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ビルメンテ会社の「名ばかり役員」に労災認定、月143時間の残業で「脳出血」発症
男性の代理人とつとめた川人博弁護士(左)と田中美和子弁護士(2020年6月11日/弁護士ドットコム撮影)

ビルメンテ会社の「名ばかり役員」に労災認定、月143時間の残業で「脳出血」発症

東京都内のビルメンテナンス会社の取締役だった男性(当時57歳)が脳出血を発症したのは、長時間労働が原因だったとして、中央労働基準監督署が労災認定していたことがわかった。認定は、1月10日付。男性側の代理人が6月11日、都内で会見を開いて明らかにした。

男性は取締役という肩書きだったが、勤務実態から「労働者性」が認められた。男性側の代理人の1人、川人博弁護士によると、今回のように、いわゆる「名ばかり役員」の労働者性が認められたケースは過去にもあるが、例は少ないという。

●会社の経営判断に関与していなかったという

男性側の代理人によると、男性は1993年、都内のビルメンテナンス会社の代表者の誘いを受けて、入社した。その後、取締役に就任したが、会社の経営判断には関与しておらず、ほかの従業員と同じように設備管理業務をおこなっていた。

1日の勤務時間は、未明・早朝に自宅を出て、午後8時ごろに帰宅することが多く、土日・祝祭日も出勤することがあった。また、会社が24時間のコールセンターで緊急対応を受け付けているため、急きょ現場に向かうことも多かったという。

男性は2017年6月、職場で脳出血を発症した。病院に救急搬送されて、一命をとりとめたが、現在も右半身麻痺や言語障害が残っている。男性の家族が2018年4月、労災申請をおこなっていた。

●「グーグルマップの履歴」をもとに労働時間を主張

男性の肩書きは取締役だったため、労災認定にあたっては、労働者性が問題となった。

(1)役員就任前後で業務内容に変化がない、(2)役員報酬でなく給与支給だった、(3)発症時まで雇用保険の資格を取得していた――などの実態から、総合的に労働者性が認められた。

また、タイムカードによる労働時間管理がなかったため、その算出も困難だったが、代理人側は、男性のスマートフォンに入っていた地図アプリ(グーグルマップ)のタイムラインの履歴をもとに算出した。あとから会社側が提出した業務日報と照らし合わせても齟齬がなかった。

中央労働基準監督署は、長時間労働(発症前1カ月・143時間53分の時間外労働)があったとして、労災認定した。

男性の妻 男性の妻

●男性の妻「社員を守ることが会社を守ること」

男性の妻もこの日の記者会見に出席した。妻によると、男性は脳出血で倒れる直前の3カ月は、まるまる1日休めた日は1日もなかった。現在も、右半身麻痺や高次脳機能障害を抱えながらリハビリに取り組んでいるような状況だという。また、この間、会社側には、労災に関する書類を1枚も書いてもらえなかったそうだ。

「どんな会社も、所属している社員に対して、業務内容や業務量を把握して、改善するべき部分は組織として対応するべきだと考えます。どんな経営者にも、社員の一人ひとりのみに責務を負わせることのないように、最低限の労務管理を実施していただき、社員を犠牲にして会社を守るのではなく、社員を守ることが会社を守ることだという認識を持っていただきたいです」(男性の妻)

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