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「正社員の個人事業主化」が波紋、弁護士からは懸念の声も…電通は困惑気味
電通本社ビル(弁護士ドットコム撮影)

「正社員の個人事業主化」が波紋、弁護士からは懸念の声も…電通は困惑気味

大手広告代理店「電通」が来年2021年から、一部の正社員を「業務委託契約」に切り替えて、個人事業主として働いてもらう制度をはじめる――。日本経済新聞がこのように報じて、ネット上で話題になっている。労働問題に取り組む弁護士たちからは懸念する声もあがっているが、はたしてどういう仕組みなのか。

●ネットで批判を受けた「個人事業主」化

日経新聞電子版(11月11日)によると、希望者は早期退職したうえで、電通が11月に設立する新会社と業務委託契約を結ぶ。契約期間は10年で、電通時代の給与をもとにした固定報酬のほか、実際の業務で発生した利益に応じたインセンティブも支払われる。

全職種の40代以上の社員が対象で、新会社と契約を結んだ個人事業主は、電通社内で複数部署の仕事をするほか、他社とも業務委託契約を結ぶことができる。ただし、競合他社との業務は禁止となっているという。

●労働弁護士「個人事業主は労働法に守られない」

電通は「新しい働き方を求める社員の声に応じて制度導入を決めた」として、人件費縮小など"リストラ策"ではないとコメントしているが、ネット上では「リストラではないか」と懸念する声があがっている。労働問題に取り組む市橋耕太弁護士もその一人だ。

「あくまで報道ベースですが、個人事業主でなくても、会社員という地位を残したままで、副業・兼業を解禁すれば、達成できる内容です。労働法の規制や社会保障の負担をまぬがれたいという"潜脱"の意図を感じました。『全職種の40代以上の社員』という点もリストラ的な発想があるように思えます。

また、『競合他社との業務は禁止』にも懸念点があります。同じような仕事をしていく中で、競業他社との仕事ができないということになると、どうしても専属的になり、電通にすがるようになるしかなくなる。その結果、個人事業主となった元社員は、優越的な立場にある電通から、使い放題にされるおそれがあります」(市橋弁護士)

●電通は報道に困惑気味

今回のような"個人事業主への切り替え"は、もともと健康機器メーカーのタニタなどがはじめたものだ。こうした制度が広がっていくことについては、市橋弁護士のような観点から批判が少なくない。一方、弁護士ドットコムニュースが、電通に電話取材してみたところ、日経報道にやや困惑気味だった。

電通によると、今回の仕組みは「ライフシフトプラットフォーム」といい、「人生100年時代」を見据えて、チャレンジと安心を両立できるように設計されているという。

「電通の社内には、年齢(定年)にとらわれない"エイジレス"な働き方をしたいと考える人が少なくありません。たとえば、(知識やスキルが時代遅れになる前に)、地方に戻って、町興しをしたいと考えるような人もいます。今回、新会社を設立するのは、そんな人たちが個人事業主になって働くことで、社会に役立っていこうという発想です」(電通広報)

●二年以上前からはじまった話だった

では、批判されているようなリストラではないのか。

「プレスリリースにも書いていますが、2年以上前からはじまっている話です。人生100年時代を見据えたときにこれからどう働いていくべきか。有志の社員たちが集まって、検討して、2年以上かけて会社を説得して、今回のプレスリリースの発表になりました。

契約期間が10年となっているのは、個人事業主の事業が軌道にのるまで、新会社と業務委託契約を結んで、一定の業務をやりながら、ほかの事業をやったり、学び直しをしたりしながら、軌道にのっていくようにしてもらいたいという考えからです」(同上)

電通によると、(1)新卒の場合、勤続20年以上の40歳以上60歳未満、(2)中途採用の場合、40歳以上で勤続5年以上の社員、計2800人が対象で、そのうち230人から応募があった。これからスタートさせることなので、うまくいかない可能性もゼロでなく、すぐに募集を広げることはないという。

電通をめぐっては、新入社員だった高橋まつりさんが2016年12月、過労自殺した事件など、労働問題があいついでいる。市橋弁護士は「ふたたび悲惨な事件が起きるおそれもあります。ここできちんと問題点を認識して、労働者を守る方向にもっていくべきだと思います」と話している。

●電通のプレスリリース

https://www.dentsu.co.jp/news/release/2020/1111-010259.html

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