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障害者雇用率の不都合な真実 2.7%は妥協の産物、「代行ビジネス」を責められるのか

障害者雇用率の不都合な真実 2.7%は妥協の産物、「代行ビジネス」を責められるのか

障害者を一定数雇わなければならない義務を定めた雇用促進法で、民間企業は2.3%の法定雇用率を課せられている。雇用率を上げようと、本業に関係のない業態で雇う「代行ビジネス」も問題視された。

「障害者の経済学」を著した慶應義塾大商学部の中島隆信教授は、この法定雇用率のそもそもの計算方法に疑義を呈する。「官僚が鉛筆をなめて作っているだけの数字が一人歩きしている。多様性が叫ばれる中、企業は国に尻をたたかれて障害者雇用をやるようでいいのか」

3年後には2.7%まで上昇することが決まり、企業側はますますの努力が必要となる。自身の息子も身体・知的障害があり、長年にわたって問題に取り組んできた中島教授に、これからの障害者雇用のあるべき姿について聞いた。

●厚労省の統計だけでも管轄はバラバラ

厚労省によると、障害者の総数は5年に一度の「生活のしづらさなどに関する調査」の推計で示されている。最新の2016年は936.6万人(全人口の約7.4%)で、内訳は身体436万人、知的108.2万人、精神392.4万人だという。

障害者手帳の交付数は福祉行政報告例(身体・知的)、衛生行政報告例(精神)で毎年、全自治体から吸い上げた数を発表するが、重複などを含めた「生活しづらさ調査」の推計とは数字に大きな開きがある。他にも3年に一度の「患者調査」などの数字もあり、明確で統一的な数字がないのだ。

「ただでさえ国勢調査や労働力調査など国の統計自体に、国民の協力が年々得られなくなっています。同じ省庁がつくるデータなのに、こんなバラバラな整備では証拠に基づく政策立案などできないでしょう」(中島教授)

15年前に内閣府で統計委員会室長を務めた際に中島教授は、国勢調査に障害者のフラグを付けるべきだと主張した。しかし「国民の理解が得られない」と拒否されたという。

法定雇用率は2018年は2.0%、2019〜2020年は2.2%、2021〜2022年は2.3%(厚労省「障害者雇用状況の集計結果」より)

●法定雇用率は、ちょうどよく調整した「妥協の産物」?

母集団の数字もままならない中で定められている障害者の法定雇用率は、現在2.3%。各企業はこれに従って、人数合わせに躍起となっている。法定に満たなかった場合、納付金を出さなければならず、最悪の場合、社名を公表されるペナルティーもあるためだ。

では、この2.3%という数字は、国全体の雇用者数や障害者数で見た時に妥当な数字なのだろうか。中島教授は、一切の障害者差別がないとする労働力率均等の原則で計算すれば、現状の2.3%ではおよそ足りず、2倍以上になると説明する。

単純計算すると、5.3%になる。障害者の中には働きたいけど働けないといった事情を抱える人がいるため、一般の労働力率とそのまま比較することは難しいかもしれないが、倍もの差があるのだろうか。また「失業している障害者数」は明確なデータがない。試しにハローワークへの有効求職者数で比較してみる(2017年度「障害者の職業紹介状況等」より)。

今度は目標値よりも、だいぶ小さくなってしまった。つまり2.3%は実態に裏打ちされたものというより「達成するにはちょうどいい線」を探して計算した目標値と考えられる。中島教授が注目すべきは「全障害者数ー(常用+失業)=働く意思のない障害者数」だという。

本当は働きたい障害者が実際にはもっといるなら、失業者数が増え、分子は大きくなる。そうすれば、法定雇用率は自ずと上がる。一気に2倍になっては、国も企業も達成が困難になり不都合だ。「妥協の産物」となったのが法定雇用率だと中島教授は説明する。

●人「が」ではなく、人「に」合わせる働き方へ

法定雇用率は、平均して達成すればいいわけではなく、全企業がそれぞれ達成するよう求められる。企業よりも高い雇用率を求められる官公庁にいたっては、水増し問題が発覚したこともあった。中島教授は「補助的な間接業務をつくって無理くり雇っている場合が多く、効率的ではない。本来は実体経済のほうで戦力になってもらうほうがいい」と指摘する。

そんな中で農園で働く形態を編み出した「代行ビジネス」が出てきたのも、需要がある以上は、仕方のないことだったと振り返る。「厚労省が彼らをけしからんと言ってみても解決しません。障害者雇用をコストと考えるのではなく、強みに変えていく経営者の発想が大事になってくるでしょう」

中島教授は、既存の障害者施設を活用する「みなし雇用」を提案している。企業が、ある間接業務を専門とする事業所に発注し、量に応じて雇用率にカウントするという仕組みだ。1人分いかないまでも0.5人分でも仕事が生まれればいい。発達障害など多様な働き方を柔軟に受け入れることができる形だと説明する。

期待するのは、働き方の改革だ。これまでの日本企業は、オールラウンドプレーヤーとして人が企業の働き方に合わせる形だった。それを、人の特性に合わせた働き方にすることは障害者雇用で肝要だという。例えば長時間勤務が難しい精神障害の場合、断続的に生産性が高くできるように仕事を組み替えるなど。こうした雇用の工夫は、高齢者や出産・育児後の人たちの働き方にもつながるはずだ。

中島教授は著書でこう強調する。「障害者を真の意味での戦力に活用できれば、一般の社員を戦力にするのはたやすいこと。障害者雇用の推進こそ『働き方改革』の模範事例となる」

【プロフィール】
中島隆信(なかじま・たかのぶ)1960年神奈川県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業、2001年に博士(商学)、商学部教授。2007年8月~2009年3月、内閣府統計委員会担当室長を務める。近著に「お寺の行動経済学」「新版 障害者の経済学」「高校野球の経済学」(すべて東洋経済新報社)「『笑い』の解剖」(慶應義塾大学出版会)など。

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