男性同士・女性同士の「同性カップル」に対して「結婚に相当する関係」を認める証明書を出す——。東京都渋谷区が、今年3月の区議会にそんな制度を盛り込んだ条例案の提出を検討している。
渋谷区は「同性愛のカップルが、アパート入居や、病院での面会を断られるケースがある」として、制度設計に着手。レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーなどの性的少数者(LGBT)からも意見を聞きながら、検討を重ねたという。対象は渋谷区に住む20歳以上の同性カップルで、「任意後見契約」を相互に結んでいることを条件とする予定だ。
世田谷区の保坂展人区長も2月15日、区内で開いた性的マイノリティの成人式で渋谷区の事例に言及。そのうえで、LGBT向けの人権施策について「世田谷区としても、何ができるか答えを出すべく準備している」と述べたという。
渋谷区の「証明書」制度は、当事者たちの目にはどのように映るだろうか。自らゲイだとカミングアウトしている南和行弁護士に意見を聞いた。
※渋谷区「同性カップル証明書」どうみる?(下)「結婚の自由化、もっと進めるべき」
●南和行弁護士「権利保障の大きな一歩」
僕は、自分がゲイだということを公言しています。一緒に暮らしているパートナーの吉田昌史も弁護士で、2人で弁護士事務所を開いているため、「弁護士夫夫」と呼ばれることもあります。
ところが、僕たちの「夫夫関係」を証明する公的な書類はありません。日本ではまだ同性婚が認められていませんし、それに代わるような制度、たとえばフランスのPACS(パックス)のように、同性でも使えるパートナーシップの制度もありません。
僕たち「夫夫」のような関係を、行政が「結婚に相当する関係」だと公的に認め、証明書を出す。これは、同性愛者の存在が公的に認められるということで、日本におけるセクシュアル・マイノリティの権利保障の、大きな一歩だと思います。
——「証明書」が活用できる場面は?
たとえば、家を借りる契約をするときや、病院で面会するときなど、法的には「結婚している必要がない場面」でも、結婚しているカップルと結婚していないカップルで、扱いが変わる場面は多々あります。
また、「一緒に住む家を買うため、住宅ローンを組むとき」もそうですね。これは法律というより商慣習の問題ですが、男女であっても事実婚だと、銀行が住宅ローンを組ませてくれないケースもあると聞きます。
そうしたとき「公的証明書」を提示することで、男女の夫婦と同様に扱ってもらえるのではないか、という期待があります。
——実際に役に立つ?
強制力という意味では期待できないかもしれません。しかし、たとえば日常生活で、同性カップルが「男女のカップルと扱いが明らかに違う」というケースに遭遇したときに、「不当な扱いだ」と言いやすくなるかもしれませんね。
——気になった点は?
どういう場合に「同性パートナー」だと認めるのか、という条件が気になりました。男女の結婚は、2人が「結婚したい」と考えて、役所に書類を提出すれば認められます。しかし、今回の制度は、同性パートナーがお互いに「任意後見契約」を結ぶことが条件となっているようです。
任意後見契約は「いざというとき相手の面倒を見る」という契約ですが、結婚はそれだけの関係性ではないですよね。むしろ、男女の夫婦でも、後見人は別の人というケースがあります。
そういった点でも、今回の制度はあくまで「婚姻制度とは別もの」ということでしょう。しかし、「同性パートナー関係を結婚と同じようなものとして扱う」のであれば、将来的には「結婚の本質とは何なのか」という議論に踏み込まざるを得ないと思います。
たとえば「子ども」をどう考えるかですね。結婚の本質に「次世代を育てること」を込みと考えるのか、そうでないと考えるのか。そこでの結婚の本質についての考え方しだいでは、たとえば同性カップルが養子を迎え入れたいというケースや、生殖補助医療を使いたいというケースについて、対応が変わってくる可能性があります。
こうした論点は、なにも同性愛者に限定される話ではありません。今回の渋谷区の取り組みをきっかけに、「そもそも結婚とは何か」といった、家族のあり方全体への議論が盛り上がることを期待しています。