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入管収容者にカビたパン、虫の入った弁当 改善されない対応に支援者たちが焦り
入管収容者を支援する織田朝日さん(左)と柏崎正憲さん

入管収容者にカビたパン、虫の入った弁当 改善されない対応に支援者たちが焦り

コロナ禍で入管に収容されている人の数は減るものの、収容施設内でケガを負う人、体調不良を訴える人があとを絶たない。

米国人のマーク・ゴードンさんは、東京出入国在留管理局(品川)に収容されていた2020年6月、職員から受けた暴行で腰骨を損傷したとして、2021年11月に国を提訴した。

また、2021年8月下旬には、ブラジル人のフジナガ・レアル・ジャルデルさんが、東日本入国管理センター(牛久)で警備員にヘッドロックをかけられ、首にねんざを負った。

さらに、スリランカ人のジャヤンタ・クマラさんは、職員によって、車椅子から引き離されようとした際に転倒して、1時間半も車椅子に足を挟まれたままの状態に置かれた。

これまで多くの人から人権侵害を指摘されて、少なからぬ犠牲者が出ているにもかかわらず、収容者に対する入管の処遇に変化は見えない。

収容されている人たちへの面会活動を長期にわたって続けている支援者は、この状況をどう見ているか。(取材・文/塚田恭子)

●この十数年、入管の対応は本質的に変わっていない

「SYI収容者友人有志一同」メンバーの柏崎正憲さんは2009年から、入管による収容者への人権侵害に反対行動を続けている。

入管庁の通達を受けて収容期間が長期化し、医療問題や過剰な暴力の問題が明らかに増加したこの4、5年、集中的に面会している柏崎さんは「活動を始めた当初と現在で、収容施設の状況や職員の態度に何か変化はあったか?」という問いにこう答える。

「本質的には変わっていないと思います。官僚的に、上の指示に従うイエスマンの職員が大多数で、一部に、収容者の首を思い切り抑えつけるような制圧に慣れている暴力的な人や、こっそりと収容者に親切にする人もいます。

問題は、一人ひとりの職員がどうこうという話ではありません。それ以前から、収容は段階的に厳格化されていましたが、2018年2月28日、入管内で『体調不良を訴えても、本当に危ない様子じゃない限り、外に出すな』という趣旨の通達がありました。

これは、収容者が体調不良を訴えても、『軽い不調なら薬だけ出しておけ、大げさに話していると思え』という意味であり、入管用語でいえば『詐病』として扱えということです。

そうなると、現場の職員はどうなるか。たとえ(訴えた人が)本当につらそうだからと上に報告したところで、扱いは変わりません。自分が何を言っても変わらないのであれば、収容者に対しても『我慢するしかないよ』という態度になっていくんです」

だが、閉ざされた部屋に長く収容されれば、それまで健康だった人にも気鬱が生じ、精神だけでなく、身体にも不具合が出てくることを多くの支援者は見てきている。

「収容が長引くほど、たとえ具体的な診断名がつかなくても、拘禁反応は出てきます。いつ、外に出られるか、わからない状況が続くことで心の状態が悪くなり、食事もできなくなってしまう。

でも、入管は彼らに拘禁反応が出ているという認識を持とうとしません。だから食事やその他に意見をいう人に対して、『外に出たくて、あれこれ文句をつけているうるさい奴』という見方になるのでしょう」

●職員はかつて自分たちを「先生」と呼ばせていた

同じくSYIのメンバーで、『ある日の入管 〜外国人収容施設は“生き地獄”〜』などの著作を通じて、入管の収容者への処遇をリポートしている織田朝日さんも、彼女が入管問題に関わってきたこれまでの間、職員の態度は基本的に変わっていないと言う。

2004年に東京・渋谷区の国連大学前で、クルド人家族が座り込みで抗議をしているのを知ったことを機に支援を始めた織田さんは、自身が頻繁に面会活動をおこなうようになった経緯について、こう話す。

「当初は外で、クルド難民を支援していましたが、民主党政権に代わった2009年から、入管に収容される人がすごく増えたこともあって、面会活動をおこなうようになりました。

なぜ2009年に収容が急に増えたのか。正確にはわかりませんが、民主党政権に変わる前に送還を進めようとしたとか、入管のやり方を新政権に示すためとか、そういう説があります。とにかく捕まる人が多かったことは事実で、私の友人、知人もたくさん捕まっています。

面会を始めた当初、職員の対応はとても高圧的でした。そのころは日本人の支援者も少なかったし、入管は外国人を人間扱いしていないので、その支援者に対してはなおさら、という感じ。私もよく受付の人に怒鳴られましたね。おそらく上司の方針によるのか、わりとその年によって職員の対応は変わるのですが、ここ数年は慇懃無礼という感じです」

職員の態度について、二人はこう続ける。

「2010年ごろの尊大な態度と比べると、だいぶ良くはなったと思います。今は『担当さん』と呼ばせていますけど、当時、職員は自分たちのことを『先生』と呼ばせていましたから」(柏崎さん)

面会に行ったことのある人なら周知の通り、今、職員はアルファベットの文字と数字が入った名札をつけている。だが、ふたりが面会を始めたころは、それもなかったという。

「私たちは名札をつけろと訴えていたんですけど、気づいたら番号になっていました」(織田さん)

なぜ職員は、自分の名前を知られないようにしているか。柏崎さんが「そんなに恨まれるようなことをしているんですかね」と言うように、「あとでやり返されるのを恐れて」名前を知らせないのであれば、それは彼らに、収容者の恨みを買うような振る舞いをしている自覚がある、ということでもある。

●カビたパン、虫や髪の毛が入っていたお弁当

2021年11月15日の時点で、全国の収容施設にいる外国人の数は134人。牛久は20人、品川は43人と、コロナ前と比べて激減している。だが、松葉杖を使っている人、車椅子で来る人、人生で初めて精神安定剤を飲んでいる人など、支援者の面会に同行していて気になるのは、彼らの体調だ。

「2021年2月末に品川でコロナのクラスターが起きたときは、職員がだいぶピリピリしていました。それで暴力(制圧)の頻度が増して、ちょっとしたことでケガをさせられたということもあったと思います。

あと、やはり食事がよくないんでしょうね。入管側は栄養を考えている、栄養価はあると言うけれど、職員もまずいと話していますし。実際、食事をして蕁麻疹が出る、便秘になると、不調を訴える人がいるように、食事の影響は大きいと思います。

横浜でカビたパンが出たとか、東京でも虫や髪の毛が入っていた、腐ったものが出たという話も聞いているので、おそらく長く置きっぱなしにしたものを出しているのではないでしょうか」(織田さん)

コロナ以降、三密を避けるため、仮放免が出されるようになっている。にもかかわらず、なぜ、自分は外に出ることができないのか――。収容が長引くほど不満や理不尽を感じることも、精神面から体調を損なうことに結びついているのでは、と柏崎さんは言う。

「食事などに意見を言う=自分たちに従わない=反抗的な態度と職員はみなし、懲罰室に隔離する、となるんです。収容者がそれを嫌がると、さらに懲らしめてやろうと力でねじ伏せようとする。それが彼らの本質的な態度です。

法律用語でいう『制止』は、秩序を乱す人を抑止するために実力行使するという判断ですが、入管の場合、それが過剰なんです。裁判を起こす人がいると、証拠として動画が出るのでわかりますけど、職員は反抗できない人の首や身体を、本当に全体重をかけて抑えつけている。

制圧をするタイミングも、行使する力も過剰で、法律が定める目的に反して制圧していると思います」(柏崎さん)

また、入管法の問題について、柏崎さんはこう続ける。

「技能実習生や特定技能を見ればわかるように、入管は在留資格を少しいじって人をどう入れるかを検討し、日本の経済事情に合う範囲で人を出し入れしているだけです。送還に関わる手続きは厳しくしているし、僕が入管問題に関わって以降を見ても、収容についての法律は一切変わっていません」

●制度を変えなければ、変わらない

支援者や関係者が一様に口にするように、柏崎さんも織田さんも、制度を変えることなくして収容の問題が解決することはないと言う。では、制度がどう変わっていくべきなのか。

「私は収容しない方法もあると思っています。在留特別許可(在特)も出すべき人には出せばよいし、逃亡の恐れがない仮放免者や、難民の可能性が高い人を収容する必要はないでしょう。

そもそも収容施設は送還者を一時的に留め置くところで、長期収容する場所ではないわけで、今は本来の在り方からまるで脱線しています。

もともと難民を審査する場所ではない入管が、難民審査をしていることも問題です。誰が審査するのかを含めてきちんと話し合ったうえで、正式に難民を審査する機関をつくることが必要だと思います」(織田さん)

「与党は入管の収容を制限するような法改正など、もちろんしません。むしろ外国人を効率よく排除しようという人が多数派です。

今、問題なのは在特が出にくくなっている点です。2000年代は非正規滞在者を減らすために送還する、あるいは在特を出すことで、30万人いた非正規滞在者を6万人台(2012年)まで減らしました。この選別作業以降、次のフェーズにいこうと、入管は残った人に圧力をかけて帰国させるという方針に転換し、2010年代以降、在特が非常に出にくくなりました。

日本の場合、個別審査しかなく、今の法律では入管の胸先三寸で事が運びます。法律をよい方向に変えたいですが、残念ながら情勢は厳しい。それでも入管側が、自分たちが批判されるのを見て、法律の運用方法を見直せば、多少の変化が生じる可能性はあるだろうと。そんな思いで活動を続けています」(柏崎さん)

2021年3月、スリランカ人女性、ウィシュマ・サンダマリさんが収容施設内で亡くなったことを機に、入管の在り方や収容者への処遇について、市民の関心はこれまでになく高まった。

だが、世論が動いても、入管は変わっていないし、変えようという気配もない、と織田さんは感じているという。

「2021年に限っても、入管は収容者への処遇を改善するようなことを何も言っていません。謝罪にしても上っ面だけのもので、ウィシュマさんの騒ぎが収まるのを待っているように見えます。

今年せっかく入管法改正案を阻止したのに、来年の通常国会でも、また改正案は上程されるし、一部のマスコミでは収容者に対するネガティブキャンペーンも始まっている。どうしたらいいんだろうと思いながら、私たち支援者は活動しています」(織田さん)

それでも世間の関心が上がったことは、本当によかったと思うと、織田さんは続ける。

「誰かが見ていないと、入管は好き勝手をするので、市民の目は必要です。市民の監視が大きくなれば、彼らもやりづらくなるので、もっともっと目を向けてほしいですけど、ここまで世間の関心が寄せられたことには希望を感じています。

まだあと数年、私たち支援者にとって苦しい時期が続くかもしれないけれど、いずれ変わると確信しています。ただ、収容者や支援している人たちが年を取って亡くなってしまうと困るので、急ぎたい気持ちはあって。そういう意味で、焦りはありますね」

**【プロフィール】 ** かしわざき・まさのり/「SYI収容者友人有志一同」メンバーとして、2009年から入管問題にかかわる。論文に「難民条約締結前における日本の入国管理政策と在留特別許可」(『平和研究』第48号)がある。 https://pinkydra.exblog.jp/

おだ・あさひ/外国人支援団体「編む夢企画」主宰。2004年から入管問題にかかわる。著書に『となりの難民』、『ある日の入管 〜外国人収容施設は“生き地獄”〜』などがある。 twitter.com/freeasahi

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