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「おにぎり早食い大会」窒息死で遺族提訴 「参加者の自己責任」どこまで問えるのか 裁判の行方は
こぶし大のおにぎり(イメージ、撮影は編集部)

「おにぎり早食い大会」窒息死で遺族提訴 「参加者の自己責任」どこまで問えるのか 裁判の行方は

JA東びわこ(滋賀県彦根市)による2016年開催のイベント内企画「おにぎりの早食い競争」で、参加者の男性(当時28)が喉を詰まらせて死亡したのは、主催者側の注意義務違反に原因があるとして、両親が同JAを相手取り、約8300万円の損害賠償をもとめて裁判を起こした。

京都新聞(1月31日配信)の報道によれば、1月30日、第1回口頭弁論が大津地裁であり、同JA側は請求棄却を求めたという。

男性は、おにぎりの早食い競争に参加し、最後の5個目を口に入れて、手を上げて完食を訴えたが、司会から「まだ口に入っているので飲み込んでください」と促された後、喉に詰まらせ、呼吸不全などで3日後に亡くなったという。

事故当時の報道(産経新聞WEST・2016年11月22日配信)によると、同JA側は、安全対策として、おにぎりを食べやすい大きさ(こぶし大)にしたり、お茶を用意したりしていたという。

新型コロナでイベントが自粛されたため、今では目立たないが、2020年以前には各地で「早食い競争」の催しは開催されていた。どんな場合に、主催者の「注意義務違反」は認定されるのか。渡邉優弁護士に聞いた。

●参加者の「自己責任」と必ずしも言えるものではない

ーー「おにぎりの早食い競争」で起きた事故は自己責任?

報道の内容だけでは、事実がわからないところもあるため、一般論としてコメントします。

早食い大会は、窒息等の危険性をはらんでおり、事故のリスクが高いイベントといえるでしょう。参加者も事故のリスクがあることは多少なりとも認識していたと考えられます。

ただし、仮に主催者の責任を問わないことに同意させる参加同意書(免責同意書)にサインしていたとしても、全ての責任について自己責任となるとは限りません。

早食い大会の主催者は消費者契約法の「事業者」に該当する可能性があります。

主催者と参加者との間に契約があるという前提に立つと、事業者の全責任を免除するという合意は無効とし(消費者契約法第8条第1項第1号、第3号)、事業者に故意または重大な過失がある場合に事業者の責任の一部を免除することも無効です(同法第8条第1項第2号)。

なお、消費者契約法の施行前になりますが、スキューバダイビング中の事故を自己責任とする免責同意書の有効性について、人間の生命・身体に対する損害の限度で公序良俗に反して無効と判断された裁判例もあります。

ただし、その参加同意書の存在や内容によっては、主催者側の安全配慮義務(事故の発生を防止する安全な配慮をする義務)が軽減したり、過失相殺がなされる等の影響はあるかもしれません。

ーー司会の「まだ口に入っているので飲み込んでください」は、急かしたと言える?

飲み込むまでが完食のルールだとしても、「急かした」と判断されてしまう可能性は高いと思います。

そして、司会の、声の大きさ、トーン、その状況等によっては、「不当な」急かし方ということで、主催者の違法性を強める方向となってしまうこともあると思います。

●開催にあたってどこまで準備する必要があるのか

ーー「安全に配慮している」と認められるために、考慮されるポイントは?

早食い大会ということで、主催者には、主に参加者の窒息に対する防止措置を行ったかという点が考慮されます。

まずは、早食いの対象となる食べ物の性質(粘着性のものか等)や大きさが考慮されるでしょう。

そして、飲み物の提供、事前の体調確認、参加者へのルール等の事前説明、開始直前の司会の窒息等に対する注意喚起、シミュレーションの実施、医療関係者等の配置、救護活動…それらの有無等です。

食べ物を提供するからには、窒息以外でも、食物アレルギーに対する配慮等も必要になるかもしれません。

ーー以上の点を踏まえて、裁判の展望は?

今回ポイントとなるのは、主催者が安全に配慮する義務に違反しているか否か、つまり、早食い大会を主催するにあたって、どこまで準備し、実行しなければいけなかったのかという点と、参加者は自ら参加しているが、どこまで自身で危険を引き受けるのかという点になります。

早食い大会という競技性もあり、主催者も参加者も熱くなってしまいがちなのですが、二度とこのような事故が起こらないように、主催者も参加者も早食い大会については慎重な対応が必要です。

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