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39歳女性、家賃滞納で路上生活に「このまま私、死んじゃうのかな」…あぶり出された日本の貧困
「コロナ災害乗り越えるなんでも相談会」(2020年12月19日、樋田敦子撮影)

39歳女性、家賃滞納で路上生活に「このまま私、死んじゃうのかな」…あぶり出された日本の貧困

私たちが経験したことのないコロナ禍は、これまで見えてこなかった、あるいは見ようとしなかった貧困、格差の問題をあぶりだしている。従来なら姿を見せなかった若い世代や女性たちが炊き出しの列に並び、路上で生活しているのだ。

福祉事務所や役所が閉庁したこの年末年始、寒風吹く都内の公園に大きな荷物を抱えて、ベンチにひとり座る人もいる。可視化できるようにまでなった貧困に打つ手はないのだろうか。(ルポライター・樋田敦子)

●キャバクラ「しばらく休んで」…4月以降、シフトはゼロ

東京・日比谷公園で12月19日に行われた「コロナ災害乗り越えるなんでも相談会」(全労連など20団体が連携して主催)には、52人が訪れた。おにぎりや米などが入った袋は400食用意していたので、来訪者は予想していたよりも少なめだったようだ。

「渋谷でチラシをもらい食品を支給してくれるというので、それで来てみた」(80代、女性)という人もいたが、相談にまで臨んだ人は、切羽詰まっている人が多かった。

「困っているのはお金。仕事が減ってやっていけない」(68歳、男性)

「20代の頃から派遣やアルバイトで仕事を転々としてきた。今月まで派遣で事務作業をしていたが更新されず無職になった」(45歳、男性)

さいたま市内のキャバクラで週4回ほど、バイトをしていた男性(35歳)は、図書館に置かれていたチラシを見て、日比谷公園に出向いたという。

4月に店から「しばらく休んで」と言われて以来、シフトが入らなくなった。頼れる家族はおらず、支援団体の力を借りて生活保護につながったが、仕事をしようにも求人がない。フリーペーパーで職を探して連絡を取るが断られてしまい、生活費は節約して日々過ごしているという。

「サポートしてもらっている人から、“生活保護は税金、外食はだめ、自炊しなさい”と言われます。自分なんか生きる価値があるのかな。消えたほうがいいのではないかと思います。いつ行動にうつさないか不安です。政府は困窮者にきちんと支援してほしい」

そう希死念慮を口にし、仕事探しの必要性を訴えた。

● 「テレワークできるのは大会社だけ」

困窮を訴える女性たちの声が聞こえ始めたのは、緊急事態宣言が発令された4月7日前後から。特に飲食、宿泊などのサービス業の女性が中心だった。

「テレワークができるのは大会社。ホテルで、有期の契約社員で働いている私たちは、不安を抱えて仕事をしていましたが、ついに解雇に遭い無職に。夫も自営業で、教育費のかかる子どもふたり抱えてどうしたらいいのかと本当に将来が心配です」(45歳、派遣)

それでも7月に夫に持続化給付金が入り少しは落ち着いたが、ハローワーク通いするもなかなか正社員の仕事はない。

「ちょうど契約が終了したので、転職のタイミングで、4月にハローワークに行ってみると、それまでとは比べものにならないくらいの人があふれていました。当たり前ですが、少しでも条件のいいところに人が殺到し、仕事は3カ月決まりませんでした。年齢もネックになり、今は貯金を取り崩してパート収入で暮らしています」(53歳、女性、単身)

8月には、1カ月の家賃を滞納しただけで住んでいたシェアハウスを追い出され、路上生活を送っていた女性(39歳)に出会った。コロナで勤務先は自宅待機になったが、住むところがなく路上に出ざるをえなかった。

「路上生活はいつ襲われるか分からず、本当に怖かった。空腹を抱えて、このまま私、死んじゃうのかなと思いました。これまで仕事もダブル、トリプルワークをしてきて、一生懸命お金を稼いだ。一方で行きたい海外にも行ったから、このまま死んでもしょうがないなとも、思ったんです」(39歳、女性)

彼女は支援者につながり、生活保護を受給しながら住まいを確保。新しい仕事先も見つかり、生活保護から抜け出せる日も近いという。

●ホームレス女性の殺害事件は「他人事ではない」

ショッキングなニュースも飛び込んだ。11月21日の早朝に起きた、渋谷ホームレス女性の殺害事件だ。野宿をしていた60代女性の路上生活者を、近所に住む46歳の男性が撲殺した。

この事件を聞いた団体職員の60代女性は、「明日は我が身。他人事ではないと思いました」と話す。彼女は両親、兄弟をみおくり、単身になった。60を超え、現在は、定年延長で1年ごとに契約を更新している。

「独身でしたし、親と一緒に生活していたので、結構貯金も持っていました。ところが10年前にガンを患い、貯金は3分の1以下になりました。今ある財産は、築45年の古家だけ。

このまま仕事が延長されればいいのですが、いつ打ち切りになるかもしれません。年金だってそう多くはない。ホームレス女性の殺害は、何年か後の自分を見ている感じでした」

総務省の労働力調査によれば、今年4月の女性雇用者数は、3月から約74万人が減少。男性の2倍に当たる。さらに10月の自殺者は2153人のうち、女性は851人で、前年同月比でみると、82・6%増になっている。11月は1798人と減少し、12月もさらに減少すればいいのだがーー。   2017年の東京都のネットカフェなどに泊まる「住居喪失不安定就労者」の調査によれば、80・9%が生計を立てるための仕事をしており、そのうち半分が派遣、契約、パートの不安定就労者。住居喪失の理由では、「仕事を辞めて家賃等を払えなくなった」が32・9%。平均月収は11・4万円で「住居入居初期費用(敷金)の貯蓄の難しさ」を62・8%が挙げている。

安定した住まいがあればいいが、その費用を貯めることができない状況に置かれた人たちがいる。つくろい東京ファンドの稲葉剛代表理事は、このときよりも現在のほうがさらに深刻な状態に置かれていると予想する。

「リーマンショックのときは、2008年秋から翌年の春まで半年ほどで回復しましたが、コロナは、もうすでに緊急事態宣言から8カ月。特に10月以降、当事者も支援者も、終わりが見えずに疲弊しています。自助共助は限界です」

●厚労省が異例の呼びかけ

12月22日、厚労省は異例ともいえる呼びかけを行った。「生活保護を申請したい方へ」というWEBページhttps://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/seikatsuhogopage.html)を設け「生活保護の申請は国民の権利です。生活保護を必要とする可能性はどなたにもあるものですので、ためらわずにご相談ください」と明記したのだ。これは過去に例のないことだった。

役所の窓口では、コロナ禍で困窮している人がいるにもかかわらず、生活保護申請者を追い返す“水際作戦”が相変わらず行われている。たらい回しにされ、相談だけして申請までたどり着けないのが現状だ。

私は、生活保護申請に同行したことがあるが、たまたまその区は、申請書を出してくれ、申請までたどり着いた。

「区によってさまざまであってはならないのですが、申請までたどり着けないところもある。普通私たちが役所で、住民票や印鑑証明などの手続きをする場合、用紙は見える場所に置いてありますが、生活保護の申請書は、カウンターの向こうに置いてある。相談員が管理していて、申請書記入までたどり着けないのです」(稲葉さん)

そこでつくろいファンドでは、生活保護の申請を希望する人がオンライン上で必要事項を記入すれば、申請書のPDFを作ることができ、最寄りの自治体の福祉事務所のファックスに送信できるWEBサイト「フミダン」(https://fumidan.org/)を作った。

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すでに申請書は全国からアクセスできるが、ファクス送信の試験運用は東京23区限定で29日から始まっている。支援者が同行しなくても、必要事項を書いた申請用紙を持って行き、申請できる意義は大きい。家賃滞納などで困窮している人は、閉庁しているこの年末年始にファックスで申請しておけば、休み明けには福祉事務所が対応してくれるはずである。

「生活保護の利用に対しては、まだまだ心理的ハードルが高く、誤解も多い。扶養照会(福祉事務所が生活保護を申請した人の親族に対して、援助が可能かどうかを問い合わせること)がネックになってもいます。

虐待やDVがある場合は問い合わせをしないことになっており、親族と長年、音信不通だったり、親族が70歳以上の場合なども、連絡しないでよいと厚労省は言っているのですが、あまり知られていません。

このフミダンによって、生活保護利用のハードルが少しでも低くなり、生活保護が必要な時に使える、普通の制度になるといいと思っています」

相談にやって来た若い世代は「生活保護までは……」と二の足を踏む人も多いが、いったん生活保護で生活を立て直し、それから再挑戦してもいいのではないだろうか。

【プロフィール】樋田敦子。ルポライター。明治大学法学部卒業後、新聞記者を経てフリーランスに。雑誌でルポを執筆のほか、著書に「女性と子どもの貧困」「東大を出たあの子は幸せになったのか」等がある。

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