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26歳営業職の「過労死」、逆転で認められる 労基署は「運転は労働じゃない」と却下していた
会見する川人博弁護士(11月29日、東京都内、弁護士ドットコム撮影)

26歳営業職の「過労死」、逆転で認められる 労基署は「運転は労働じゃない」と却下していた

出張先のビジネスホテルで急死した男性(26)の遺族が、労災を認めなかった労基署の決定に不服を申し立てていた(審査請求)事案で、労働局は労基署の不支給決定を取り消し、労災を認める決定をした。決定は11月26日付。

遺族の代理人をつとめる川人博弁護士らが、11月29日、東京・霞が関の厚労省で会見を開き、決定の詳細を明らかにして、「審査請求して逆転で認められるケースは5%くらい。事案をしっかり検討した決定だ」と語った。

●過密スケジュールに、過酷な運転労働

川人弁護士によると、男性は外国製大型クレーン車の販売営業をする勤続4年目の正社員。出張先の三重県内のホテルで2016年5月19日、急性循環不全による心臓突然死で亡くなった。

男性は、山形県から三重県にわたる12県を担当。毎週月曜、午前7時から横浜市内の本社である会議に出席し、その後は金曜まで社用車で各地の営業先をまわり、夜はビジネスホテルに宿泊。金曜の業務終了後に、横浜市内の自宅(当時)に帰るというパターンでおおむね働いていた。

社有車のETCカードに残った記録やホテルのチェックイン時刻、ノートパソコンのログインやログオフの時刻などをもとに、代理人が男性の時間外労働時間を集計したところ、亡くなる前2カ月の時間外労働時間の平均は、「過労死ライン」を超えていたという。

●労基署「事業主の指揮監督下にあったといえないから、移動時間は労働時間でない」

鶴見労働基準監督署は、社用車を運転し、交通費が会社の経費で支払われていても、また所定労働時間内であっても、自宅やビジネスホテルから訪問先への車での移動時間、訪問先から自宅やビジネスホテルへの移動時間は労働時間ではないと判断した。

また、宿泊先のビジネスホテルや自宅でのパソコン作業については、作業時間や成果物など具体的に業務に従事している実態が明確に認められないとし、労働時間として算入せず、亡くなる前2カ月の時間外労働時間の平均は「41時間12分」と認定した。

●審査官「男性の移動時間は労働時間として取り扱うのが相当」

一方、神奈川労働者災害補償保険審査官は、男性の担当する営業範囲が広く、車でないと不便な営業先が多いため、社用車以外の移動は困難であり、会社も社用車での営業を指示していたと考えられるとして、男性の移動時間は労働時間として取り扱うのが相当と判断した。

また、パソコン作業についても、ノートパソコンのログオンやログオフ時刻の間に、ファイルの更新やメールの送信が時間的連続性を保って行われていれば、その時間は労働時間として取り扱うべきとし、一部の作業を労働時間として認め、亡くなる前2カ月の時間外労働時間の平均は「71時間24分」と認定した。

●「男性は著しい疲労の蓄積をもたらす業務に従事し、心臓突然死を発症した」と認定

このほか、審査官は、(1)出張回数が多く、その半数程度は宿泊を伴うもので、疲労が蓄積する可能性が高かった、(2)社用車の長距離・長時間運転は精神的・肉体的負荷が相応に大きかったことなども認定。

これらの就労実態から、男性の発症した心臓突然死は、著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に従事していたことにより発症したと認定し、労基署の不支給決定を取り消し、労災を認めた。

●遺族「今回の決定が過労死のない世の中につながればと願っている」

男性が亡くなった当時、妻は妊娠中だったという。男性は子どもの顔を見ることなく、この世を去ったことになる。

会見にあたって、男性の妻は「労災と認められても、かけがえのない大切な人が亡くなった悲しみは、この先も消えることはありません。今回の決定が、労災制度の改善や、二度と私のように悲しい思いをする方が出ない、過労死のない世の中につながればと願っています」と書面でコメントした。

●過労死110番

川人弁護士ら過労死問題に取り組む弁護士らは12月7日、東京など14都道府県で、無料の電話相談「パワハラ・過労死110番」を実施する(一部の地域では別日に開催)。

時間は午前10時〜午後3時。電話番号は0120-136-888(東京会場)など。地域ごとの詳細は、弁護団ホームページへ。

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