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マタハラ控訴審、執務室内の「録音禁止令」が許容されたワケ…労働弁護士から批判の声
会見した女性(2019年11月28日、編集部、都内)

マタハラ控訴審、執務室内の「録音禁止令」が許容されたワケ…労働弁護士から批判の声

語学スクール運営会社で働いていた女性(30代)が「マタハラ」を主張し、雇止めの不当性などを訴えていた裁判。11月28日の控訴審判決は、雇止めを無効とした一審判決を覆し、雇止めを有効と判断した。

その根拠の1つが、会社側が禁止していたにもかかわらず、女性が社内の発言を録音していたという点だ。この点をめぐり、労働問題に取り組む弁護士からは「労働者側のハラスメント立証が難しくなる」などの意見が出ている。

実際、録音について一審判決(阿部雅彦裁判長)は、労使間の紛争で重要な証拠になることから、録音の必要性があることは否定できないなどとして、雇止めをする「客観的に合理的な理由」に当たるとは認めがたいと判示している。

一方、二審判決(阿部潤裁判長)は、会社の録音禁止命令は許容されるとして、女性の録音行為を「服務規律に反し、円滑な業務に支障を与える行為」と評価している。

二審判決はどうしてこのような判断に至ったのだろうか。

なお、一審・二審を通して、会社側に男女雇用機会均等法や育児・介護休業法違反は認められていない。

●「職場環境を悪化させる」

判決書によれば、会社側は女性に対し、面談や交渉の場面の録音は個別に許可するものの、執務室内の録音は禁止していた。

裁判所は、録音禁止について、業務上のノウハウやアイディア、情報などの漏洩を防ぐほか、執務室が小さいことから、社員同士の自由な意見交換などの妨げになり、職場環境を悪化させる恐れもあるとして、「業務管理として合理性がないとはいえず、許容される」と判示している。

●組合に伝達するためならメモ書でも足りる

労働者側からすれば、いつ何を言われるか分からないという側面もありそうだが、裁判所は「執務室内の会話をあえて秘密録音する必要性もない」と述べている。

裁判の中で女性側は、録音は自己防衛のためや所属する労働組合に伝えるために必要で、不要な部分は消去し、目的外使用もしていないと主張していた。この点について、裁判所は次のように判示した。

「組合に伝達するためであれば、メモ書でも足り、録音の必要性はなく、(略)自己の権利を守るといいながら、結局、一審被告(=会社)関係者らの発言を秘密裏に録音し、そのデータをマスコミ関係者らに手渡していたのであるから、録音を正当化するような事情はない」

「(この事件は)就業環境というよりも交渉の問題であって、執務室内における言動とは直接関係はなく、仮に何らかの関連がなくはないとしても、執務室内における会話を録音することが証拠の保全として不可欠であるとまではいえず、結局、自己にとって有利な会話があればそれを交渉材料とするために収拾しようとしていたにすぎない」

●録音のマスコミ提供や誤情報を問題視

さらに裁判所は、マスコミの報道にも言及。女性への取材や録音データをもとにした記事に、二審が認定した客観的事実と異なる部分が複数あるとし、女性の行為は会社の名誉、信用を毀損するおそれがある行為と指摘した。

そのうえで、こうした録音データの利用法なども含めて、次のような理由で雇止めを有効と判示している。

「一審被告(=会社)との信頼関係を破壊する行為に終始しており、かつ反省の念を示しているものでもないから、雇用の継続を期待できない十分な事由があるものと認められる」

なお、この裁判では女性が提訴時に開いた記者会見での「子を産んで戻ってきたら、人格を否定された」などの発言が、会社に対する名誉毀損になるかも争点になっていた。

一審では名誉毀損に当たらないと判断されたが、二審では名誉毀損に当たるとして、女性側に50万円の支払いが命じられている。

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