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コロナ対策で「バスのつり革」に触れない乗客、 急ブレーキで怪我したら自己責任か?
写真はイメージです(Fast&Slow / PIXTA)

コロナ対策で「バスのつり革」に触れない乗客、 急ブレーキで怪我したら自己責任か?

「走行中やむを得ず、急停車することがありますので、お立ちの方は、つり革か手すりにおつかまり願います」。バスに乗ると、こんなアナウンスが流れる。しかし、コロナ感染拡大を受け、バスでつり革を触ることに恐怖を感じているという人もいる。

感染を防ぐために、消毒などの対策をおこなっているバス会社もある。

それでも、抵抗を示す人は少なくない。運転手がつり革につかまるよう呼びかけたところ「ウイルスがうつったらどうするのよ」と怒った客もいるという。

また、ネット上には「つり革には絶対に触らないようにしている」「つり革に触りたくないから、バランス取りながら立ってみた」などの声が上がっている。使い捨てのビニール手袋をはめて、つり革を握る人を見たという人もいる。

●急ブレーキで怪我をしたら、バス会社や運転手に損害賠償を請求できる

一方、つり革につかまっていたにも関わらず、運転手がわざとかけたわけではない急ブレーキで乗客が怪我をしてしまうこともある。その場合は、損害賠償を請求できるのだろうか。平岡将人弁護士はつぎのように語る。

「損害賠償は請求できます。業務として乗客を運送しているバス会社及び運転手には、バスの運行にあたり、乗客の安全を確保すべき義務があります。

急ブレーキは、乗客に危険を及ぼす運転ですから、周囲の危険を予測して、急ブレーキをしなくても良い運転をするように注意しなくてはなりません。それに反して運転し、急ブレーキをかけたことで怪我をした場合には、バス会社及び運転手に対して損害賠償を請求することができます。

具体的には、治療費、病院へ行くための交通費、仕事を休んだ場合の休業損害、後遺障害によって今まで通り働けなくなった場合の損害である逸失利益、そして精神的苦痛に対する慰謝料を請求できます。

交通事故の類型に入りますから、自賠責保険や自動車保険の支払い対象となります」

●乗客にも「自ら安全確保に努めるべき義務」がある

では、つり革につかまらなかったことで怪我をした場合は「自己責任」となるのだろうか。平岡将人弁護士は「バスの乗客も、走行中の揺れや事故を避けるための急ブレーキなどがあることを予測し、自ら安全確保に努めるべき義務があります」と説明する。

「具体的には、座席に座るとか、立っている場合にはつり革や手すりをしっかりつかまるなどです。このような義務に反した場合、損害の一部は自己責任であるとして、損害額が減額されることがあります。これを『過失相殺』と呼びます。

バスの運転手がつり革や手すりにつかまるよう呼び掛けることによって、乗客は自らの安全確保ができますから、乗客側の責任が増える、つまりバス会社の支払う損害賠償が減ることがありうると思います。

コロナウイルスをおそれて、つり革や手すりにつかまらなかった場合でも、乗客側の安全確保に努める義務は軽減されず、過失相殺はされると考えます。

バス会社も乗客が安心してつり革や手すりをつかみ、安全に乗車できるように消毒などをするのが望ましいとは思いますが、実際には常時消毒をするのは困難でしょう。

そのため、今はバスに乗る場合には、乗客側に自衛のための手段が求められています。直接つり革や手すりに触れないでつかまる工夫をして、ウイルスからも、事故からも自らの安全を確保するのが良いでしょう。

バスの運転手さんも、今は感染が不安でつり革をつかまらない乗客が増えているかもしれないと想像し、普段以上の安全運転を心がけてほしいです。

一人一人が少しずつ協力しあって、この困難を乗り越えていきたいですね」

プロフィール

平岡 将人
平岡 将人(ひらおか まさと)弁護士 弁護士法人サリュ銀座事務所
中央大学法学部卒。全国で10事務所を展開する弁護士法人サリュの前代表弁護士。主な取り扱い分野は交通事故損害賠償請求事件、保険金請求事件など。著書に「交通事故案件対応のベストプラクティス」ほか。実務家向けDVDとして「後遺障害等級14級9号マスター講座」「後遺障害等級12級13号マスター講座」など。

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