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「まさにブラックボックス」AIによる人事評価 情報開示求め、日本IBM労組が申し立て
会見はオンラインでも行われた(2020年4月3日、東京都、代理人提供写真)

「まさにブラックボックス」AIによる人事評価 情報開示求め、日本IBM労組が申し立て

日本IBMの従業員で作られる労働組合「JMITU」日本IBM支部は4月3日、同社によるAI(人工知能)を利用した人事評価・賃金決定について、同社が団体交渉に応じないのは不当な団交拒否に当たるとして、東京都労働委員会に救済を申し立てた。

従業員の人事評価や賃金決定までAIに行わせることの問題性が問われる取り組みとして、過去に類をみないものだ。

申し立て後の会見で、JMITUや代理人弁護士らはAIによる人事評価の問題性を問う事案はおそらく日本初だとしたうえで「今後の企業の人事労務管理におけるAI利用の指針を決めるもの」と話した。日本でどのような判断がされるか注目される。

●団体交渉を再三拒否

申立書などによると、日本IBMは2019年8月14日付けで、IBMが開発したAI「ワトソン」によって従業員を評価して賃金を決める仕組みの導入をグループ社員に通達した。

組合は繰り返し、団体交渉を通じて、AIの学習データや、AIが評価者である上司に向けて表示するアウトプットの開示を求めたほか、日本IBMが人事評価の要素として就業規則に定める「職務内容」「執務態度」などをAIがどのように判断するか説明を求めてきた。

その求めに対して、同社はAIが上司に示す情報は社員に開示することを前提としていないなどと主張し、団体交渉を拒否した。

登壇者らは「AIの市場シェアナンバーワン」を標榜する日本IBMにおいて、AIの導入の判断が議論されず、検証もままならない状況だとして、同様の事態が広がることに警鐘を鳴らす。

組合は日本IBMが情報開示に応じず、団体交渉を正当な理由なく拒むことが不当労働行為(労組法第7条2項)だと主張する。AIの学習データ、AIが上司に示すアウトプットの内容、アウトプットと人事評価制度との関連について、資料を開示して説明することを求めて、都労委に申し立てることとなった。

●問題点は

AIを人事評価等に利用することについては、すでに日本でも議論されてきた。労働政策審議会労働政策基本部会でも「AIの情報リソースとなるデータやアルゴリズムにはバイアスが含まれている可能性がある」「リソースとなるデータの偏りによって、労働者等が不当に不利益を受ける可能性が指摘されている」(2019年9月11日付け報告書)との懸念が示されている。

そのうえで、労政審は人事労務分野でのAI活用について労使間での協議を提言している。

組合が実施したアンケート調査では、組合員から「すでに昇給など評価が不透明であり、さらにAI導入で不透明となったのでは」と不満が上がっているという。

日本IBMでは、四半期に1度、直属の上司との面談がある。上司はモニターでAIのアウトプットを表示しながら面談をして、昇給額などを決めるという。ただ、そのモニター画面を部下に向けて見せることはない。

上司の判断にAIのどんな情報が、どのように反映されているのかも不明だ。評価はまさにAIという「ブラックボックス」によって決められている。

●AI導入の是非を問うものではない

今回の救済申し立ては、AI利用について情報が誠実に開示されない不透明な状況の改善が理由である。他方、会見で関心を集めていたのは、AIの人事評価利用の「是非」だった。

登壇者らの立場は「現段階でAIは不完全」という考えだ。たとえば、AIが差別を「学習」することで、従業員に対して差別的なアウトプットになりかねないことを懸念している。

AIの導入は労使交渉で議論した先に、双方が納得したうえで成立するもの。代理人の穂積匡史弁護士は「その議論すら拒否される状況では、AIの是非を論じることはできず、スタートラインにすら立っていない」と語る。

「AIの利用が是か非かといえば、倫理観や労働法が目指す将来をAIが認識すれば、是。労使交渉でまずは議論しなければいけない」

●日本IBMは

日本IBMの広報担当者は弁護士ドットコムニュース編集部の取材に「申し立ての内容を確認できていないので、コメントしかねます」と回答した。

会見は通常通りに記者クラブで開催されたが、新型コロナウイルスの感染対策として「Zoom」での参加も認められ、弁護士ドットコムニュース編集部はオンラインで会見に参加した。

※日本IBMからの回答を午後6時9分に追記した。

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