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NHK「テレビ設置しない場合も届け出て」、ヤバい要望が撤回に追い込まれた背景
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NHK「テレビ設置しない場合も届け出て」、ヤバい要望が撤回に追い込まれた背景

受信料の徴収をめぐり、NHKが放送法の改正を求めている。テレビなど受信設備の設置者に対して、届け出を求めるなどという内容だ。

背景にあるのは、訪問・徴収などにかかる年300億円超の多額の営業費用。受信料の支払率は現在約83%あるが、支払率が上がれば上がるほど、未払い者は“難敵”揃いになる。このコストを圧縮できれば、受信料の減額にもつながる。

しかし、ネットなどでは不満が噴出。当初、NHKはテレビの未設置者にも届け出を求めていたが、11月9日にあった総務省の有識者検討会では、届け出の対象をテレビの設置者のみに修正したという。

NHKの要望に対しては、民放各社や新聞社からも強い批判が起きており、メディア間の思惑も透けてみえる。

●「未設置申告」自体は海外にも見られる

NHKが当初想定していたのは、未契約者に対してテレビの有無を確認する通知を出し、通知が返って来なければ、テレビがあると推定して、場合によっては訴訟を起こすというものだ。その過程で、未契約の居住者情報を照会する仕組みも求めている。

未設置者に通知を求めること自体は、国際的には必ずしも突飛とはいえないようだ。NHKの構想のもとになっている2017年9月12日発表のNHK受信料検討委員会の答申には次のような記述がある。

「海外の公共放送では、たとえばフランスやイタリア、韓国において、世帯が当然に受信設備を設置しているとみなしたうえで、未設置の場合には視聴者が申告する未設置申告の仕組みが導入されている」(「公平負担徹底のあり方について」答申)

NHKはこうした海外事例も参考に、日本でも可能な効率的な方法を模索している。

●「公平負担」という論点

ネットでは顧みられることが少ないが、受信料を払っている人にとっては、テレビを持っているのに受信料を払わない人の存在は不公平といえる。NHKを観ているのに払わない場合はなおさらだ。

そんなフリーライダーのためにかかる多額の経費が受信料に上乗せされているということでもある。

既に払っている人が、「不公平だから自分も払わない」となれば、受信料制度は崩壊する。NHKがテレビの有無の届け出を求める理由の1つには、こうした「公平負担」という面もある。

●テレビ持たない人に負担

ただし、総務省の「公共放送の在り方に関する検討分科会」では、慎重な意見が目立つ。たとえば、名古屋大学の林秀弥教授は、10月16日の第10回で未設置の届け出について、次のように意見している。

「そもそも受信設備を未設置の場合は受信契約締結義務がないわけで、私法上、権原がないところに、未設置の届出義務を課するのは法的に整合しないのではないか」

「国民感情という点でも、例えば受信設備を持っておらずテレビを見ないことを思想信条にしている人が、そのことをNHKにわざわざ届け出なければならないというのは、心理的苦痛というか、なかなか世論の理解が得られないのではないか」

NHKの負担軽減のために、なんでテレビを持っていない人が負担を強いられないといけないのだろうか。

こうした疑問に対して、NHK側は「一定期間訪問しないなど、テレビを持たない方にとってもメリットがある」と、訪問トラブルについて開き直っているかのようなコメントもしている。

●ライバルメディアからの反発

報道によると、NHKは結局、11月9日にあった第11回目の検討会で未設置者の届け出については見直した。ただし、テレビを設置した人の届け出については要求を維持している。

同日、NHKのライバルともいえる日本民間放送連盟と日本新聞協会からは、設置の届け出そのものへの批判も加えられた。検討会資料から一部抜粋する。

民間放送連盟は、テレビだけでなく、ワンセグ機能でも届け出の対象になる点をあげ、「国民生活に大きな混乱を招きかねない」と時期尚早であることを強調している。

その上で、届け出を求めなくても、業務の見直しでコストカットはできるし、クレーム問題はそもそも別途対策をとれば良い、と主張する。

また、民放各社の発言として、届け出をすることでテレビの買い控えがおき、テレビ離れが進むのではないかという懸念も紹介された。

一方、新聞協会は、NHKのあり方自体を批判し、内部の改革が先だと主張する。

「提案自体に問題があるうえ、導入を議論できる環境にはない。受信料制度の在り方は、公共放送が担うべき業務範囲の明確化とセットで議論されるべきであり、NHKは公共放送として担う業務範囲を自ら抑制的に規定することを最優先するべきだ」

●建前は色々あるけれど…

公共放送というNHKの性質上、国民の理解があってこそという民放や新聞の指摘は当然のものと言えるだろう。

ただし、それだけでなく、経営環境が厳しくなる中、受信料という安定的な財源を持つNHKが独走しないよう、民放や新聞が牽制しているようにもみえる。

安定的な経営基盤をつくり、ネットなどに拡大していきたいNHKと、そうした拡大主義を警戒する大手メディアーー。建前の裏では、そうしたメディアの駆け引きも見え隠れしている。

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