代理母が生んだ子どもは、いったい「誰の子」なのか――。生殖補助医療が進んだことで出てきた新しい問題について、法制化に向けた議論が進んでいる。自民党の「生殖補助医療に関するプロジェクトチーム(PT)」が4月下旬、法案の骨子となる「素案」をまとめた。
この素案では、第三者から提供された卵子・精子を使った体外受精などを、限定的に認めている。また、どんな夫婦が生殖補助医療を受けることができるのか、どんな医療機関がこうした医療を実施できるのかなど、生殖補助医療を行うための、さまざまなルールを定めている。
ただ、「代理出産を認めるかどうか」と、こうした医療によって生まれた子どもの「出自を知るための情報開示制度」をどうするかについては、党内でもまだ議論がまとまっていない。これらの点について、自民党PTは、秋の臨時国会までに複数の法案をつくって、国会での審議に委ねる予定だとしている。
今回出てきた素案をどう評価したらいいのか、生殖補助医療の問題にくわしい内山知子弁護士に聞いた。
●法案が示されたことは「一歩前進」
「生殖補助医療をめぐっては、医学技術の進歩に法律がついていけず、野放し状態でした。今回、自民党内の有志によって素案が示されたことは、一歩前進だと思います」
このように、内山弁護士は自民党PTの素案に一定の評価を示す。
「しかし、今回の素案は、『生殖補助医療の利用者』の利便性が重視された内容だと感じます。そうした医療で生まれた子どもや卵子・精子等の提供者の権利、個人としての尊厳に配慮した、バランスの良い規定にはなっていないと感じます」
配慮が足りないのは、具体的にどういった点だろうか。
「素案では『出自を知るための情報開示制度』をどうするか、結論が出せていません。また、出生後の関係者に生じる精神的葛藤を和らげるための制度がないことも問題です」
それでは、もう一つ答えが出なかった『代理出産』についてはどうだろうか。
「特に、第三者の卵子由来の胚による代理出産を認めることは、遺伝的な混乱も含めて、出生した子の精神や成長にも重大な影響を及ぼすと考えられます。安易に認めるべきではありません」
●生殖補助医療での出生は「センシティブな個人情報」
生殖補助医療を受けた夫婦や、生まれた子の情報の取り扱いについてはどうだろうか。
「生殖補助医療での出生は、極めてセンシティブな個人情報です。また、出生後に子が自己の情報開示を求めることも考えて、情報は公的な機関が一元的に管理するべきです。
また、情報漏えいが関係者の人生を台無しにすることを考え合わせると、その罰則は、相当厳しいものが求められると思います」
このように内山弁護士は指摘していた。実際に法制化を進めるためには、今回の「素案」を受けて、さらに議論を深めていく必要があると言えそうだ。