例年、本部社員から大量の発注依頼があるといい、今から頭を抱えている。(編集部・園田昌也)

●「前年以上」を求めてくる本部社員

「各店舗とのやり取りを担当する社員(SVやOFCなどと呼ばれる)には『これぐらい発注させろ』みたいなノルマがあるんです。達成できるかどうかは彼らの出世にも影響する。彼らは店舗のコンサルでもアドバイザーでもなく、本社の『営業マン』です」(Aさん)

ノルマは「前年以上」が基本だ。Aさんの店では、知人たちがうなぎ商品をたまたま多く予約してくれた年があり、そのときの発注数が基準になってしまったという。

「提案を断れば、契約を更新(再契約)してもらえなかったり、立地条件のよい店舗への移転を打診してもらえなかったりするじゃないかという怖さがあります。複数店舗を経営するなどの余裕がないと、オーナーはそう簡単に断れないですよ」

なぜ、本部が季節商品の売り込みに力を入れるのか。理由の1つは、売れ残り(廃棄)が出ても本部が損しない「コンビニ会計」という特異なシステムがあるからだ。

●いびつな「コンビニ会計」 廃棄は出すことが前提

コンビニ会計とは、加盟店がFC本部に納めるチャージ料(上納金)を計算する際、通常なら売上原価に含める「売れなかった商品」(廃棄や万引き分)の原価を除外するものだ。

コンビニ業界のチャージ計算は、売上高と原価、つまり「粗利益」で考える。契約形態によって割合は異なるが、粗利に60%程度をかけたものがチャージ料になる。

ただし、前述の通り、通常の粗利と違って、コンビニ業界ではレジを通った(売れた)商品しかみない。売れずに廃棄したものは「売上原価」には入れず、箸や袋などと同じ「営業費用」という扱いになるのだ。

コンビニのチャージ計算

つまり、「(売上高)-(総原価)+(廃棄商品の原価)」に、平均60%程度をかけて計算する。廃棄に直接チャージがかかるわけではないが(売上ゼロ円ならチャージもゼロ円)、通常会計との比較では、廃棄等にもチャージがかかっている状態とも言える。

●売れなくても本部は儲かる

実際に計算してみよう。コンビニ商品の値入率(原価を1としたときの利益の割合)は、30%程度であることが多い。あるコンビニチェーンのうなぎ商品(1220円)の原価は926円だったという。値入れ率は24%だ。

これを参考に、原価1000円のうなぎ商品を50個仕入れ、1300円で40個売れたと仮定した場合をみてみよう。

通常会計では、粗利は2000円(1300円×40個−1000円×50個)。チャージ率60%だとして、コンビニ本部の取り分は1200円、店舗は800円になる。

一方、コンビニ会計だと、廃棄の1万円分を除外するので粗利は1万2000円。コンビニ本部の取り分は7200円、店舗は4800円になる。しかし、廃棄分を加えると、店舗は5200円の赤字だ(4800円−1万円)。店舗にはさらに人件費などがかかることになる。

廃棄分の原価については、セブンイレブンが2009年から15%を負担するなど、本部が一定の割合を引き受けるようになってはいる。しかし、それでも本部が優位な点は変わらない。

コンビニ会計のイメージ

うなぎに限らず、消費期限の短い弁当類は赤字リスクが高いが、特にうなぎのような高額商品はリスクの塊と言える。

なぜそんな商品をプッシュするのか。一般には、欠品で客が欲しいものを買えない「機会ロス」を防ぐためと言われている。実際、Aさんも発注が多いほど、売上自体は上がると口にする。ただし、本部の利益は増えるが、店舗の利益になるとは限らない。

また、Aさんはそれだけでは説明できないほど、プッシュが苛烈だと感じている。

「コンビニの商品は基本的に本部が一括で仕入れているんですが、私たちに示された仕入値を見ると、量販店の販売価格より高い商品があります。店舗が発注するだけで、本部が得する仕組みがあるんじゃないかと疑ってしまいます」

実態は明らかではないが、仕入値の開示をめぐっては、本部が渋ったため、2008年に最高裁まで争った経緯もある。オーナーたちの不信感は根強い。

●見切り販売は非推奨

さて、廃棄が多ければ、損が増えるので、コンビニオーナーとしては、どうにかして売ってしまいたいところだ。アルバイトにノルマ・買取りを強制する「自爆営業」が起きる原因の1つだ。

また、コンビニでは、スーパーなどのような「見切り販売」は少ない。2009年の最高裁判決で、見切り販売の妨害が違法と判断されたため、あからさまな禁止こそないものの、「非推奨」という扱いになっているという。

「地域(エリア/ディストリクト)ごとに予算があって、イベント時に値下げが公認されることもあります。でも、担当者にもよりますが、普段はいろんな理由をつけられ、やらない方向に持っていかれる」(Aさん)

理由の1つは、本部の取り分が少なくなってしまうからだ。たとえば、先ほどの1300円のうなぎの例で、売れ残った10個を原価より安い800円で見切り販売し、6個売れたとする。

すると、粗利は1万800円となり、本部6480円、店舗4320円の配分。元の事例では本部の取り分は7200円だった。本部がどの程度、廃棄分を引き受けるかにもよるが、仕入値より安く売ると、販売個数は増えても本部の取り分は少なくなってしまう。

●見切り販売「考えたこともない」というオーナーも

見切り販売をめぐっては、今年1〜4月にかけて中央労働委員会であった審問でも話題になった。コンビニ加盟店ユニオンとコンビニ本部が、オーナーの労働者性をめぐって争っている事件だ。セブンイレブン事件とファミリーマート事件の2つがある。

コンビニ本部側の証人として出席したオーナーたちは、「見切り販売をしないように言われたことはない」と証言。ただし、実施しようとしたことはなく、「考えたこともない」「見切り販売を目当てにされると全体の売上が落ちる」などと話した。

一方、ユニオン側のあるオーナーは、廃棄(廃棄商品の原価)の地域平均が月36万円のところを、見切り販売により月6万円に抑えることで、地域平均より約30万円高い利益を得ていると効果を語った。

見切り販売については、フードロス問題の専門家・井出留美さんが今年8月13日、「『見切り販売はしたほうが儲かる』 コンビニ11店の損益計算書を分析」(https://news.yahoo.co.jp/byline/iderumi/20180813-00092251/)とする記事を出している。見切り販売により、年間数百万円の利益増が期待できるという。

●本社社員が見ているのは「店舗じゃなくて本部の利益」

話をAさんに戻そう。コンビニのようなFCが続くためには、本部とオーナー双方が儲からないといけない。現状のコンビニ会計のもとで、オーナーが安定して稼ぐには、売上と廃棄のバランスが重要だ。

しかし、オーナーをサポートするはずの本部社員がそのバランスを取らせてくれないことが多い。

「彼らが見ているのは本部の利益。店舗の売上には関心があっても、店舗の利益の最大化なんて考えていない」(Aさん)

Aさんは土用の丑の日、アルバイトの学生に近隣のコンビニでどのくらいのうなぎが売られているか定期的にチェックさせたという。

「隣の別チェーンは、2つしかなかった。2つなら最悪オーナーが買い取れば済む。羨ましかったですよ。世間の反応を見て、ちゃんと考えているチェーンもあるんだと思います」

今後もクリスマスや恵方巻きなど、季節のイベントは続く。

「本部はイベントの振り返りをしない。廃棄が多かったら、『(帳尻を合わせるため)次週の廃棄を抑えましょう』で終わり。そして、翌年になると何事もなかったかのように、前年比増の発注を要請される。いい加減、うなぎとか季節商品はやめてほしいですよ」

(弁護士ドットコムニュース)

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