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NHK vs 東横イン 宿泊客のいない部屋にも受信料、残るモヤモヤ感
東横インとNHK(編集部撮影)

NHK vs 東横イン 宿泊客のいない部屋にも受信料、残るモヤモヤ感

NHKと東横インの受信料訴訟は、NHK勝訴の決着となりました。最高裁第二小法廷(菅野博之裁判長)が7月24日付の決定で、東横イン側の上告を棄却したためです。

客室などのテレビ約3万4000台の受信料として、約19億円を支払うよう命じた東京高裁判決が確定しました。

誤解のないように説明すると、東横インは提訴後に全室のテレビについて受信料を支払うようになっています。

NHKの規約上、ホテルなどの事業所では、テレビの「設置場所ごと」の契約が必要とされています(2条2項)。NHKのQ&Aページによれば、「設置場所」とは「原則として部屋ごと」です。

ただし、それでは負担が大きすぎるということで、NHKは2009年2月から、すべて契約すれば受信料が「ほぼ半額(2台目から半額)」になる「事業所割引」をはじめました。契約率が50%を超えるのであれば、100%にした方がお得ということです。

ということで、今回の裁判で争われたのは、全室契約する前の未払い分についてです。

●NHKの不正支出問題、かえって徴収強化

そもそもなぜ、今回の裁判が起こったかというと、発端は2004年7月から相次いで発覚したNHKの不正支出問題にさかのぼります。

このとき、受信料の支払い拒否や保留が相次ぎ、最大128万件(2005年11月末)にも達しました。

編集部作成 NHKの報道発表より編集部作成

一方で、NHKの財源のほとんどは受信料なので、支払いがなくなると立ち行かなくなってしまいます。そこで国会でも徴収率の是正が求められました。

そんな中、会計検査院が2006年、ホテルの受信料について、会社によって契約率に大きな差があることを問題視します。中でも東横インは5%しかありませんでした。

この年、東横インは、障害者用の設備などを自治体の検査後に撤去し、一般用につくり直していた「不正改造」問題で批判をあびていました。そのため、5%問題も注目を集めました。

結局、NHKの不祥事から始まった騒動ですが、国側がNHKにしっかり受信料を集めろ、と指導する結果になったわけです。この頃から、NHKは一般の人にも裁判を起こすなどして、徴収を強化していきます。

●東横イン訴訟、NHKとの合意の有無などが主な争点

さて、東横インは巨大グループですから、全室で払うとなると大きなお金が必要です。そこで契約率を徐々に上げながら全室での契約を目指しました。全室での契約を結んだのは2014年。裁判ではその前の受信料の不払いが問題になったわけです。

東横イン側は、契約率を徐々に上げることについてNHKと合意していたから全室分は払わなくて良い、契約率100%で適用される事業所割引(=ほぼ半額)がさかのぼって適用されるから請求が高額すぎるーーなどと主張しましたが、いずれも認められませんでした。

1室ごとに徴収することは酷という主張もありましたが、これも退けられています。

●レオパレスは住人が払えなのに?

しかし、ホテルは常に満室なわけではありません。観光庁の「宿泊旅行統計調査」によると旅館も含めた「客室稼働率」は60%ほどです。宿泊客のいない部屋にも受信料が発生することにモヤモヤを感じる人もいるでしょう。

これと似た事例で、あらかじめテレビが備え付けてある賃貸住宅で、誰が受信料を払うべきなのかが争われた裁判があります。「レオパレス」の元住人が起こした裁判です。

この裁判では、一審は住人に支払い義務はないとしましたが、二審で住人が支払うべきと逆転しました。最高裁が2018年8月に上告を棄却したので、NHK勝訴で確定しています。

法律上、誰が受信料を払うべきかというと、テレビ(受信設備)を「設置した者」です(放送法64条1項)。ですが、レオパレスは備え付けですから、住人は「設置していません」。

この点について、確定した二審の東京高裁判決は、「設置した者」は物理的に設置した人だけでなく、テレビを占有している人、つまり部屋の主も含まれるとしました。だとしたら、ホテルの宿泊客にも受信料を請求できることにならないのでしょうか。

レオパレス裁判で、元住人の代理人を勤めた前田泰志弁護士は、東横イン訴訟でのNHK勝訴確定について、次のように話していました。

「『誰でもいいから、NHKから支払いを求められた誰かが払え』という恣意的な扱いを認めたことになるのが、何といっても問題ではないでしょうか」

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