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「この無能、税金泥棒」住民からの悪質電話に苦しむ自治体職員、1日中鳴り続けトイレにも行けず
取材に応えてくれた女性(編集部で一部加工)

「この無能、税金泥棒」住民からの悪質電話に苦しむ自治体職員、1日中鳴り続けトイレにも行けず

税金で飯食っているくせにーー。とある県庁で正規職員として働く30代の公務員女性は今夏、新型コロナワクチン行政の部署に配属された。そこで待っていたのは、住民から寄せられる大量の苦情電話。毎日のように「税金泥棒」「無能」などの言葉を浴びせられたという。

「1日中電話がかかってきて、トイレにもなかなか行けないほど。長いと1時間半くらい解放してもらえませんでした。巻き舌で恫喝めいたことを言われたときは手が震えました」

質問対応のコールセンターもあったが、所属部署に直接かかってきた電話には対応せざるを得ない。本来業務にも支障が出て、毎晩遅くまで働くことになった。

公務員の給料は確かに税金から出ている。しかし、その仕事自体は誰かがやらなければならないものだ。税金を払っていれば、はたして公務員に何を言っても良いのだろうか。

●「いじめ」を楽しんでいる

ワクチンをめぐっては会場の予約が取りづらいなど、全国で不満が噴出した。命がかかっているのだから、一定の批判は免れないだろう。しかし、怒りの表明も度を過ぎれば、ただの攻撃でしかない。

女性によると、男性から怒鳴ること自体を目的としているような電話が多くかかってきたという。

「ワクチンの供給など国がコントロールしている部分もあるので、どうしようもないことが多々あります。ただ、県民に不便をかけているのは事実なので、謝るしかないですよね。

私たちが反論できないのを分かったうえで、怒鳴ったり、理詰めで追い込んできたりする電話が多いように感じました。今は職場などで人に大声をあげられないじゃないですか。だから、“ノーリスクでできるいじめ”だと思って、内心楽しんでいたんじゃないでしょうか。本当につらかったです」

女性であるゆえか、「お前は職員なのか」「バイトだろ」などと侮られることも珍しくなく、電話口で「ズボン脱いでもいいかな。脱いじゃった」などと話す男性もいた。セクハラ電話のあとは、決まって気分が悪くなった。

クレームを繰り返す人もいて、「毒入りワクチンを県民に打たせるな」と毎日連絡してくる「反ワクチン派」もいるという。

●「不満やストレスのはけ口」にされている

顧客からの暴言や暴行などカスタマーハラスメント(カスハラ)が近年問題になっているが、公務員についても地域住民からの悪質クレームが問題視されるようになっている。

地方公務員や公共民間労働者らでつくる労働組合「自治労」は、2020年10〜12月に組合員ら約1万4000人にカスハラについてのアンケートを実施した。今年8月に発表された調査結果によると、過去3年間に迷惑行為や悪質クレームなどを受けたことがある職員が約半数(46.0%)いたことが分かった。

このうち眠れなくなった人が21.6%おり、休職や退職を考えた人もそれぞれ7%強いた。少数ではあるが、うつ病や統合失調症などになった人(2.1%)、休職した人(0.6%)もいた。

なぜカスハラが起きるのかを尋ねた質問では、「不満やストレスのはけ口」(61.1%)がもっとも多かった。冒頭の女性のように、住民から「サンドバッグ」にされている職員は少なくないようだ。実際、悪質クレームを受けた経験のある職員の9割が、特定の住民から悪質クレームを繰り返されているとしている。

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