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保育園が突然閉鎖、「無給覚悟」で自主運営したスタッフが涙の会見「経営者も行政も許せない」
自主運営に参加した保育スタッフら(12月16日、東京都内、弁護士ドットコム撮影)

保育園が突然閉鎖、「無給覚悟」で自主運営したスタッフが涙の会見「経営者も行政も許せない」

運営会社によって突然、閉園を通告された都内の認可外保育園。いったい何があったのか。閉園後も自主運営を行っていた保育スタッフらが12月16日、園内で記者会見を開き、閉園前の労働問題や保育環境などを明らかにした。

スタッフの1人は、「実態を知ってもらうため、東京都や世田谷区に特定の時間帯に来てほしいとお願いしたら、『私たちも仕事があるので』と断られた。経営者は許せないが、そんな行政も許せない」と涙ながらに訴えた。

この保育園は11月29日の閉園後、保育スタッフと保護者で協議し、12月1日〜13日まで自主運営を行った。

自主運営を支援した介護・保育ユニオン共同代表の三浦かおりさんは「無責任に保育園を閉園した経営者はひどいが、保育園を簡単に閉園できてしまう制度自体にも問題がある」と語った。

●問題だらけの労働・保育環境

この認可外保育園は、東京都世田谷区にある認可外保育園「プレスクールマム・クラブ三軒茶屋」。介護・保育ユニオンによると、閉園前から従業員の労働環境や子どもの保育環境に多くの問題があったという。

労働環境については、賃金遅配・未払いが恒常的に発生しており、残業代も未払いだったという。また、保育スタッフは子どもと一緒に昼食をとっている時間を休憩時間とされるなどの扱いを受けたという。

保育環境についても、保育士がゼロの時間がある、物が積まれたピアノの下やダンボールが積まれた部屋などで昼寝させる、一人乗りベビーカーに二人乗りさせるなど、子どもにとって危険な状況で保育がなされていたという。

経営者に訴えても、改善されることはなかったため、保育スタッフの一部が介護・保育ユニオンに加入。11月26日に改善を求めて、会社に団体交渉を申し入れた。そのわずか3日後、11月29日に倒産と即日閉園が通告された。

●認可外保育園は制度上、運営側の都合で勝手に廃止できてしまう

運営会社の倒産、保育園の閉園は、社長が11月29日昼過ぎに決定。従業員や保護者への事前の通知・説明などは一切なく、保育園の入口に貼り紙をするだけで済ませようとしたという。

これに対し、その場にいた保育スタッフや保護者、駆けつけたユニオンのスタッフが抗議し、12月2日以降の自主運営を黙認させたという。

なお、認可外保育園を廃止する場合は、廃止後1カ月以内に行政へ届出をすればよいこととされており(児童福祉法59条の2第2項)、三浦さんは「子どものことを考えずに、勝手に廃止できてしまうというのはおかしい。制度自体を変えていかなければならない」と訴えた。

●無給覚悟の自主運営

自主運営は、12月2日〜12月13日の土・日をのぞく10日間、おおよそ9時〜18時で行われた。利用者数は計15名、1日最大8名ほどいたという。12月16日以降の転園先や預け先の目処がついたと確認できたため、自主運営を終了した。

自主運営に参加した保育スタッフは計6名(うち保育士資格保有者2名)で、ボランティアとして無給覚悟で勤務した。

自主運営を支援していた介護・保育ユニオンは、ネット上で寄付を呼びかけ、12月14日時点で約245万円が集まったので、結果として、保育スタッフに自主運営期間中の給与相当分を充てることができたという。

今後、自主運営に参加した保育スタッフの一部と介護・保育ユニオンは、経営者に対して、未払い賃金の支払いに関する団体交渉の(再度の)申し入れや運営会社の刑事告訴などを検討しているという。

●「経営者は許せないが、行政も許せない」

会見では自主運営に参加した保育スタッフ3人が次のように語った。

「東京都と世田谷区に何度も指導してほしいと申し入れ、実際に来てくれたが、見逃されてしまった。数分だけ見に来たときもあったが、本当の実態を知ってもらいたいので特定の時間帯に来てほしいと再度お願いしたら、『私たちも仕事があるので』と断られた。経営者は許せないが、そんな行政も許せない」(Aさん)

「子どもや保護者が大変な目にあわないよう、私たちがやらなければという思いで自主運営を行ったが、そもそも自主運営をやっていいのかという不安もあった。組合や保護者に理解してもらえるなど、周りの環境には恵まれたと思う。今後、経営陣の責任を追及していきたいと思っている」(Bさん)

「保育環境のよくない現状を訴えても改善されない状況に驚いた。突然の閉園は、スタッフの良心を踏みにじる行為。子どもたちが安心して通える『いつもの場所』が奪われたことが残念でならない」(Cさん)

●一部の賃金について未払いであることは事実

保育園経営者の代理人である石塚花絵弁護士は、弁護士ドットコムニュースの取材に対して、以下の回答を行った。

ーー経営者は倒産手続きを行っているとのことですが

「株式会社マム・クラブについては、自己破産の手続きを進めています」

ーー労働・保育環境に色々と問題があったようです

「運営会社の自己破産手続きに関する代理人なので、保育園の労働・保育環境を含む閉園前の事実関係については基本的に関知していません」

ーー賃金未払いなどについては、破産手続きとも関連があると思いますが

「一部の賃金について未払いであることは事実です」

ーー今後、経営者が会見するなどの予定はあるのでしょうか

「現時点では特に予定はしておりません」

●保育士労働相談ホットライン

今回のマム・クラブでの自主運営の取り組みを受けて、介護・保育ユニオンでは、保育士向けの労働相談ホットラインを開催する。

日程は12月22日13時〜17時、12月23日17時〜21時。電話番号は0120-333-774。通話・相談は無料、秘密厳守。ユニオンの専門スタッフが対応する。

【UPDATE】経営者の代理人弁護士のコメントを追記しました(2019年12月17日15時00分)。

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