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納期ピンチでも、後輩「定時なので退社します」…しわ寄せに悲鳴 会社どう対応すべき?
画像はイメージです(上:Ushico 中:zon 下:YUJI /PIXTA)

納期ピンチでも、後輩「定時なので退社します」…しわ寄せに悲鳴 会社どう対応すべき?

国が主導している働き方改革の影響で、企業は「残業規制」や「ノー残業デーの導入」を実施するなど、残業を減らそうとする動きが広まっています。

一方で、仕事には通常、期限(納期)が設定されており、「定時退社はしたいが、目前の納期が…」と忙しく働いている人もいるでしょう。もし、同じグループにそんな時でも定時退社を貫いている人がいたら、「ちょっと待ってくれ」と思うのではないでしょうか。

インターネットのQ&Aサイトでも、「後輩が仕事を終わらせずに定時で帰る」という投稿がありました。投稿者がヘルプに入り、なんとか納期を守っているとのこと。「自分は納期守るために残業までしてるのに、なぜ後輩は定時で帰るのか」とイライラしているようです。

納期を守ることより定時退社を優先させた社員に対し、会社は残業命令などをすることができるのでしょうか。

●残業させるためには、いくつもの条件をクリアしなければならない

そもそも、残業命令という場合の「残業」とはどのような意味なのでしょうか。企業法務に詳しい飛渡貴之弁護士は、次のように説明します。

「ここでいう『残業』とは、法定労働時間(1日8時間、1週40時間以内)を超える場合をいいます(法外残業)。

企業によっては、1日7時間など法定労働時間より短い就業時間を定めているところがあります。このような場合、1日7時間を超えて8時間までの労働は、その企業にとっては残業(法内残業)といえますが、法定労働時間を超える労働(法外残業)ではありません」

その上で、残業の必要性が認められれば、「会社は残業等をして納期を守るように命令することができる場合があります」といいます。もっとも、いくつかの条件をクリアする必要があるようです。

「残業させる場合には、『労使協定(36協定)の締結』および『所轄労働基準監督署への届出』が必要です。

また、特別な事情、業種によって例外はありますが、限度時間(月45時間、年360時間)がありますので、無制限に残業させることができるということはありません」

条件をクリアして残業を命じることができる場合でも、会社が気をつけなければならない点は他にもあるようです。

「会社は、労働者に対する安全配慮義務を負っており、労働時間が長くなればなるほど、脳・心臓疾患の発生も高まるとされています。

したがって、納期を守るために残業しなければいけない状況が常態化しているような場合には、会社は安全配慮義務違反を問われる可能性があります。もちろん、その社員の能力が比較的低くて残業になるというのであっても、違反となり得ることには変わりありません」

●残業命令拒否すれば懲戒処分も

では、これら条件をクリアした残業命令を出しても定時退社する社員がいた場合、会社はどうすればいいのでしょうか。飛渡弁護士は、次のように言います。

「特に残業が常態化しておらず、納期のためになんとか残業してほしいという場合においても残業しない社員に対しては、注意や懲戒処分を検討することとなります。書面による注意をして、それに対してどう考えるかということをも書面に残しておきましょう。

ただし、たった一度だけ残業命令に従わなかったような場合でも懲戒処分をすれば、それは不当な懲戒となる可能性が高いです」

納期が差し迫っているなど切羽詰まった状況では、たとえ一度だけでも残業命令に従わない社員がいるとなれば、会社としては頭の痛い問題でしょう。

飛渡弁護士は、「残業命令に従わず納期も守れない社員は、法定労働時間内の働き方から問題があることが多いです」と話します。

「そういった社員への対応として、会社は、問題一つ一つに対して、注意・指導をして記録に残しておくべきです。なぜなら、改善が一向に見られないのであれば、最終的には辞めていただかないといけないかもしれないからです」

●「会社組織体制の強化が大切」

会社にとって一番いいのは、いざ納期間近というときにバタつかずに済むことでしょう。飛渡弁護士は、日頃の会社づくりが重要だといいます。

「たとえ定時退社する社員がいたとしても、その社員が普段から問題あるような人でないのであれば、他のメンバーの都合も考慮して、なんとか協力を促すことになると思います。

残業しなくても納期を守れる体制が理想でしょうが、実際には難しい場合が少なくないです。したがって、仕事の仕方を見直し、理念を共有するなどの会社組織体制の強化が大切になるでしょう」

プロフィール

飛渡 貴之
飛渡 貴之(ひど たかゆき)弁護士 弁護士法人あい湖法律事務所
2年半、パチンコ・パチスロをして、1000万円の利益を出す。その後、パチンコメーカーに就職し5年間新機種の企画に従事する。退職後、弁護士となり、弁護士法人あい湖法律事務所を開設、弁護士12名所属し、東京大手町、大阪府高槻市、滋賀県大津市の 3カ所に事務所を設置。

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