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大事な「一生のお願い」を「アイスわけて」で使ってしまった! 漫画家やしろあずき夫婦「一生のおねがい契約書」有効性を考察
「一生のお願い契約書」(イメージです)

大事な「一生のお願い」を「アイスわけて」で使ってしまった! 漫画家やしろあずき夫婦「一生のおねがい契約書」有効性を考察

漫画家やしろあずきさんがツイートした「一生のお願い」が話題になりました。

妻に「一生のお願い」を使ったら契約書を作ってこられたので本当に一生のお願いになってしまったーー。そんなつぶやきとともに、やしろさんの妻でコスプレイヤーのなるみひなさんが作った「一生のおねがい契約書」の画像がアップされました。

「一生のおねがい契約書」によって、夫妻は「一生涯に一度しかできない願い」を締結したようなのです。

●契約書の中身

「一生のおねがい契約書」
なるみひな(以下「甲」といいます。)とやしろあずき(以下「乙」といいます。)とは、以下のとおり『一生のお願い』(以下「本契約」といいます。)を締結します。

1. 乙は、一生涯に一度しかできない願い(以下「お願い」といいます。)を甲に懇願し、甲はこれを受託します。お願いの内容は下記のものとなる。
(1)どうしても甘い物が食べたいからアイスをわけてほしい

2. 甲は、乙からお願いを受けた場合に、それを承諾する場合には、遅滞なく承諾する旨の通知を行うものとします。

3. お願いの承諾の通知が乙に到達することにより、一生のお願いに関する個別の契約(以下「個別契約」といいます。)が成立するものとします。

4. 乙は、甲が要求した場合には、本条第2項に定める食べたアイスの種類、本数を電子メール等インターネットを通じて行うものとします。

5. 一生のお願いの内容・その他乙がお願いを履行する上で必要な事項については、甲及び乙双方協議の上決定し、個別契約の内容となるものとします。

この契約書を読むと、やしろさんは「アイスをわけてほしい」という目的を達成するため、なるみさんに「一生涯に一度しかできない願い」を使ってしまったようにも思えます。契約は有効で、今後、「一生のお願い」をすることは金輪際叶わないのでしょうか。

投稿された画像のほかにも契約書のページは存在するかもしれませんが、こちらの契約書について、夫婦問題に詳しい小田紗織弁護士に聞きました。

●素敵な夫婦だ

やしろあずきさんのブログをいつも楽しく拝見しているので(Twitterは見ていませんが)、コメントすることができてとても光栄です。とても仲の良い素敵なご夫婦ですので、きっとこの契約書も楽しみながら作られたのだろうな、と想像しています。

ーーこの契約書はどのような内容の契約を成立させようとするものでしょうか

この契約書は、継続的な取引関係がある企業同士で取り交わされる基本契約を、継続的な夫婦関係に当てはめて作られているようです。

契約は、当事者の間で権利と義務を発生させる合意をするものです。

そのため、(A)権利と義務の内容が確定されている、(B)適法、(C)社会的に妥当、(D)実現可能なもの。これらの条件を満たさない契約は無効です。

やしろさんの契約書を見てみると、(A)確定性がないようです。

1の(1)「どうしても甘い物が食べたいからアイスをわけてほしい」はある程度、確定しているようにも見えます。しかし、どのアイスなのか、いつ貰えるのか、いくつなのか(「4」の条項をみると、どれでも、いくつでも良いようにも思えますが…)など内容が曖昧です。

また、この契約では、乙がお願いして甲が承諾すれば、個別に契約が成立するとなっていて、二度目以降が想定されているようです。結局、この契約で甲乙に何か具体的な権利義務が発生しているとはいえないでしょう。

ーー法的に有効ではないということでしょうか

この契約書に法的な拘束力があるとはいい難いと思います。たとえば、アイスの分与請求や、アイスの二度目の提供義務の不存在確認、そしてこの合意に反したことをもって離婚を求めるなど、いざというときの裁判で請求が認められる根拠となるのかといえば、難しいのかなと思います。

●「一生のお願い」とは「一生に一度しかしないくらいの重大なお願い」

ですが、夫婦円満のための夫婦間のルールとしての意義はあると思います。

「一生のお願い」「一生に一度のお願い」ですが、二度目でも三度目でも「お願い」に対して相手が応じれば、願いは叶います。一生に一度しかしないくらいの重大なお願い、という意味でしかありません。もし、お願いされた側がもう二度と願いを聞く気はないのであれば、応じなければ良いだけの話です。

法的な問題というよりは、互いの信頼関係の問題です。「一生のお願い」を濫用して信頼関係を失わないように、注意しましょう。

プロフィール

小田 紗織
小田 紗織(おだ さおり)弁護士 神戸マリン綜合法律事務所
法科大学院1期生。「こんな弁護士がいてもいい」というスローガンのもと、気さくで身近な弁護士を目指し活躍中。

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